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バレンタインのお話、ふたつめ
「……また貰ったんだけど」
リンデルが金色の瞳を半眼にして、小箱を差し出してくる。
「……そうか」
じとっとした金色の視線を受け流しつつ、それを受け取る。
開けると、中身は前回と同じようなカップケーキだった。
「前と同じ人……だったのか……?」
「ううん、違う人。でもやっぱり、村では見かけない人だったよ」
「そうか……」
素直に嬉しいと思う、その気持ちを表に出さないようにして、戸棚から食器を取り出していると、リンデルが口を尖らせて箱の中のそれを見つめている。
「……どういう事なの……?」
ぽつりと零したリンデルの言葉に、カースは慎重に問い返す。
「何がだ」
「カースばっかりなのは、どうして??」
そっちか……。と、男は苦笑を浮かべる。
「お前のは城に山ほど届いてるって、ロッソが言ってただろ」
「でも、こっちでも、もう半年は過ごしてるのに……」
「姿を偽ってるからじゃないのか?」
「うー……そうかなぁ。もう元の髪型に戻そうかな……」
リンデルが、それなりに伸びてきた後ろ髪を指先にクルクルと絡ませながら言う。
ロッソ程長くするつもりはないが、カースくらいまで伸ばすのもいいなと、リンデルは思っていた。
ロッソは今日も工事現場を見に行っている。
手抜きがないか、不備がないかと逐一現場をチェックするロッソを、当初、作業員達は迷惑がっていたようだ。
しかし、カースがロッソに差し入れを待たせるようになってからは、そんな関係も少しずつ変わってきたようで、今ではロッソは作業員全員の家族構成や兄弟に甥姪の名まで把握しているらしい。
そんなわけで、今日もロッソは作業終了の日暮れまで戻ってこないだろう。
「……切るのか?」
飲み物を二人分用意しながら、カースが振り返る。
「ん? うん?」
「いや……長い髪も……、似合ってたが、な……」
背を向けて、男が独り言のように小さく呟いた。
「えっ? そんな風に思ってたの!?」
ガタンと立ち上がるリンデルに、机の上の食器が音を立てる。
「こら、落ち着け。こぼれる」
カップから僅かに散った水滴を、カースが見咎める。
「えー……? そっかー……。そっかぁー。カースが気に入ってるなら、まだ伸ばそうかなー?」
どうやらすっかり機嫌を直したらしいリンデルが、嬉しそうに指先で金色の髪を撫でている。
今のうちに食べてしまおうと、カースは気持ちの篭った小さなケーキを、崩さぬようにそっと皿に乗せた。
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