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第4話

俺の反撃に怯む先輩。 「あ?あぁ………まあそうか?」 ちょっと弱気になって声が小さくなったところに追い打ちをかける。 「俺、悪いけど先輩と違ってバイじゃないから。ホント、酷いよ。俺、そんなに信用無いの……?」 そういった後、涙を一粒溢して、俺、役者だな、と自画自賛する。 「ええ、泣くの?このタイミングで泣くの?ごめんね、マジゴメン!許してよ。」 よし、今だ、とばかりに、さっき覚えたばかりの甘え技を使ってみる。でも、先輩とは身長が大して変わらないから、胸にオデコを預けられない。胸に顔を埋めたかったなぁなんて残念がりながら、仕方なく肩に額を載せた。少し体重をかけると、先輩がよろけて、俺の腕に掴まる。そのまま、俺の背中に腕を回す先輩にほくそ笑みながら、涙声で訴えた。 「だってさ、先輩信じてくれないんだもん?頭ごなしに怒ってさ…ホントに酷いよ。俺、先輩の事しか思ってないのに……」 腹の中で舌を出している俺に、もちろん先輩は気付いていない。 「いやいや、ごめんって。ねぇ、ごめんってば。」 完全に立場逆転。まだもう少し意地悪してやらないと! 「ヤダ、許さない。」 「ごめんってば。どうしたら許してくれる?」 すっかり弱気になってる先輩が可愛いななんて思いながら、 「じゃあ、ここでキスして。」 と強請ってみる。 案の定、狼狽えた先輩は涙目で訴えてきた。外でそういう事をするのがホントに苦手なのだ。二人の時は結構エロいのにね。 「え?いや…え?いやいや、学食はマズイんじゃない?じゃ、場所変える?」 「ヤダ。ここでなきゃダメ。問題ないでしょ?俺ら付き合ってるの、みんな知ってるし。」 「それはそうだけど、でも…そんな…。ほら、公衆の面前で、ねぇ。あははは」 かわいい。先輩可愛すぎだよ。照れてる照れてる。そう思う俺は、腹の中では笑いながら、顔は悲壮感に満ちている。 「何いってんの?今更だよ。学内のトイレの個室とか、更衣室とか、平気でヤらせろって言ってくんじゃん!」 「和輝!声デカい!ちょっ言うな、バカ。恥ずかしいって!」 先輩はキョロキョロと辺りを見回して、完全に挙動不審だ。 「じゃあキスして。」 その言葉に、一瞬躊躇いながらも、素早く辺りを確認して、ほんの一瞬、瞬きよりも短いくらいの軽いキスをした後、許しを請う様に笑いかけてきた。 「ね、続きは家に帰ってからにしよ?」 その顔が余りにも情けなさ過ぎて、男前が台無しだ。がそんなところも可愛くて、頬が緩んで仕方無いのを隠すように、先輩に背を向ける。そして、極力感情を消した声で言い放った。 「意気地ないね。こんなキス、今どき小学生だってやらないよ?大体、先輩、俺と…ていうか男と付き合ってるの、知られたくないって思ってるでしょ?俺ともし別れても大丈夫な様に保険かけてるって言うか、この先女子とも付き合いたいみたいな。結局いっつも逃げてんじゃね?」 そう言い捨てると、出口に向かって歩き出した。 「和輝!ちょっと待って!おいっ!」 そう言いつつも追いかけては来ない。それは想定内。帰る家は一緒だからね。 「何だよ!クソっ!お前が潔すぎるんだよ…。」 背中でため息混じりの声が聞こえる。そんな先輩に振り返って、 「帰ってから、続き楽しみにしてるから!」 と微笑んだ。 ──── 完 ───

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