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第2話
俺は学園内で委員長の犬と呼ばれている。
確かにそれは認めよう。
しかし犬や番犬でも貞臣さん(委員長のこと)という犯罪者に類似した存在に、本物の犯罪者にならせないための番犬である。
守る、は守るでも委員長の未来を守る番犬。
そう認識してほしい。
しかし、周りはなかなかそうは認識してくれないのだ。
「たかみー、見つけた?」
「たかやですってば。…えー、とあ!見つけました。今から取り押さえます。」
「はいはーい。あ、せいぜいモノは壊さないようにしろよー。壊したらお し お き!」
語尾にハートでもつきそうだが、その内容はかなりエグい。
それは風紀委員と違反者だけがわかる"おしおき"の意味。
暴れ過ぎないようにしないといけないな。と自分に言い聞かせながら教室の扉を開ける。
そこには1人の生徒を3人の男が囲っていた。
「風紀委員です。強姦未遂で罰則の対象となりました。風紀室まで来ていただきます。」
「委員長の犬っ!」
「やべえ…見つかった!どうする?ズラがるか?」
こそこそと話をするヤツらに、まああまり気の長い方ではない俺は眉間に皺を寄せる。
「でも扉を抑えられてる…!」
「くそっ…でも三人がかりなら委員長の犬もボコれるんじゃねえか?」
「…やるか?」
ついには不穏なことまで言い出したヤツら。
やはり戦闘なしでは無理らしい。
まあそう踏んだから貞臣さんは俺を遣わせたわけだ。
基本的に風紀の名前を聞いたらこれ以上罰則されないよう大人しく捕まるヤツがほとんどだ。
しかしたまに反抗するやつがいる。
そうなりそうなヤツをリストアップしてる貞臣さんは強姦現場を見つけた風紀委員では危ないので、俺を送る。
これが俺が世間で委員長の犬と呼ばれる所以だ。
雄叫びをあげ、むかってきたヤツらの1人を足払いし、鳩尾に一発喰らわせる。
残りの2人は同時に来たので頭を掴んで互いに頭突きし合って頂いた。
よし。
すると流石タイミングよく副委員長たちが来てくれた。
「片付いたようだな。此方で身柄を預かろう。まだお前には仕事があるだろう?」
この日本男児、みたいな喋り方をしているのが副委員長の西山さんだ。
この方は可愛い顔をして武士みたいな性格をしている。
貞臣さんとは幼なじみらしく、公表してないが、恋人同士ではないかと思っている。
だってよく一緒にいるし、なんか好きだとかとられるだとかなんとか不思議な会話を度々している。
まあ俺には関係ないことなので、別にどうでもいい。
副委員長達が連行していった後、俺は被害者へと向き直る。
「大丈夫ですか?」
「え、…はい…。大丈夫で、す。」
俺のブレザーを渡し、破られた制服を隠すよう指示する。
「なぜ貴方はここへ?」
「えっ?」
「ここは風紀委員がロッカー室として使っています。風紀でもない貴方がなぜここへ?」
「えっ…あ、あの…それ、は」
吃る生徒をさらに追い詰めるべく、口を開く。
「ポケットを拝借します。」
阻止しようと焦る腕を掴み、素早くポケットの中に手を入れる。
そして中身を取り出して彼の前に突き出した。
「これは委員長のキーホルダーですね?」
「…っ!」
みるみるうちに顔が青ざめてゆく生徒。
俺がもう一つ犬と呼ばれる理由はこれだ。
貞臣さんはあの凄まじく整った顔で、高圧的に見えるのに、終始笑顔だからどうやらフェロモンというものがだだ漏れらしい。
それに犯された人達は盲目的に貞臣さんに焦がれてしまい、このように何かを盗ったり、ストーカーしたりしてしまう。
貞臣さんはなるべく罰則を与えたくないらしく、そのような処理は内密に(みんな知ってるけど)俺が行っている。だから俺はあのような噂が立つし、委員長の犬と呼ばれるのだ。
「どうかそれを返してください。小さい時から委員長が大事にしているものなんです。だから、お願いします。」
ぎゅ、っとその震えている手を掴み、自分なりにがんばって優しく笑えば、彼は何度も頷いてくれた。
良かった。
「では一応風紀室へ。この件は内密にします。強姦の件で話を伺わせてください。」
「はいっ!」
元気よく笑う彼は、さっきよりも顔の血色がよく、良かったと俺は笑った。
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