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第22話 捕縛

気付いたら、猪狩裕司は社樹学園の視聴覚室にバッタリと倒れていた。 おかしい、と思った。腕時計は19時を指していて、今日一日分の記憶が無いからだ。 それに体も妙に気怠く、何かがなまめかしい。 見たところ、服もボタンははめられ、ちゃんと着ているが なんだろう、よくわからないが、何かが変だ……。と猪狩は思った。 。 。 。 定児が目覚めたのは、真っ暗闇の中だった。 照明無く、ただの黒い空間。 窓無く、漏れる光の筋ひとすじすら無く。 ここは……。 体を動かそうとした瞬間ギシ、と頭上から音がなる。 両腕が頭上に縛られていた。 。 。 。 あ……これ、もう、二回目じゃない。 ……皆心配しているだろうな。 ……ていうか呆れてるだろうな。 こないだ社樹学園が異界化した出来事の日に、皆の元に戻った時、しくしく泣いて後悔したあの日の記憶が思い起こされる。 自分が捕らわれたおかげで、森野が、前山が、あんな目に合ってしまった。 自分が快楽に咽いでいたために、学校の皆が酷い目に遭ったと、死ぬほど後悔し、もう絶対こんな風にならないようと、決意を心に結んだあの夜。 そして早速これかよって。 助けてくれーながやのおおきみー。俺はもうだめだー。 受動に徹しよう。俺に何かをどうにかする力など無かったのだ。 光の筋が暗黒の室内にやっと差し込んだ。ドアが開き、原因の人物が室内にやっと入ってきてくれたからだ。 ドアが締まる音がし、部屋がまた暗黒に包まれたかと思うと、靴音がこちらまで近付き、パッと頭の上のライトがついた。 俺の顔に向かって眩しい。 このストレスを感じる局所的な強い光源の当てられ方は、警察ドラマの中でよく見るような、尋問用のライトそっくりだった。 「起きましたか」 機、機洞……刑事。じゃない、ライトを照らしたのは、他でもない、常習連れ去り犯の機洞 連であった。 「お早う。では早速本題に入ろう。定児クン、君はあの時のように性儀式にかけられ、これから120回精を吐いてもらう」 「えーやだ、そんなの」 「……ちょっと投げやりっぽくなってないか?」 「なってないよ」 俺は無然として機洞とは反対方向に首を背けて答えた。 「……まあいいや。清町市の封印を解く外法髑髏の完成のためにどうしても必要なわけなんだ。協力してくれよ、定児クン。……嫌ならとっても恐ろしい目に遭わす」 最後声色低く脅しにかかる機洞に 俺はカッとして、食ってかかった。 「…………ッなんで!そんなもんが必要なんだよ!!!復讐かっ!?諸宮一族の話を聞いたぞ!!あんた生き残りで、一族が殺された復讐をしているんだろっ!!全員殺したんだから、もういいじゃないかっ。関係ない人間まで巻き込むことないだろっ!!」 「復讐?」 機洞は、いや、諸宮 修聖は、目をパチクリして、俺の言葉を聞き返した。 そうかと思うと次には吹き出して笑い出した。 「アハハ、あはあは、ハハハ……。復讐とはね。そうか。あはは、そう思われていたか。まあ、そうか。 フフフ、あんな連中は、俺にとってはどうでもいいことだ。屑箱の中の、紙片同然の連中だ。 ただ……アイツが五月蝿いから、怨む憎い殺せと、納得させ黙らせるために、仕方なく手を下してやっただけだ」 あいつって…… 「諸宮花涼?」 「フフフ、アイツの力も必要なのさ。封印を解くために、力の強い怨霊の力が私にはね」 ……本当にここはどこなのだろう。飯塚稲荷と出会った最初のマンションか? マンションというわりには、音の反響の仕方から、硬質な打ちっぱなしのコンクリートの壁のように聞こえる。 機洞はケタケタと笑いながら言葉を続け、内容を紡ぐ。 「フム……。諸宮一族ね……。あんなの焼かれてせいせいしたと思ってるよ。むしろ焼かれるべきじゃないかとさえ思ったね。