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第164話 光生side

「今日星くんとゲームするから光生は先に帰っててね!」 「………は?」 昨日はあんなに甘くて幸せな時間を過ごしたのに急になんてことを言いだすんだ。あれから起きたときには夜だったし涼の家まで送っていると手なんか繋いでくれて目が合えば照れた顔で笑いかけてくれたのに。次の日になればもう現実に戻されてしまうのか。 「星くんがどうしてもクリアできないところがあるから手伝ってほしいって朝会ったときに言われたんだー!」 頼られたことが相当嬉しかったのかドヤ顔なところが最高にかわいいけどきっと家に呼ぶ口実だろう。ていうかいつのまに約束なんかしたんだ。せっかく2人きりでいつもの場所でお昼休みを楽しんでいたのに一気にテンションが下がってきた。 「それで?星くんの家に行くの?」 「うん!今日部活休みなんだって!」 嬉しそうに頷く涼をどうしても行かせたくないけど昨日バスケをしたあと帰り際に「そんなにさくらちゃんのこと縛ってたらかわいそう。」と星くんに言われたことを思い出す。隣を見れば楽しみなのかご機嫌だし俺の心はモヤモヤしていくばかりだ。 「光生もゲーム上手だもんね!」 そんな俺に気づかず涼は少し近づいてきてニコッと笑いかける。こうやって無意識に近づいてかわいい顔をしながら相手のことを褒めたりするから心配でしょうがない。しかもいい匂いするしなんならちょっと体が触れてるしこんなこと星くんにしたら絶対に手を出してくるに決まってる。 「ねぇ、そんな無防備なところ見せるの絶対だめだからね。」 警戒心なんてまるでない涼はいつ星くんに襲われてもおかしくない。 「え?なにが?」 きょとんとする涼をグイッと引き寄せ首元を強く吸ってキスマークをつける。 「っっ!!ちょっと!!ここ学校だって!!」 「知ってる。」 慌てながら勢いよく体を押して離れていく涼になんだか拒否されたみたいで自分の全てが嫌になっていく。ただ星くんの家に行ってほしくないだけだったはずなのに余裕なんて全くない俺はなにもかもにイラついて涼とは逆方向に顔を背ける。 「光生?なんか怒ってる?」 「うん、怒ってる。」 心配そうな声で話しかける涼の顔は見えないけど絶対に悲しい顔をしているのがわかる。それなのに素直になれない俺は何も言ってあげることができない。 「……ごめんね…俺こういうの慣れてなくて…その…学校とかだと恥ずかしくて…光生のこと引き離しちゃって……」 謝らせたかったわけじゃないのにまた自分勝手な嫉妬で涼を傷つけてしまった。それにずっと慣れなくていいしそんなことに怒っているわけでもない。涼はなにも悪くないのにギュッと俺の袖を掴む手は少し震えていて胸が苦しい。 「あぁー!!さくらちゃんじゃん!!」 突然聞こえてきた声に振り向けば星くんと他にも何人かいて手を振りながら近づいてくる。 「今からバスケするからさくらちゃんと椎名くんもどう?」 なんてタイミングで星くんは現れるんだ。むしろ狙っていたのかなんて思ってしまう。返事に困っている涼に星くんは肩をポンッと叩く。 「俺、さくらちゃんと一緒にバスケしたい!」 キラッキラの笑顔で誘う星くんは素直で俺とは大違いだ。 「……じゃあ光生も一緒に、、」 チラッと俺のことを見る涼はさっきのことを気にしているのか少し不安そうにしている。今すぐに抱きしめてごめんねって謝りたいのにまた涼のことを困らせて気をつかわせてしまいそうで怖くてできない。 「俺は先に教室戻ってるから行っておいで。」 「光生………」 一瞬寂しそうな顔をした涼に気づかないふりをして手を振ると星くんと一緒にいた部員であろう人達は嬉しそうに涼を体育館に連れて行く。 「椎名くんがさくらちゃんだけ行かせるなんてめずらしいね!喧嘩でもしてた?」 誰のせいでこうなったと思ってるんだ。いや、悪いのは俺か。どうしようもないくらい重い嫉妬で涼のことを傷付けて、しまいには星くんのせいにしてとことん俺はかっこ悪い。 「別に。星くんには関係ないでしょ。」 それでもあからさまに嫌そうな態度を取り大きくため息をつく俺は誰よりも幼稚だ。 「そうかな?落ち込んでるさくらちゃんが今日家に来たら俺すっごい優しくしちゃうけど?」 そんなこと言われなくてもわかってる。涼のことを信用しているからそれで星くんとどうこうなるなんて思ってはいないけどやっぱり言葉にされると心配になってくる。 「だから?涼はそんなことしても星くんのこと恋愛対象として好きにならないよ。」 どこまでも性格が悪い俺は嫌味なことを言ってしまう。 「ふふっ、すっごい自信!じゃあ遠慮なくいかせてもらうね!」 強がっていることがバレているのか俺の嫌味を気にせずヒラヒラと手を振って体育館に行く星くんになんとなく負けた気がしてまた大きなため息が出る。

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