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梅本先輩。5

 まだ住み始めてそれ程経ってないから、駅の近くにある公園なんて知らなかったけど、先輩は迷わず案内してくれた。駅前通りから一本入った住宅街の中にある小さな公園だ。まもなく22時になろうという時刻だ。ベンチに並んで座る先輩と俺の他には誰もいない。 5月が終わろうというのに、今日は案外寒い。昼間は暑い位だったから半袖のTシャツの上には羽織るものもないし、さっき少し飲んだ酒が抜け始めて急に寒気がしてきて、腕をさすってたら先輩が上着を掛けてくれたんだ。それが女子にしてあげるみたいにふわっと包むように掛けてくれるから驚いた。先輩、最初の店で結構飲んでたし、ロング缶も飲みきって、酔っ払って男女の区別ついてないのかもな。 「梅本先輩!俺男ですよ?なんか優しすぎません?」 ちょっとからかう様な口調で言ってやる。 「分かってるけど?だって寒そうじゃん。」 「はぁ、まぁ、そうですね。……すんません。」 分かっててやってんのかよ。何か俺のこと好きなのかなって勘違いしそう。男相手にこの優しさって…人たらしってやつ?でも、あんな言い方しちゃったから、なんか気まずい。喋るネタも尽きてきたし。 「お前んち、近くなの?」 「一駅先なんで、電車乗らないとですけど、駅からはすぐですよ。まぁ近いと言えば近いですね。」 「歩いていける?」 「歩けなくないですけど?歩くと案外ありますよ。」 「ふーん、まぁ良いや。じゃ、送ってくよ。一緒に歩こうぜ。」 やっぱり酔ってる?話が噛み合ってないな。 「先輩酔ってますか?家何処ですか?帰れます?」 「お前バカにしてる?酔ってるわけないじゃん。ってか、新入生一人で、帰せないだろ?」 「えっ、でも、電車乗れば駅からすぐなんで、大丈夫ですよ?それに男だし。」 「何が大丈夫ですよ?だよ。それに、お前自分の容姿に自覚ないないだろ!東京舐めんなよ、怖いところだぞ?」 東京怖いって、いつの時代の田舎者だよ。それに俺の容姿?なんのことやら……やっぱり相当酔ってるな。一人で帰すと危ない。仕方ない、うちに連れていくか、そう思った。取り敢えず電車乗ろう。 「先輩、そしたら電車乗りましょ。すぐなんで。」 「やだ、歩く。」 俺の言葉なんてお構いなしに、そう言って歩き出した。結構マイペースな人だ。 道も分からないくせに、先に歩いていく。たまたまなんだろうけど、家の方角に向かって歩いているのが面白い。時たま、軌道修正しながら、俺は先輩の後ろを付いて歩いた。 それにしても、どういうつもりで俺のこと誘ったんだろ。やっぱり男が好きとか?でも、彼女いるって言ってたな、さっき…いや、最近別れたんだっけ。じゃ、やっぱり、本当に新入生ほっとけないタイプの人…かな?それかバイ……。 「家、ここです。上がって行きます?コーヒーくらいなら出せますけど?」 「……ここ松井くんち?」 「そうですけど?」 「へえ…上がっていいの…?」 威勢よく送るって言った割には何か怖気づいてて、部屋に上がるのを躊躇っているのが見てわかる。それでも、どうぞ、と促すと、おずおずと部屋に上がってきた。

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