教団施設が燃え盛ったあの日は……。 諸宮の血脈は、遡れば、廃絶された#玄旨帰命壇__げんしきみょうだん__#の信徒の末裔にあたる。知ってる? 淫祠邪教と呼ばれ廃絶された宗教だよ。必要なのは性合いと愛欲のエネルギー、エクスタシー。ただそれのみ。 諸宮一族は玄旨帰命壇の外法を代々受け継ぎ、更に強力な妖術禁法へと昇華させてきた。 教団の中身は家族同然のように仲良く暮らしている信者達、なんて、そんなわけない。 子供も老人も含めた、単なる乱交セックス教団。 ……どこにも逃げられない、誰も不可侵のね。 この力を元に強力な呪詛をお偉いさんに売り捌いて、一族をしぶとく温存させてきたわけだからさ。笑っちゃうよね。 俺も御多分に漏れず、二歳、三歳、だったろうか。物心などつく前から教団の中で、毎日エクスタシーを一日の中数え切れなく味あわせられる日々を送らせられてきた訳だが、それは何のためにだと思う? ………神を俺の中に呼び込むため」 そう言って機洞は自らシャツをはだけて胸元を俺に向かって見せつけてみせた。 手のひらで自分の心臓の部分を押しながら話を続ける。 「定児クン、君の中には神にも近い怨霊、長屋大王がいる。 そして俺の中にはまごうことなき神そのものがいる。 ………………#摩多羅神__またらじん__#」 機洞の類を見ない強さの秘密はこれだったんだ。 「教団は、百萬のエクスタシーを得る極地に至り始めて完全に勧請できる摩多羅神を、見事俺の中に棲まわせることが叶ったわけだ。 俺はあの教団が燃えた日、この世の何もかもが心底嫌になった。教団も、燃やした人間も、何もかもが醜い……#塵__ごみ__#チリ#芥__あくた__#だ。こんな醜いもの達には、もう付き合っていられない。 フッ、そう考えると不思議なものだ。 俺に映る世界は完全に色を変えた。 君に視えている世界と、俺に視えている世界は、きっと違うのだろう。 俺にはどんな世界にこの世が視えているか、きっと想像もつかないのだろう。 君には想像がつかないくらい、吐き気を催す世界に視えているのだ。この世は。人間は……。 さぁ、定児クン、もう一回聞くけど、俺の願いに協力してくれる気になったかな」 機、機洞……。 俺は機洞を説得して見ることにした。 「よい人だって、綺麗な心の人だって、世界にはいっぱいいるよ」 「フフフ、怨霊を放てば、蠱毒のように霊位の高い魂は生き残ることになるのだ。それって素晴らしいことじゃないか?」 説得失敗! 俺は続けて説得を試みることにした。 「そんな風に子供の頃からされて、辛かったのは、わかるけどさ……」 「いつ俺が辛かったなんて言った。定児クン、人の気持ちを勝手に見定めるのはよくないよ?俺がどんな気持ちだったか、君にエクスタシーの性儀をこれから与えて同じ気持ちを味合わせてみてあげよう。案外ハマるかもしれないぜ?」 説得失敗! 俺は続けて説得を試みることにした。 「君がいるだけで……」 「…………?」機洞は首を捻る。 「君がいるだけで、世界に希望の花が咲いて、君がいるだけで、希望の花に水が注がれるんだよ。素敵だね。人間っていいね。機洞も大事な君の一人なんだ。              ていじ」 「…………何それ?ポエム?」機洞が馬鹿にするように口の片端を上げてせせら笑った。 説得作戦大失敗! 機洞が付き合ってられないや、とばかりに息をついてこちらに忍び寄ってくる。 あっという間にアゴを片手で掴まれた。 顎の骨がミシと軋む。 機洞は既に笑いなんか微塵も失せた顔で俺を強く見据えて 「味わってみてよ、俺の摩多羅神を」 強引に急に口付けてきた! 合わされた口は、最初は普通のキスだったが、次第にとんでもない感触が喉の奥に這い上った。 「んんんむ!!!んグググ!!!んググーーー!!!!!!」 喉を責める蛇より長く太く、しかし長蛇を巻くもの。 何だこれはぁ!!!! 