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梅本先輩。7

 二週間も経って、正直言えば直後の怒りは収まっていた。だから先輩の事なんてどうでもいいかなって思い始めてたから、文句言うのも面倒だし一発殴ってやって終わりにしてやろうと思いながら学食に向かったんだ。でもそこにいたのは、この間見た先輩とは違って、しょぼくれた情けない顔をした男だった。まるで野良犬だ。 「松井…」 「先輩、お疲れ様です。なんすか?用っすか?」 「用って程でもないけど…この前の事、話したくて…」 「へぇ、挨拶もなしに勝手に帰っといて話も何もないでしょ。」 「そうなんだけど…」 情けない顔を見ていたら、段々怒りが込み上げてきて、用意してたのとは全く違う言葉を吐いていた。もうちょっと落ち着いてて話そうと思っていたのに。 「俺、別に気にしてませんから。女じゃあるまいし責任取るとか要らないんで。それに男とするのも初めてって訳でもないですし。ただ、ごめんってなんだよって腹は立ちましたけど?」 無言の先輩。 「お互い遊んだんだからいいじゃないですか?勝手に謝られても困るんですよ。」 「俺、遊びのつもりじゃなかった。入学式で見かけてからずっと気になってたから、お前の事。」 えっ??…何それ。どこで見られてた?どんな顔してた?色んな意味で怖いな。って頭の中だけ忙しい。 「だから、ずっとお前と話せる機会探してて…そしたら飲み会に来るって聞いたから……」 なんだよそれ。って言葉にならないツッコミ入れてみるけど内心……なんだろう、この気持ち……嬉しいんだな、俺。 「でも、じゃあなんで謝ったりしたの?なんで何も言わずに帰ったんすか?」 「だって!……告白もしてないのにさ、酔に任せて無理やりやっちゃったから…嫌われたと思ったんだよ!でも、やっぱりお前の事、好きだなって思って、諦めきれなかったから…」 なんだ、バカな奴。嫌われるって…結構真面目ちゃんなんだな。酔ってたのは先輩だけだし、そんな事ならとっとと告白すりゃいいだけだ。事後でもいいから、翌朝でもなんでも…。でも…なんか、そういうところ、かわいく思えてきた。不器用なんだな…全く。高倉健かよ…。 結局、すぐに許した俺は、あっという間に先輩が好きになっていた。だから学校で会えば喋るようになって、外でも遊ぶようになって…そして付き合いはじめたんだ。  あぁ、この人、何も変わってないんだな。俺の時と同じ事してるだけだ。その後1年、続いたかすぐに終わったかの違いだけだ。 ハンバーグの続きやるから、と先輩がキッチンに戻った。冷蔵庫からひき肉を出してボウルにあけて、玉ねぎやら他の材料を入れて味付けして捏ねて丸めて……ホントに手際がいい。俺にはよく分からない香辛料も使ってて甘い香りも漂ってくる。 火にかけたフライパンに、丸めて空気を抜いたハンバーグのタネを入れると、ジュッという音と共に、段々肉の焼けるいい匂いがしてきた。美味そう。 色々考えてたら、腹減ったな、そんな事を考えながら先輩を見ると、ばつが悪そうにフライ返し片手にこちらを見ていた。 「ホントに終わりにしたの?」 「うん、ホント」 信用していいのか分からないけど、また裏切られるかもしれないと言う怖さよりも、一人になる怖さの方が数倍大きい。別れる事を選ぶ方が怖い。裏切られても、こうして自分のところに帰って来てくれれば良いじゃないか、そんな気もしている。だから、縋るような気持ちで先輩の言葉を信じる事にしたんだ。

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