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アナザーエンド 実道

甥彦は宍戸を指差し合う。 「しょう、しょうぞうが、と、ししでに、ししでにキスはやめろお」 実道が頭を抱える。 「ししでの言うことを聞くななああ。しし、しでは僕のものだ、だ、だ」 深港の姿をした実道の霊と、宍戸と、甥彦と、一体誰の言うことが信用できる? 「……実道」 俺は実道の言うことを信じるよ。 俺は宍戸の腕をすり抜け、静かに実道の元へ歩み寄った。 「ヌマ君!」甥彦が鬼の形相をして俺に叫ぶ。 宍戸と相上が険しい顔をしている。 「道也!」「道也!」 「みみみ、みちや……」 「フフ、フハハハハハハ!!」 二人と対峙していた甥彦が笑った。 「もう邪神は目覚めるんだ!!遅かったね、相上!宍戸!」 甥彦は投げ捨ててあったローブを体に巻いて、勇ましく唱えた。 「バズビ ・ バザーブ ラック レク キャリオス ・ オゼベッド ナ チャック オン エアモ エホウ ・ エホウ ・ エーホーウー チョット テマ ヤナ ・ サパリオウス……邪神復活!!」 激しく山全体が震動した。大地震だ。 地下の自分達が居る場所まで、音を立てて揺れている。 「みみみ、みちや!こい!」 実道が俺の腕を引っ張り、相上が塞いでいた階段を「おっおいっ!」相上を思い切り突き飛ばし駆け上がっていった。 「ししで……ししで……おい!じゃまをするするな……!こうじ……!じゃまするするな………!」 地上に上がると、山の向こう、霧にまかれた向こうに確かに光の巨大な何かが見える。 霧のヴェールに覆われた向こう側に、確かに魔の呼吸音がふしゅうふしゅうと息づいている。 「くっ、くっそ!」 後ろから悔しがる相上が、俺達の後に階段の出口から姿を現した。 「……チッ……遅かったようだな!」 次いで宍戸が現れた。その手には、甥彦の切断された首を持っている! 「うわっ………!」 俺は思わず引いた。 口から血を垂らし目を閉じた甥彦の頭。宍戸がやったのか。 「どうする!?オリオル……!」宍戸が相上に訊ねる。 「…………俺とお前で封じ込めるっきゃない!」苦々しげに相上は答える。 「どっちみち生半可な復活の仕方だから、弱っちいだろう。あいつを蘇らせるには、何百人分の魂は引き換えに必要だからな。ホラ!喰え!邪神!これがお前を復活させようとした召喚主の首だ!」 宍戸は邪神に向かって甥彦の首を投げつける。いや、魔力を使ったのであろう。 恐ろしい飛距離を瞬く間に邪神目掛けて飛んでいく。 「アパレス・エイヴィティ・コフュー・ディタイ・レク・ノクヴュラ」 何がしかの呪文を宍戸が唱えた。宍戸をとりまく風が変わる。 すると投げつけた甥彦の首が内側から光が発する様に漏れ、邪神を包み込むように禍々しい怪しい光に見舞われた。 カッ!!と雷が落ちたように強烈なフラッシュライトが遠くの邪神と学園全体を照り付け、俺が目を開けると邪神の影は影も形もなかった。 森があり 空は灰色に曇りながらも、通常の山の空をしていて、辺りは静かだった。 「さぁ、道也。肖像画に……お前の力が必要だ」 宍戸が俺達を見直し、滲みよろうとする。 そうだった、こいつら二人は俺に何かをさせたいのだった。 深港の体をした実道が庇おうとするが、ニンマリと妖しく笑う相上と宍戸の二人には、立ち向かえない迫力を感じてしまう。 先程邪神を吹き飛ばしたような力に抗える何かが俺にあるものか。 こいつらは人間じゃなかったのか……!? 黒い霧が現れた。 「!?」 黒い霧からは緑の太い触手が現れ、素早く相上と宍戸の二人へと伸ばし、身体を掴む。 