内臓のような暖かさとヌルとしたぬめり、そして短い突起が散らばっている、これは何だ。 機洞はそのままの状態で口を離す。 機洞の口の中から俺の口に、赤黒い触手が通っているのが目で見てわかった。 触手は喉の奥から胃まで恐らく入って、胃の中で先端を掻き回すように動いた。 ビチビチとした動きに、えずきが激しく襲い、吐きそう。 機洞がもう一度俺に唇を合わせ、すると機洞の口の中へとシュルシュルと長物が収納され戻されていくのがわかった。 自分の口を袖先で拭いながら機洞は言う。 「さあ、協力してくれるか?しないのか!返答次第では……」 「協力は…………しない!!」 俺はケホケホむせながら、目に力を込めて、機洞の目を真っ向から睨みつけた。 「アアッ!アアッ!!ひいっ」 暗い部屋に闇と一つのライトが交錯する中。 「ぅウウウッ!!アアアッ!!!」 喉の奥から声帯を痛めつけて出す叫びが一面に響き渡る。 「アッアッ!!アアッ!!アグあああ!!!!!」 ああこれは俺の声ではないか。鼓膜に届く自分の声すらも、遅れて後から聞こえる。 機洞に激しく犯されている。 快楽では無く、痛めつけられている。 まったく潤滑もされないそこを、機洞は切り開き、ぶち抜き、瘡蓋で閉じさせず休ませない生傷を作り続ける。 見たくないほど、ガチャガチャに裂かれ、切られているだろう。 腕は一向に自由にならない。 「……おまえは、魍魎を孕む」 片足を持ち上げられ、交接の部分を一際隙間無く密着させ、腰と腰をなすりつけるように動きながら機洞は言い放つ。 俺の腹に手をやりながら。 腹をさすりながらえぐって掘り上げ、腸道を液で満たし浸すように、放出した精子を、出す度に自らの肉の塊で壁になすりつけ染み込ませ掻き混ぜる。 「いいか。今送り込んでいる俺の精が、おまえの腹の中に留まり、こびりつき、そのエネルギーに、こうして餓鬼の魂を植え付ける。 するとエネルギーは餓鬼の形を取り、おまえは魍魎を自分の腹から生み出し捻り出すことになるのさ」 機洞は美しいが、この上無く凶悪な、魔性の笑みを浮かべた。 恥骨から骨盤の上、腹を辿り胸板まで掌でゆっくり撫で上げて機洞は口から響かせる。 「外法禁術…………餓鬼孕みの術」 「アッぐウうううううう……!!!!」 腹への植え付けは今ので終わったのだろう。ククク、と喉と胸部を揺らし、勝ち誇るように笑う機洞。 「ハ……ハ……、ハ、ハッ。つまり、女が味わう出産の苦痛を、男のおまえが寸分違わず、受けることになるわけだ。それも一日で形を成し生まれる。何回でも孕ませ、何回でも出産させる。繰り返し、ずっと味わっていただこう。おまえが協力すると口にするまでは。 …………死にたくなるぐらいの苦痛だな」 それから繰り返し、繰り返し、同じ激痛が、毎日俺を襲った。 五時間、いや時には七時間。十時間。 吐くほどの腹部の恐ろしい痛みがずっと俺の肉体の中をねじりまわし、突き上げ、最後には後ろの穴から恐ろしい容貌をした餓鬼の胎児が流れる血とともに産まれいで、床に落ちたと思ったら、短い手足を動かし、闇の中どこかに消えていく。 絶叫すること、一週間。毎日。繰り返し同じ、この世のありとあらゆる中で最悪の痛みが、俺を生き地獄に誘った。 一旦始まると、寝るのも、気絶も許さない、体の内側からの痛み、苦しみ。 例えるなら、腸捻転のような激痛が、収縮を起こしながら、「ああああああ!!」と大声を出さなきゃいられないパニックになるような凄まじい苦悶の大激痛となって、間隔の波を伴い沸き起こる。 今まで経験したことなど一切無い、信じられない地獄の激痛。 静まったと思ったら1分もしないでまたやってくる。 生きながら大きな両腕で雑巾絞りのように腸をねじられている苦痛だ。 #機洞__きどう__#の宣告どおりの、この世のどんな拷問より凄まじい苦痛。 気絶すら許さぬ苦しみは、痛みがある間眠りにさえ逃げ道を求められない。 