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第12話 追跡(H有)

金龍は寺にある自室で座禅を組む姿を取り、意識を集中させていた。 姿は白い浴衣の寝間着姿であり、傍には抜け出したばかりの体温の残る布団があるが、休もうと思っても、なかなか休める気になど心底なれず、こうして起き出しては自分にやれることをやってしまう。 それが、金龍の性格なのである。 定児君…… 定児君………… 呼びかけに答えてください……… 昨晩の、捉えた定児の情景を再度キャッチしようと励む。辿るために。 定児君…… 定児君…… 応えてください………! 渉流君も、とっても、心配していますよ……… 。 。 。 。 。 。 自分を呼ぶ声がする、何だろう。 この声は何だろう。 頭が酷くぼんやりするのだ。白靄がかかり、視界だって、なんだか夢を見ているように輪郭線が全て曖昧だ。 俺は一体何をやっているんだろう。 足の間には、誰かの体温がある。 絶えず、動かされ、人肌がのしかかるのがわかる。 人の重みが、自分の肌のすぐ側にあるのが、わかる。 これは何なのだろう。 頬をさすられているのがわかる。 喉を吸われているのがわかる。 「だ……………………れ」 「修聖と呼んでいいって」 フフ、と笑う人肌の主は答える。 誰なんだ………、しゅう………せい…………って………知らねぇよ…………そんな、や…………つ…………。 砂のようにほろほろと溶ける意識の中で、俺は口答えをして見る。 そうだ!俺は定児だ!柏木定児だ! 俺は一体何をやっているんだろう!!ここで!!! バシャ、と冷や水を頭からバケツで被せられたように、急激に意識から靄が抜けた。 「………………………あ」 「………………………!?」 少し驚いた表情をした男が目の前にいる。 こいつは……、こいつは……、機洞!機洞 連だ。 機洞が目の前に裸でいる。 下を見たら俺も裸でいる。 なぜか機洞と密着している。なんなら、足を絡ませている気がする。なんなら、何か入っている気がする。 機洞が眉をひそめて怪訝に問いかける。 「……あれ、もしかして、とけた?」 「っの、のけよ!何してんだよっ」 俺は慌てて声を荒げる。 「何って」 笑っている。 笑いながら引いてまた刺すように腰を動かした。 「……うっ!」 ただならぬ感触が俺の腰から下を貫いた。 これは、この蠢きは、これはもしかしなくても、あれだ。 俺の体を鋤き返し、掘り起こすような動作の正体がいい加減わかった。 「放せって!」 「やーだ、放さない」 からかいふざけるように笑いながらそういって機洞はそのまま性行為の全身の動きを平然と続けようとする。 「うあっ!!」 尻の穴が、凄い不快感!!!トイレいきたくなってくる。 異物感だ。 余りの生理的現象感に足先がむずむず、もぞもぞとしそうだ。 「正直に言えよ。俺とこうなるのに最初ノリ気だったろ、結構………」 そう言いながら機洞は唇を重ねようとしてくる。 「乗り気って何が!!」 顔を背ける。 「捕まった時、胸を弄ると気持ち良さそうにしてましたねぇ、気が」 背けた顔を追って唇を重ねてきた。 あ、だめだ、だめだ、これ。この人とのキスはやっぱり気持ちいいー、浮遊感がある。あの橋の口移しとまるきり同じ感触の………! 機洞が恐らく蕩けてるだろう俺の顔を見て笑む。 「このまま……続きをして……いいですね?」 「ぁ………ふぁ、はい…………。 ……………いや、だめだ、だめだ、だめだ、だめだ、だめだ、だめだって!こんなこと!」 俺は振り払って抗う。 「さあ続きをしましょう、もう一回」 俺の慌てる反応を楽しむかのように、悪戯っぽくクククと笑いながらまた唇を重ねてくる。 「あ………ふぁ、ふぁい………いや!だめだって!機洞サン!」 左手で俺の耳元の髪の毛をかき、触り、掴みながら、唇を絡ましてくる。腰砕けになるような、蕩けるキスの感触とは、まさにこれのことか。 「定児クンは、俺とこうなることで何か困りますか?」 腰の抽送運動が再開される。 「恋愛は自由じゃない?その相手が私でも」 足を持たれ俺の足を腹の上に折り曲げてこようとする。 「………うっ…………う………え 」 「たまたまの巡り合わせ。何も困らないでしょう」 折り曲げて腰を浮かせ、一層深く突き当たりを叩くように突き入れてくる。 「コレッ…………恋愛ぃっ………!?んぐあぅっ!」 必死に下半身に向けられる暴力的な刺激に耐える。 どうしてこうなったんだっけ、えっと飯塚稲荷で、死体があって、捕まって、長屋大王の力が必要だとかで仲間になれよと勧誘されて、機洞に実力行使で、捉えられて、有無をいわさずこれで 拉致監禁路線の話じゃないのこれ、恋愛路線の話じゃなくって、さぁ! 「あ」「ぐう」「は」「っっ!!」「いっ」「ううう!」「あっ!」「うっがっ」 腰が打ち鳴り合う性行使特有音が空中を響く度に、否応ない呻きが口から押し出される。 いや、これは呻きか、それとも。 「簡単なことです。