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第15話 陰陽 風龍夜行
バーンと鍵盤を叩きつけられるような、悲鳴の反響、反響、反響………。
怨霊の塊が豪風を立て通路を通る度に、校内の照明は次々と炸裂し壊された。
学園祭の出し物の粉砕された残骸が廊下を飛び出し、走る足に次々と踏み付けられている。
パニックになり逃げ惑う生徒達。
「学園の外に逃げろ!」渉流は叫んで教えまわった。
手の構えをつくり、体から弾くように輝く光波を放つ。
「雷剛杵!!」
悪霊達はすぐさまちぎれ飛び八方へと散らされるが、この狭い校内を迷路のように生徒が逃げ惑い、悪霊が飛び交う構造の中で戦うのではキリが無い。
「あらあら、まだ追ってきたの?」
意にそぐわないという捻くれた声色が、電灯の消えた通路をエコーをかけて反響した。
渉流は最早目の前に現れた見鬼姫にまともな受け答えを返そうとは思わない。
睨みつけては、一言も開口せず、自らの金棺飛遊を叩きつけた。
当たった………かに見えたが、ググッと引力が自然に金棺の群れを押し返した。
引力の正体は見鬼姫の袖だった。
見鬼姫の意のままに白袖は生き物の様に伸び、数有る金棺を雁字搦めにしては跳ね返した!
「クッ」
身構える渉流の元に、回転ジャンプをしながら飛び込んでくる人影があった。
「八乙女舞系玉串霊打!!!!」
ひもろぎの可憐だが気迫の籠る一声と共に、宙を翔んだひもろぎの腕からきらと光る玉串の枝が、光のスピードで見鬼姫の方へ直進して突き刺さる。
まるでボーガンの弓のようだ。
「ぎアアアッ」
見鬼姫の胸に直撃した。
そのまま、ひもろぎは、美しい屈む姿勢の着地をする。
「渉流サン!ここは二人でいこう!」
「…………天 、律 」
ひもろぎが渉流の隣に並び着いたと同時に、渉流が新たな、今迄出したこともない構えを取る。
「雷音 !!!!!」
爆撃のような黄色い煙吹く雷が、まるで天から降り落ちたように見鬼姫を狙った。見鬼姫から、耳を塞ぎたくなるおぞましい魍魎の絶叫が迸る。
「ギャアアアアアイぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」
白熱の光が一瞬稲光った後には、何も居なかった。跡形も、無く。
消滅したか、逃げたか………。
「チ………」
「今の凄いね、渉流サン!」
兎にも角にも見鬼姫はこれで戦闘続行は不能になったはずだ。手応えはあった。
「ひもろぎ、お前はあのB棟に行け。俺はこのA棟からこの悪鬼の群れを一先ず蹴散らす」
窓の外から見えるもう一つの校舎を、渉流は顎で指し示す。
いきなりの呼び捨てにカチンとしたのか、ひもろぎは
「ハーイ、B棟に行ってくるよわたる」
と返して、素早く走り去る。
「………む」
渉流は眉間に溝が走りながら、A棟とB棟を繋ぐ上空通路に向かって、あっという間に立ち去るひもろぎの後ろ姿を目で追う。
成る程、猪狩先生が称する通り、負けん気の強い女だ。
A棟でもC棟でも無く、職員室や学長室の構えてある本館奥の、広いコミュニティホールに金龍と青森はいた。
吹き抜けの高い天井の下。
「ウオ!!!うオオオオオオオ!!!!」
金龍が錫杖を怨霊に向けてブン回している。
そこらの壁や机に錫杖が当たる度、鉄が物を撃つゴン!ゴーン!とした音が響き渡る。
思わず手が痺れてくるような音だ。
舞い飛ぶ書類に本。
次々と器物破損。
最早金龍による被害総額のほうが深刻かもしれない。
吹き抜けの天井高くには、金龍達の三倍もの大きさに膨れあがった、怨霊の黒い塊が浮かんでいる。
怨霊の集合体には数々の顔が付いているが、そのどれもが最早人間の表情をしていない。
怨嗟に満ち満ちた顔をしている。
牙を生やした口が唸る。
ガ、ガ、ガ……
千年前から封じ込められた、地底の怨霊。
話などが交わせるものでは無くなっている。
暗雲渦巻くどす黒い妖気。
錫杖が怨霊の群れの、飛行する切れ切れの内の一つに当たる度、怨霊は発光し消滅する。この世の何処からも。
「災魔屈服の冥加……あれい!」
巻いて吹く扇風が、涼しい音をし、空間を割った。
「陰陽……風龍夜行 」
怨霊の一際大きな人面に風が当たった。
風は顔を切り裂いた。
恨みの顔貌は血を吹き流し、咆哮を上げる。
そのまま風が一撃、二撃と、竜巻の様に怨霊の顔達を切り裂き続ける。
風に巻きこまれ、いつしか黒い塊は、消え去っていた。
ガシャーーーーーーン!!
怨霊の集合体が消えると同時に、天井のガラス窓を破り、石狗が二人の前に飛び落ちて来た!
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