ショック死しないのが不思議だ! やっと地獄の激痛が終わる瞬間、事切れたように、俺は意識の回線をプツンと手放す。 しかし目が覚めたら機洞が俺の上に乗っているし、血塗れの俺を射抜きながら、相変わらずあの怪しげな妖術を俺に向かってかけている。 無間地獄とは、これのことじゃないのか。 「どうした?酷く……口を開けて、イヤらしい顔で」 そんな顔に見えているのか。 クククと歪んだ囀り。 「やっぱり子供を産むと、違うのかねぇ」 聞こえの悪くなった耳に響いてくるのは悪趣味な嘲笑いだ。 ……………………。 「ヒィッ…………」 メキメキと骨が割れ軋む。 「うア、ア…………」 関節が痛い。内臓が痛んでいる。 「……ッ……ゥッ……痛…………」 クラクラと連続した目眩に襲われ、ここは夢だか起きているのか、繋ぎ目が分からなくなる。 血が肉体から流れすぎている。 なのに身体は生きている。 これも邪法の効力なのか。 捕らえられてから、暗闇の空間でただ悶えるだけ。 繋がれている部屋中に、俺から排出された血が腐った臭いがこびり付いている。 こんな拷問用の邪悪な法術がこの世にあるなんて、思いもしなかった。 かけられた相手が俺のように男なら、これほど、男のプライドを打ち砕きながら責苦を味合わせ続ける効果的な拷問はないだろう。 餓鬼の魂を植え付けられる#儀式__・__#を終え、またも冷たい石床の上に、はめられた首輪で壁と繋がれ裸で放置された俺。 体のあちこちがギシギシと痛み軋んでいても許しちゃくれない。 …………俺から生まれ出た餓鬼はどこにいくんだろう。 …………だんだんと、逃げようとする意思すら弱まっていくのがわかる。 …………もう日付も数えていない。 このまま静かに#精神__こころ__#の消滅を遂げるのかもしれない。 疲れによって意識が薄れ始めていく。 眠りに陥りそうだ。 ガチャン。…………溢れる光を浴びせられて、扉が開いた。 扉が開いて、ボロボロになり果てた、ボロ雑巾以下の俺を見下げて、機洞は何をするかと思えば、傍らに屈んで俺の髪の毛を手のひらで撫でてきた。 「もうそろそろ、いいだろう、こんな苦痛より、気持ち良い快楽に、一緒にそろそろ溺れよう………」 俺をこんな状態にしている張本人のわりには、機洞自身も苦しそうな表情を滲ませている気がしないでもない様子なのは、やっぱりそれほど客観的に俺の姿が無残に変化しているのかな。 髪の毛を長い指で梳かれる。 「…………」 でももう俺は答えるのをやめた。 目を閉じて死んだフリだけする。 「定児クン………」 。 。 。 「今日で、二週間目だ。普通の人なら耐えられないよ。今頃一気に白髪にでも変わり、老人のような姿へと様変わりしていることだろう。それもこれも荒々しい長屋大王の雄偉なる力が君の中に息づいているから、そうまでして耐えられるんだね」 俺はグッタリしたまま何も答えない。 心を読ませるほどにも、何も考えない。 思い浮かべない。 気持ちを停止させている。 「…………君にそこまでの根性があるとは、正直思わなかったな。私が思っていた君の像とは、全然違ったタフネスな底意地が、君の中にはまだまだ隠されているようだ。楽しみだ、もっと見たい。君の中にどれほどの可能性の顔が秘められているのかを。 定児クン、俺の、仲間に入れ。 俺のもとへ、こちらへ、境界線を踏み越えろ。 ……………………おいで!」 機洞が手を差し伸べるが、俺は絶対に答えない。 何も見ないし、発さない。 機洞は哀れみのような声色を出し、俺の顔を撫でる。 「俺はそんな定児クンが本気で好きだ。君も俺が好きだろう!おいで、俺の定児」 「好きじゃっっっねーェよ!!!!!」 とうとうガマンできなくて、言葉を発してしまった。 かなりの、荒げた声で。 「好きなわけ……あるかっ!!!! 何が餓鬼孕みだ……おい………………! ばかじゃないの………本気で………」 俺は流石にキレていた。 潰れた喉のしゃがれた声で。 