116 / 275

第116話

「光生おはよ!」 みんなからの視線を気にせずゆっくりと学校へ向かう光生を見つけ横に並べばニコッと笑ってくれる。 「あ、涼ちゃんだ。」 「え!その呼び方なつかしい!」 「ふふっ、今日は転ばないでね。」 「っ!!だからそれ忘れてって言ったじゃん!」 今日の光生は特にご機嫌なのかニコニコと楽しそうに歩いている。 「桜いつのまにか散っちゃったね。」 光生は顔を上げて桜の木を見ながら少し寂しそうな顔をする。なにか思い出でもあるのかなと思い俺も同じように桜を見ながら聞いてみた。 「桜そんなに好きだったの?」 「うん。大好き。入学式の日の涼のこと思い出すし、それに涼の苗字だし。」 そんなことを恥ずかしげもなく言う光生を見ればばっちり目が合ってしまう。 「もうっ!!俺ばっかりじゃん!」 なんで桜が好きな理由が俺なんだ。それに苗字の読み方は同じでも漢字は違うし。 「ふふっ、照れてんの?」 好きな人にそんなことを言われると照れるのは当たり前だ。いつものように余裕たっぷりの光生を俺は無視して学校に行く。 「さくらちゃん部活行こー!」 それから放課後になり教室に夢ちゃんが来てくれた。 「あれ?椎名まだいたんだ?」 「は?いるでしょ。」 夢ちゃんと光生はさっきからずっと言い合いをしている。普段は優しくて穏やかな光生が夢ちゃんの前では子供っぽく喧嘩しているのが新鮮でおもしろい。 「さくらちゃん私のことかわいいって何回も言ってくれたし!」 なんの言い合いをしているのかは謎だけどぼんやり聞いていればさっきから俺の名前が出てきている気がする。 「それは顔だけかわいいって意味で夢の強気で負けず嫌いな性格なんか知らないからでしょ。てか俺にもかっこいいって言ってくれるしなんなら大好きって何回も言われたもんね。」 一体なんなんだ。最初は軽い言い合いだったのが気づけばかなりの口喧嘩になっている。 「ちょっと!ストップ!」 2人の間に入って無理やり止めると夢ちゃんは俺の腕に抱きついてきた。 「さくらちゃん!私のことも大好きだよね?」 「え?大好きだけど、、?」 そう答えればぎゅっと抱きつかれた腕を離すどころかさっきよりもピタリとくっついてくる。 「椎名が私のことかわいくないってさっきから言ってくるの!ひどくない?」 クリクリした綺麗な目を潤ませてそんなことを聞かれると俺は謎にドキドキしてしまう。 「そうなの?俺、夢ちゃんの笑った顔も明るい声も素直な性格もかわいくて大好きだよ!」 「さくらちゃん!!本当に大好き!!」 泣き真似をして俺に抱きつく夢ちゃんは光生に強引に引き離される。 「さっきから近い。涼に触って良いの俺だけだから夢は触っちゃだめ。」 またそんなよくわからないことを言って光生は夢ちゃんを怒らせている。 「夢ちゃんも光生もかわいいしかっこいいから!2人とも大好きだって!」 またすぐに言い合いが始まる予感がして大きな声で俺が大好きだと言うと2人は少し機嫌が治ったのか嬉しそうに俺のことを見る。なんで俺なんかのことで揉めるんだとは思うけどそこは黙っておこう。 「私に恩があるの忘れないでよね!」 光生にそう言いながらふんっと横を向いて怒る夢ちゃんは何の話をしているのかすごく気になる。 「恩って?」 俺が聞くと光生は拗ねた顔をしたまま黙っている。光生が言い返せないほどすごい恩なのかと思っていると夢ちゃんはそんな光生のことを気にせずに話しだした。 「中学の時に椎名がモテすぎて女の子から毎日のようにストーカーされてたから私がしばらく彼女のフリして助けてあげたの!しかも結構な人数いたし他校の子もいたりですっごい大変だったんだから!」 「ぇえ!?ストーカー!?」 普段から光生は自分のことをあまり話さないからそんなことがあったことに俺はびっくりする。 「もう俺の話はいいから!部活は?遅れるんじゃないの?」 昔の光生の話をもっと聞きたかったのに強制的に終わらさせられてしまった。ていうかすっかりマネージャーの事を忘れていた。 「ほんとだ!さくらちゃん早く行こ!」 「うん!光生また明日ね!」 急いで教室を出ながら手を振るとニコッと笑い「いってらっしゃい」と言ってくれる光生がなんだか愛おしくて早く泊まりに行きたい気持ちがどんどん溢れてきた。

ともだちにシェアしよう!