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梅本先輩。10

 キッチンに行き、冷蔵庫から先輩が買い置きしてた発泡酒を全部出して端から飲んでいった。そんな事でもしないと、やってられない気分だったんだ。何本か飲んだところで酔っ払って、いつの間にか眠っしまったらしい。  寒くて目が冷めた時には明け方で、ソファの上で小さく丸まっていた。頭が痛いし、体もい重い。ベッドに行こうとしたけど、体が言うこと聞かなくて、背もたれに身体を預ける。身体のソファにくっついた部分が下に引っ張られているみたいに、ずっしりと重く、腕を持ち上げる事さえ面倒だ。  その時、玄関が開いた音が聞こえた。先輩が帰ってきたんだと分かったけど、それでも体が重くて動かなくて、ソファにぐったりと凭れたまま先輩を待った。俺に気付いた先輩が慌てて駆け寄って、和輝、と名前を呼んでくれたのが物凄く嬉しくて、だから、先輩に抱きつきたくて腕を差し出した。先輩はそっとその手をとって、優しく撫でて、背中に腕をまわして抱きしめてくれたんだ。 「こんなに酒のんで…バカだな…。」 「………」 温かいな。先輩の匂いだ。この前は意地悪言ったけど、やっぱり先輩の匂いだ。あぁ幸せだなって温かい気持ちに包まれたのに、不意に自分の目からこぼれた涙に、昼間の事を思い出した。そうだ、俺は先輩に腹を立ててたんだ…。 先輩が俺の顔を覗き込んで来たから、問いかけるみたいに首を傾げたら、先輩も泣き出して、ゴメンな、和輝に辛い思いさせたよなって謝ってきた。 「でも、今度こそちゃんとしてきたよ。」 「……………」 「ちゃんと別れてきた。」 「……うん」 「ゴメンな。俺ホントにバカだった。」 「…うん」 「俺には和輝だけだから…お前以外好きにならないって分かったから。だからまた一緒にいてくれる?」 「…うん」 信じていればいいのかも知れない。何かあったら、その時また考えればいい。今はただ、この言葉を、先輩を信じればいいんだ。 「ありがとう…愛してる」 「…うん…」 「愛してるよ…和輝」 「うん…分かった…」 「和輝も言って。」 「……うん分かったから、…あの…うん…また今度」 言おうと思うけど、何だか照れくさくて、やっぱり言えない。こんな時だから口に出して言えばいいのに、何故か急に恥ずかしくなって、段々顔が赤くなっていくのが分かる。 「和輝?照れてる?」 「…いや…」 「かわいいな、和輝。」 「いや、かわいくないって。」 「可愛いよ、和輝。愛してる?」 「…うん、分かったから!」 もうすっかりいつものペースだ。きっと俺が、愛してるって言うまで続けるつもりなんだ。でも、こんな掛け合いも嬉しい。 先輩がいたずらっぽい笑顔を向けてくるのが可愛くて仕方ない。俺だって先輩しかいないんだ。ずっと先輩と一緒にいたい。 まだしつこく言わせようとしている先輩を抱き寄せて、耳元で愛してる、とそっと言うと目を丸くして驚いている。 「え?和輝、マジで言ってくれたの?嬉しい、信じられない、聞き間違いじゃないよな?ねぇ、もう一度言って。心の準備出来てなかったから、ちゃんと…」 よく喋るな…全く。情緒も何もあったもんじゃない。そんな俺をよそに、先輩はまだ騒いでいる……。だから、唇に噛み付くようにキスをして蓋をした。 梅本先輩 完。

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