機洞は苛ついた様子をわかりやすく見せ、弱る俺に、また連日のように、覆い被さってきた。 「わかったよ、好きなだけ、餓鬼を妊娠してろ。今日もまた、孕ませてやる」 また触手蠢くキスを無理矢理口に合わされる。しかし今回は触手の先端が吐き気を催すような乱暴な動きでは無く、喉、そして胃を、そっと触れるようにそろそろと先端が優しくなぞる動きをする。細い舌先が内臓を触れるか触れないかするような動き方だった。 内臓の皮である#腹膜__ふくまく__#を、優しく、こそばゆく、こすり撫で、愛撫するような、小筆がかすり、触るような動きを取る。 そのまま咽喉を塞ぎながら、既に入り易くなっている足の間に向けて、すっかり慣れさせられた代物を挿入する儀式。 長い未知の奇形器官は、胃の表面の胃液ですら舐めとるようにくまなく動くも、決して押し付けずに、ふいにあたるようにさわさわと触手の先端が内臓を擽っていく。 口の中からは異形なる肉塊を押し込まれ内臓を擽られ、両足の間の下の道には更なる肉塊をまた押し込まれ、上下され、抽送され、ゆさゆさと揺さぶられるのは 何と不思議な、気分だろう。 何も抵抗はせずに黙って任せていたら、内臓を#恰も__あたかも__#あちこち軽く接吻されているかのようだ。 その時、飯塚稲荷が開いたままの扉の前にやってきて告げた。 「機洞様、こちらへ」 顔色は急を告げている。 迷惑そうに振り返っていた機洞も、何か異変を察知して、足の隙間から己の物を引き抜き、扉を閉めて鍵をガチャンとかけ去っていった。 真っ黒闇に一人。 。 。 。 外で何やらバタバタ音がする。 争うような人の声と、衝撃音。 破壊音と、共にドアが蹴破られ、暗黒に強い光が照らされた。 「遅れて悪い!!!定児!!!助けに来たぜ!!!!!」 渉流だった。 「光輪殺法、#逢仏殺仏__ほうぶつさつぶつ__#!!」 金龍さんだ。相変わらず鉄錫杖で器物をボコっている。 「降臨開法、#殺仏殺祖__ さつぶつさっそ__#ォォォオ!!!」 どんどん爆破するようにそこらの物を無作為に破壊しまくっている。 誰か!金龍さんを止めて!! ブチ切れ金龍さんは、もう誰も止められない。 パワー系の破壊王、金龍である。 「おい!大丈夫か!しっかりしろ!……無理か…………」 いつも容易く動じない従兄弟が、今度ばかりはこんなにテンパってる表情を初めて見る。 渉流に担がれて俺はなんとか、この闇の空間から抜け出た。 ここは、どうやらビルだったらしい。 機洞御一行専用ビルといった形か。 金龍と渉流と、担がれた俺が外にいる。 青森神主が車を止めて待っていた。 その時だった。 金龍の頭がカチ割られた。 金龍は糸が切れたように、足元から崩れ落ちた。 こめかみから夥しい血の量が流れ溜まりを作っている。 ビルの屋上から、重量ある巨体が降ってきて、コンクリートの硬い地面を、破砕するかのような音を立て、解体重機の先のコンクリートハンマーのようにそこらを揺らし、叩きつける着地の仕方をした。 狭い範囲のプチ地震である。 石狗。 着地と同時に、金龍の頭を打った石棍の先が、ブーメランのようにヒュンヒュンと戻ってきて持っている柄にセットされる。 「こ!!このっ………っっッッ!!!!」 渉流の目の色が変わり怒りに震え向かっていきかけるも「いけませんよ!」青森神主に強く制止される。 「早く乗れ!!渉流、定児!!金龍を連れて!!!」 エンジンが唸る。 いつになく命令調の青森に従う渉流。 石狗は迷わずこちらを追ってこようとしたが、乗り込んだ車の窓から渉流が腕を石狗に向けて「唐操金棺飛遊!」を放った。 投げ網のように形成された糸が、石狗を足止めした。 車内のシートや床を濡らす金龍から流れ落ちる血が、まるで水道の蛇口から出ているかのように終わりなかった。

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