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続きのお話 −1
「ただいま〜」
扉を開けながら中に向かって声をかける。何か美味そうな匂いがキッチンから漂ってきて、腹が豪快に鳴った。
あの後、先に帰って待ってるのも期待してるみたいで気恥ずかしかったから、途中の本屋に寄ったり、コンビニで立ち読みしたりして時間を潰した。大方3時間。無駄に遅く帰ってきたから、もう空腹感は最高潮だ。
先に帰って来てから随分待っていたらしい先輩は少々ご立腹で、出迎えは、ちょっと素っ気ない。それでも晩ごはんを作ってくれていたんだな。うん、帰ってきてよかった。
「和輝、遅かったじゃん。先に出たから帰ってると思ったのに!」
キッチンから顔を覗かせた先輩が、不満げに、口を尖らながら文句を言う。こういう顔も好きなんだ。
大学ではクールで大人なイメージで通っているから、男女を問わす慕われている。女子からの告白も一度や二度ではないらしかった。
だから、俺も実際付き合うまではそう思ってたけど、付き合ってみたら、実は甘えるしデレるし、わがまま言って怒られて(俺に)いじけるし。
クールとも大人っぽさとも無縁なタイプだったんだよね。まぁもちろん、他の人間には見せない素顔をさらけ出せる存在でいられるのは嬉しい。そんな顔を知ってる優越感もある。
「ナンカいい匂い。晩ごはん何?魚?」
先輩の問いかけには答えないで話を変えてみるけれど、怒りが持続しないタイプの人だから、違う話題を振られると、あっさりそれまでの事、忘れてしまうんだ。
「え?うん、鮭のムニエル。飯も炊けたから、すぐ食えるよ。」
「良いね!食おう、食おう!」
そうやって甘えてみたら、すぐに機嫌が直っちゃって、いそいそ食器に盛り付けたりしてる。それこそ鼻歌まじりに楽しそうに。
「先輩ってポジティブだよね?そういう所、見習わないとな。」
なんて心にもない事を言ってみても、そうかな?って照れ笑いしてる。ちょろいよなぁ。
そうやって先輩を小馬鹿にして、上から見てる俺に、多分気付いているんだろうけど、先輩は嫌な顔しないから、つい調子に乗っちゃうんだよね。
「味噌汁、美味いね。シャケもだけど。」
だから、反省と感謝の気持ちを込めて、料理を褒める事は忘れない。
とか何とか、偉そうなこと言っても、先輩、最近まで実家暮らしだった割には料理が上手いから、無理に褒めようとしなくても自然に言葉が出て来ちゃうんだけどさ。
結構凝った料理とかもぱぱっと作っちゃうから、一緒に暮らし始めてからの食事が密かな楽しみになっている。今日の鮭のムニエルもめちゃくちゃ美味い。実家でもこんなの出て来なかったな…幸せ。
食事も終わって腹が一杯になると、感謝の気持もそこ迄で、もう一度からかいたくなって来た。まぁ、俺の悪い癖。
「先輩、あの後、すぐ帰ったの?帰ってから結構待った?」
「あぁ~~まぁそうかな…そんなでもないけど。飯の買い物したりしてたから。」
そんな事言いつつ、絶対速攻で帰ってると思う。だからかな、何となく視線を逸して斜め下辺りを見遣りながら、モジモジしてる。そんな先輩に、
「でさ、あの後、ちゃんと反省したんだよね?」
と、意地悪く聞いてみると、
「したよ!した!反省した!許してくれる?」
と必死に縋る先輩が可笑しい。
「どうしようかなぁ…」
「なぁ和輝ィ 許してよ…ね…」
「え〜、どうしようかな〜。」
なんて焦らしつつ、反省したなら良いよ、なんて勿体ぶって言うけど、ホントは大して怒ってる訳じゃないから、ちゃんと分かってるの?とか、どう反省したの?とか、その辺はどうでもいい。
しっぽを振ってご褒美待ってるワンコみたいに、食い気味に身を乗り出してる先輩が可愛くて、思わず抱きしめた。
「良いの?じゃあさ、さっきの続き、する?」
熱っぽい目で見つめながらそんな風に言う先輩が、俺の腰に手を回してくる。その声が笑っちゃうくらい色っぽい。
お互い目をすっと細めると自然に唇同士がくっついて、感触を確かめ合う。それがスイッチみたいに性的欲求が急激に高まる。平たく言えば勃起するって事だけどさ。貪るみたいに相手の身体を弄りあって欲望に身を任せると、互いに触れ合っている部分だけに意識が集中して、境目がなくなって溶け合う様な感覚になってくる……あぁ、キモチイイ。
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