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バレンタインのお話、ひとつめ

「……これを、俺に?」 カースはリンデルから差し出された小箱を、首を傾げながら受け取った。 開けると、中には小綺麗にデコレーションされたカップケーキのようなものが入っている。 「そう。そこの角で預かってきた」 答えるリンデルはどことなく不機嫌そうだ。 「一体誰が……?」 「知らない。見かけない人だったよ」 村人じゃないと言うことだろうか? カースはいくらか警戒しながらも、それを手に取ってみる。 茶色い生地の上には白いクリームが絞られており、その上にピンク色のハートが乗っているのを見て、カースはこれが何のために渡されたのかを理解する。 「……そうか」 カースがほんの少しだけ口元を弛ませると、戸棚から皿とフォークを取り出す。 「食べるの?」 リンデルに尋ねられ「ああ」とだけ男が答える。 「ロッソに……毒見してもらう?」 心配そうに言われて、男は苦笑した。 「いや、いい。こういう物は、もらった者が食べるのが礼儀だ」 「?」 まだピンと来ていない様子のリンデルが気付かぬうちに食べてしまおうと、カースは手早く飲み物を用意すると席に着いた。

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