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最終話 蘇る記憶
僕は恵人の首に両腕を絡ませキスをした。
そのまま僕の想いを伝えるように舌を絡ませた。
彼も目を閉じて答えてくれた。
僕の後頭部を恵人の掌が撫でた。
「元気でな」
恵人は扉を締め去っていった。
東京に帰るなり、僕は診察を受け入院することとなった。
段々、記憶が明瞭に思い出されてきた。
恵人と僕は恋人同士だったのだ。
大学在学中知り合い、
僕のほうから一目惚れし、
叶うわけないと思った告白を
恵人は別段驚いた表情もせず、スンナリ受け入れてくれた。
しかし恵人とは肌を触れ合うことは一切無かった。
僕に触れようとせず、唇を重ねようとすることすら無かった。
つまり最後に別れた時のキスが、
正真正銘、恵人との初めてのキスだった。
「実家に帰らなくちゃならない」
「えー僕も行きたい!実家実家ー!恵人の実家ー!」
「馬鹿。絶対来るんじゃない。来たら承知してやらないからな
わかったか?」
ドスの効いた声でマジ切れされたのだ。
あの日、あの街の駅に降りたった恵人と偶然かのように鉢合わせた。
「やー偶然だなー。たまったま、用事があってさ」
「嘘つけ!オマエ……いい加減にしろよ……」
彼は本気で苛ついていた。
「絶対ついてくるなよ!」
山道を歩きながら…
恵人は舌打ちながら振り返った。
「おい!好奇心は猫をも殺すんだぞ!殺されてもいいのか?」
かなり怒った口調で怒鳴るので
僕はふざけて
「いいよー」
と答えた。
すると急に恵人の表情からさっきまであった表情が消え失せ、凍りついたような色の無い表情になった。
「なんだ、殺されてもいいのか」
にじりよる。
「それなら……」
恵人はガードレールの刺さってない箇所から俺を突飛ばし崖の下に落とした。
俺は遠ざかる意識の下、恵人がこちらを一瞥し、冷たい眼差しで見下ろしてから去っていくのを覚えているのだ。
記憶も順調に戻っているし、検査の結果問題無しとも診断されて
明日退院する運びとなった。
たまたま病院の売店に売ってある新聞紙を読み僕は驚愕した。
『山奥の豪邸、謎の出火。焼け跡からは四~五人ほどの性別も分からぬ焼死遺体が発見され、また敷地内からは大量の人骨』
見出しにはそう書いてあった。
たぶん、直感的に恵人がやったんだなと感じた。
僕はあの館に、何かを失って置いてきてしまった。
心とも魂とも呼べる何かを。
真END 恵人① 真相と別れ
恵人篇 《完》
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