君は私と、ずっとこうしてりゃいい」 「んぐああ!!!」 これが、男から受けるセックスの刺激か。 どこも防御できない、露にさらけだされるしかない刺激。無抵抗を甘んじるしかない状態、つまりこれが、男に犯されている状態。 俗に言う、女にされてる状態ってこういうことか。 モノが俺の肉の間を行き交うのをただ感覚でキャッチするしかない。それしか行動の選択肢を与えられない。 誤魔化したり散らしたりすることはけして出来ぬ感覚の暴力。 ただただ受動を強いられる。 ううう……。  俺、犯されてる………。 「定児クン、おや、君は、今ちょっと興奮したみたい?」 「…………!?…………っ…………っはぁ…………!?」 「あのね、心を隠しても無駄だからね。さわり程度ならどんなことを考えているか、どんな感情の波に襲われているか読めますから」 こ、心迄、読めるのか……。そういえば渉流も喜怒哀楽のフィーリングを対面した相手から伝達されることは可能だと言っていた。 でもどんなことを考えているかなんて、きっと渉流以上の読心だ。 「男に女のように組み敷かれている自分の図を想起して、君は今自分で興奮して快楽を得たみたいだよ、ここが」 そう言ってクスクスと俺の分身を触り撫でる。 「ほら、さっきより硬さを増してる。君の好きなシチュエーションというものがよく分かる」 「…………………ぅっ゙!!…………」 頭に血が集まる。頬がカアッとする。 「隠しても無駄だって。君は俺が好きでしょう。 初めて会った時から。ううん、橋の上の辺りからでかな?」 「…………………………ううっ…!!……」 そうなのか?そうなのか?自分でも分からない…………。 「俺も君が好きです。なら、両想いでしょう。お互いが恋情で結ばれているなら、ここでこういう行為を交わしているのは、極自然な関係ではありませんか?」 耳を触るような、いや、舐められるような響きの言葉に心まで絡めとられていく。 「目の前の現実がまだ受け入れ難いなら、また意識を包んであげるよ。さっきまでのように」 そういって機洞は俺の眼前に手をかざした。 途端にふわりとまた、俺の視界は麻酔点眼薬を注された時のように光が蠢くだけの滲んだモニターと化し麻痺した。 ……………………………………………………… 「ここが白三弥山の……」 青森が辺りを見回す。 渉流と猪狩との三人で、美戸裏神社跡地に来ていた。 跡地は綺麗に更地になっており、石ころが転がる補正されていない土と砂の床だけがただ顔を出している。 「渉流君、ここら一帯に悲痛な残留思念が滞っていますよぉ。しかも、それを覆い隠そうとした痕跡がある」 「負の気が強いな、というぐらいしか入ってこなかったです、俺には」 猪狩が重たそうに口を開いた。 「殺されてますよね、何人か……。そんなイメージがする」 確かに渉流にも人の叫びの念が今日は心に飛び込んでくる。以前来た時は恐ろしく自分が鈍感だったかと思えるくらい、ここまでじゃなかったのに。 人為的に、何かされていたということか。目眩ましを。 目隠しの力が弱まっているというのは一体どういうことだろう。 「渉流君は、ここに定児君がいるんではないかと踏んでいるんですねぇ~?」 「はい。恐ろしいぐらいに何も気配がなかったのが、反対に怪しく思えました。定児は必ず来てるはずなので、多少の何かは残っている筈。そちらのほうが自然だ」 青森は背後の山々を見渡して言った。 「見たところ白三弥山に怪しいところは何もない。混乱も、歪みも。なるほど、それが逆に怪しい」 青森は懐から和紙を取り出す。 そして手早く折り鶴を追った。 「教えてください、折り鶴さん。私達に。ここが作られた空間であるなら、本当の姿を」 そして手元から飛ばす。風も吹いていないのに、風の軌道とは全然違う動き方をし、折り鶴は落ちる気配もなくシャボン玉のように飛んでいく。 三人は折り鶴の後を追う。 折り鶴は何もない野山の脇でぽとりと落ちた。 「真の姿を我らに見せよ。五芒の開眼開景!」 青森は空中に五芒星を描いた。すると指で描いた五芒星が緑に光り、焼き付くように飛ばされた。 かと思うと、周囲の景色がいきなりぐにゃと歪む。 「なるほど、私達が見せられているのはやはり誰かが作ったオブジェクト、舞台のカキワリ装置だったようですねぇ~」 真の風景は先ほどの野辺山の風景とさほど大差ない。 だが林の合間に、扉が地面に埋め込まれてあった。 鉄の重そうな扉が、隠されていたのだ。 「どうします。いきなり入って見ますか……」 「金龍和尚に連絡してから、俺だけでも行きますよ」 渉流が答えた。 「罠かもしれないですよ……」 ふと、猪狩がそんなことを口にした。 確かに、目隠しの効力をわざと弱まらせてあるのなら、自分達を誘い込むための罠かもしれない。 渉流は考えた。青森達は待たせ、自分一人で飛び込むほうが得策か。 「なら俺が一人で入ることにしましょう」

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