「なっ!なんだ!これはっ!!」 「邪神か!?」 ボタボタボタと、宍戸の口からは血が流れ出ていた。 「がっ……はっ……!!」 腹部に触手が穴を穿け刺さっているのが見える。 「……………ダリオ…………ま………すま……………ない…………」 苦しそうに声を吐き出す宍戸は膝をついて倒れ息絶えた。 呪文を唱え魔力を使おうとするそぶりを見せ抵抗をはかる相上だが、物凄い力で一気に黒い霧へと引きずり込まれる。 「くうっ………主を、蘇らせれずに……っ!!」 とても悔しがる声が聞こえてくる。 相上を飲み込んで静かになった真っ黒い霧は、実道と俺の二人へと標的を移し替えた。 俺はとにかくこの窮地を神へ祈った。 「みちや………みちや………」 声がする。 まぶたの向こうは、光に満ち溢れている。 俺はゆっくりと目を開ける。 「道也、気がついたか」 目を開けたら光の眩しい世界に、実道が立っていた。 「さね、実道……」 俺は死んでしまったのか? 「よく頑張ったな、道也……」 実道がフンワリと羽の様に俺の身体を抱きしめ、頭をなでる。 「邪神は?」 「生贄の満足に捧げられていない、中途半端なお目覚めだったから、また闇に還ってしまった。闇は闇に」 「実道、助けてあげられなくてごめんよ…………来るのが遅くて…………」 俺は申し訳なくなった。 実道は穏やかな表情のまま、いいよと言うように首を左右にふり、抱き止め俺の頬に自分の頬を寄せた。 「道也!長生きしてくれよ!俺の分まで!空から見守ってるからな!」 そう言って明るく笑う実道は足が浮かび上がり、俺の手をすり抜け、俺の手の届かない距離へと飛翔していった。 実道の背中には白い翼が生えているような気がした。 「道也!」 そこで目が覚めた。 目の前には泣き腫らした顔の母親と父親、それに転入前の学校の友人達がいた。 開かれた窓から風がフワリと入り込む、病院の白い病室だった。 学園はあれから大騒ぎになった。 実はあれだけの殺人事件があったのに、警察が一回も呼ばれてないことが発覚し大慌てとなった。教師達も責任の所在も問えない程、皆が皆、催眠にかかったように記憶の朧げな状態でいた。 安倉野学園は様々な意味で話題性が高く、 瞬く間にニュースは全国紙へと広まり、学園の怪奇は都市伝説と化した。 俺が警察に教えた通り、山の向こうからは白骨化した首が見つかり、歯の治療痕から、実道の白骨だとすぐに判明した。 何でおまえが知っているのかと訊ねられたが、理事長が教えたと説明して、同時に自分の理事長に受けた身体の傷も見せた。 学園に残された甥彦の首無し死体や、宍戸の腹部穿孔死体は、通常の殺し方じゃ説明のつかない死に方ばかりで、それこそ森に住まう闇の猛獣や悪魔の仕業なんだと、人々の噂に強く刻みつけた。 実道の両親は悲しい息子の帰還をとても嘆き、同時に俺に感謝を伝えた。 俺は二人を抱きしめて共に泣いてしまった。 あの学園は、閉校が決まったらしい。 あの大地震で校舎もところどころ崩壊していたし、忌まわしい学園にはそれがいいだろう。 眠りについた学園。 日常に帰ってきた俺も、自分のベッドで安心の眠りにつく。 たまに聞き慣れない声が夢に響いてくる。 ……………………道也、道也、目覚めを迎えよう…………………… と。 だが俺は、起きても夢の中の出来事は単なる夢の中の出来事として、頭の片隅に追いやり、安心したこの朝を迎えるのだ。 真エンディング 実道エンド 『目覚めよと呼ぶ声が聞こえ。』 End

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