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梅本先輩。8

 それから数日後、大学からの帰り道、二人でよく行くケーキ屋さんの前を通りかかった。先輩、見た目に似合わず、案外甘い物好きで、ケーキもクリームたっぷりなのが好きだから、たまに一緒に入るんだ。俺がコーヒーしか頼まないと、拗ねて、お前も食えよ〜とか言うし、俺が頼んだときは一口頂戴とか、何かめちゃくちゃ可愛いところがあって、そんなところも好きだなって思う。最近ごたごたして一緒に食べてなかったから、たまには買って帰って二人で食べるのもいいかもな、と先輩好みなのを2つ注文した。 会計の列に並んで店内を何気なく見たら、飲食コーナーの一番奥の席に先輩がいる。向かいに座ってるの…誰だろう。ロングヘアの女子だ。いっこ下の学生だな…見たことがある。えーっと、名前なんだっけ…。俺と先輩と二人でいる時に、たまにここいいですか?とか言って相席してくるんだ。先輩の知り合いなんだろうけど、図々しい感じであまり好きじゃない。浮気相手ってあのコだったのかな。でも、もう会わないって言ってたのに…。 テーブルを挟んで向かい合っているけど、重い空気が漂っているのがこちらからでも分かる。つい気になって、カフェコーナーに寄るべく、コーヒーも頼んで気づかれない距離を保って隅っこの席に座った。 相手の表情は後ろ姿で分からないけど、先輩の表情だけ見ると、相手に詰め寄られて困っている感じ。コーヒーカップを微妙な高さに持ち上げたまま、なにか言っていた先輩が、カチャンっとカップをソーサーに置いたとき、相手の女子が顔を隠すように項垂れて、肩を揺らした。泣き出したのかも知れない。 先輩、涙に弱いから、そのまま抱き寄せちゃうのかなって思ってたけど、その予想は外れた。机にくっ付く位に頭を下げている。そしたら、女の子が急に立ち上がって出口に向かって走り出してきたんだ。その時、バッチリ目が合ってしまった。竹井沙奈絵さんだ。目があったまま、竹井さんが俺をにらみながら、出口から出ていった。それを追いかけてきた先輩もこちらに気付いて、唖然とした顔をしている。でも手で小さくゴメンのポーズを見せて、そのまま出ていってしまった。嵐のように去っていった二人を見送って、俺は残ったコーヒーは飲む気になれず、半分以上残して間もなく店を出た。手に持ったケーキの箱が妙に重い。

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