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第4章

車両を変え、鉄道も使い、サリネがようやく辿り着いたのは日もすっかり暮れ、晩に差し掛かった頃であった。  長時間の移動ですっかり疲れてしまったが、夫であるニコラスとの会食が入っている。そこで初めて本物のニコラスと対面をする。  シャルパンティエ王国には一度も来たことがない。知識としてどのような国かは知ってはいたものの、やはり初めて足を踏み入れ、祖国とのギャップには驚かざるえなかった。  まず城の造りが全く違った。メア・ドゥリース帝国では風通しを良くするため、開放的な造りで、部屋の窓も大きかったのだが、シャルパンティエ王国の王宮はとても閉鎖的だ。堅固な要塞と言った雰囲気が出ており、室内はとても暗い。  もう一つはとても寒いことだった。冬が長く厳しいと聞いていたが、今は夏である。なのに日が落ちかけてくると、長袖の上にもう一つ何か羽織らないと寒くて仕方ない。  毛足の長い絨毯の敷かれた廊下を歩きながら、サリネは顔を顰める。  何もかもが違う場所で、誰にも頼れず、サリネは一人生きていかねばならない。  ここに上手く順応できるのか、不安で仕方なかった。      しかし、案内された屋敷をサリネは意外にもとても気に入った。         「ここが寝室ですわ」  侍女の一人が戸を開けてくれたので、礼を言ってからサリネは中へ入る。使用人が先回りして準備をしておくのが当たり前だ、と思っている兄弟もいたが、サリネはきちんとお礼を言うようにしていた。それも母の影響が大きい。  南向きの部屋で大きな窓が設置されている。今はまだ暗いが、日が出れば暖かい日差しが部屋の中へ降り注ぐだろう。  また部屋の中は適温に保たれており、廊下や外にいる時ほど寒い思いはしなかった。  侍女たちがサリネの着替えやシャワーを手伝おうとしてくれたが、それを断った。時間になったら呼びに来てほしい、と言い含め、早々に部屋から追い出す。困惑している侍女たちの顔を見て、罪悪感が少し募ったものの、単純に疲れていた。一人になりたかったのだ。  軽くシャワーを浴び、着替える。  事前にラヴィが用意してくれていた白色のジャケットとズボンのセットアップを着用する。七部丈のズボンからは白い足首が見えていた。  そして黒く長い髪を一つに結わえる髪留めは淡い紫色にした。紫色はシャルパンティエ王国の国章の色だからだ。  寒いと思い、黒色の上着を羽織ったものの、上着だけ浮いているように思えてしまい、すぐに脱いでしまった。  代わりに自分の紋章である晴蘭花のブローチをジャケットの胸元につけた。  部屋に立てかけられた姿見の前で自分の姿をチェックする。  変に着飾るのも良くないと思い、シンプルな出立ちにした。すっきりとしていて、良く似合っている。  ちなみにラヴィはベータ男性であるので、サリネの屋敷へは入ることができない。  それもサリネの不安を加速させる原因の一つだった。だがシャルパンティエ王国にはシャルパンティエ王国のやり方がある。  準備が終わり、大きめのベッドに座り、ぼうっと外を眺めた。黒々とした山が遠くに見えた。あの山を越えてやってきた。サリネの祖国はその山のずっと向こうにある。 「随分、遠くまで来てしまったものだ」  ため息をつくと、こんこんと戸を叩かれた。時計を確認すると、言われていた時間だった。 侍女の一人が呼びに来たのだ。 「奥様、お時間ですわ……、まあ素晴らしい。キリッとしていらっしゃる奥様にタイトな白のセットアップは似合っていますわね、髪飾りもとても綺麗。これなら陛下もきっと気に入ってくださるはず」  中年のこの侍女はきっとおしゃべりなのだろう。  容姿を褒められるのには慣れているが、やはり何度言われても悪い気はしない。だがニコラスが気にいるかどうかはサリネにとってはどうでも良かった。 「ありがとう、案内してくれ」  サリネは一度、深呼吸をしてから立ち上がった。

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