11 / 46

梅本先輩。4

 先輩と出会ったのはサークルの飲み会の時だった。後で知ったことだけど、先輩はサークルには所属してなくて、部員の同級生に頼んで紛れてたらしい。結構な人数いるから、今まで会ったことない先輩か、って思ってたんだけど会ってなくて当然だった。 俺が新入部員の鑑定してやるよ…なんて偉そうな言い方してたみたいだけど、その実、出会いを求めて来たんだろう。  それでかも知れないけど、最初から飛ばし気味で、いろんな奴に声をかけて楽しげに話しているのが目の端の方にチラチラしていて、ずっと気にはなっていたんだ。目立つというか目を引くというか。背も高くて、顔もそれなりだし、だからってチャラい感じでもなくて、割と好青年風。女子のグループに入っていっても気安い感じで、先輩と話してる皆も楽しそうだった。  俺はと言うと、女子の先輩二人に絡まれて、なんだか落ち着かず、その場をすぐにでも離れたかったんだけど、中々緒が掴めないでいた。段々酒が入ってくると女子の先輩達があからさまに誘ってきて、そろそろ帰りたいななんて思ってた頃に、不意に梅本先輩が向かい側の女子二人の間に割り込んできた。 「新入部員が困ってんじゃん。その位にしといてやんなよ。」 って笑いながら言ってくれたんだ。それを聞いた二人も笑いながら「もう、梅本君たらぁ!」って嬉しそうにしばらく話してたけど、仲良さそうな二人組だったから、一緒に並んで座れる所を探して移動してしまった。 「作戦成功」 とニンマリ笑う先輩。そして、気付いたら隣に座ってた友達も、さっきの女の先輩達と一緒に移動してしまっていた。目の前にはすっかり冷めきった焼き鳥と唐揚げと、嬉しそうに微笑む先輩がいて、何を話せばいいのか分からない。女子の先輩に絡まれてるのもアレだけど、男の先輩と二人って言うのは…俺にとっては別の意味で何だか落ち着かない。少しだけ期待する気持ちがあるけど、んな訳ないかと下を向く。 誰か戻って来ないかなと周りを見回すけれど、皆少し離れたところでそれぞれに盛り上がっていて、こちらに戻ってる気配はなかった。 でも、そんな俺の気持ちはお構いなしに、向かい側に座ってた先輩が隣に移動してきて、何やらこのサークルの未来について熱く語りだして(部員でもないくせに)、なぁ松井くん!って肩を抱いて来たときも、まさか先輩が男が好きなんて思わないし、もしそうだったとしても、まだこの頃の俺は、自分が同性が好きなんて誰にも言ってなくて、男から迫られるなんて考えてもいなかったから、 「はぁ、そうっすね」 って気のない返事してたんだ。 帰りがけ、もう一軒寄らないかって声を掛けられて、当然、皆行くもんだと思って良いですねって言ったのに、便所から戻ったら誰もいなくて、先輩だけが一人で待っていた。 でも断る理由も見つからないし、二人で近くのカラオケボックスに移動したんだけど、未成年は22時迄ですよなんて言われて狼狽えた先輩を店員は見逃さなかった。 仕方なく店を出てぶらつくけどいい店もなくて…結局、未成年だしね、って先輩も積極的に店を探さなくなって、ぶらぶら歩いてたらもう駅だった。じゃあ帰りますわ、という俺を何故か先輩が強引に引き止めて公園で飲まない?なんていうから、仕方なくコンビニで飲み物を買ってきた。俺は酒なんて飲み慣れてないからコーヒーにしたんだけど、先輩はビールのロング缶を買っている。酒が強そうには到底見えないんだけど。

ともだちにシェアしよう!