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梅本先輩。9

 見ちゃいけないもの見ちゃったな…と一人ため息をついた。別れ話が拗れていたんだろう。それは二人の様子で分かった。先輩を信じるべきだと言うこともよく分かっている。でも、先輩は…すごく優しいから…人の気持ちに流されやすい。あのまま、泣いてる竹井さんを放っておけなくなるかもしれない。 家に帰ったけど、電気を付ける気にはなれなかった。窓から夕焼けが見えて、寂しい気持ちになる。頭の中は二人のことで堂々巡り。気が付いたら夜になっていて、部屋の中は真っ暗だった。そこに玄関が開く音がした。先輩帰ってきたんだ。 何を話せばいいのかよく分からない。怒ればいいのか、呆れたらいいのか…。いや、ただ、どうしたのって聞けばいいだけかもしれない。それか、何なかったフリをすれば良いのかな。 そんな事を思ったけど、そのまま暗がりにいたら、先輩は俺がまだ帰っていないと思ったんだろう。玄関横の寝室からゴソゴソ音がして、そのまま玄関から出ていってしまった。 思わず、玄関へ走っていって、ドアを開けたけど、間に合わなくて、先輩の姿はもうなかった。 胸の中に喪失感が広がっていく。もしかして、もう帰ってこないのかな。竹井さんとはやっぱり離れられなかった?涙が後から後から溢れて仕方がない。声をあげないように泣くけど、堪えきれない嗚咽が一人きりの部屋の中に響いた。 さっき、先輩が帰ってきた時、何でおかえりって言わなかったんだろうと激しく後悔した。一言声をかけていれば、少しでも話が出来たのに。でも会わないって言ったのに結局隠れて会っている先輩に腹が立っている。泣いた彼女を追いかけて行ってしまったことも、今この場にいない事も、腹が立って仕方がない。…………そもそも俺は話がしたかったのかな。落ち着いて話せたか?ノーだ。何も話すことなんかない。 寝室に入ったら、ベッドの上に走り書きのメモ。 『ゴメンな、和輝。 梅本』 また謝ってるよ。いらねーっつーの。何に対してゴメンなの?

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