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それから、 1

 冬の朝は苦手だ。布団から出るのも嫌になる。その上、今朝は、昨夜の久々の交わりで、体もだるいし寝不足気味だ。隣で眠る先輩が寝返りを打つと、布団が引っ張られて、裸の肩が布団から出てしまった。…寒い。腕が冷たくなっている。布団を手繰りながら冷えた場所を先輩の胸に押し当てると、冷てえなと言いながらも、腕を擦ってくれた。温かさが気持ちいい。この人が俺より体温が高いのだと気付いたのは付き合い始めて間もない頃だ。それから12年、相変わらず体温が少し高めだ。干支が一周りしたんだなとぼんやり思う。付き合い始めてすぐに一緒に住み始めたから、二人暮らしも丸12年になる。二人の関係での大きな変化と言えば、俺が30歳になったのを区切りに、お互いの親に挨拶して、パートナーとして認めてもらった事だ。それを機に呼び名も変わって、普段『貴大』と呼んでいる。一年経ってやっと慣れて、最近やっと先輩と呼ばなくなってきた。心の中では未だに『先輩』だけど。 それぞれの家に挨拶に行ったときは、うちの親たちは案外あっさりしてて、母親なんかは 「そんな気がしてたわ~」って軽い感じで 「梅本さん、かっこいいから〜こんな息子が増えるなんて、なんか嬉しいわ!」 と上機嫌だった。父親は、戸惑ってるみたいだったけど、それでも反対はしなかった。一言、「お前の人生だからな…」と言っただけだった。それでも、入籍……養子縁組については完全に拒否された。だから法律上は赤の他人のままだ。 一方先輩の家は、かなり厳格なのもあって、初めは中々認めて貰えず、休みの度に足を運んだ。最初に会った時、お義母さんは先輩から合わせたい人がいると聞いて、かわいい女性が来るものだと思い込んでいたらしい。  この人が俺のパートナーだよって先輩が俺を紹介したときには、泣き崩れていた。我が子と対して体格も変わらない様な大きな男が来るとは夢にも思わなかっただろう。お義父さんはムスッとしたまま一言も発しないで、さっさと書斎に引き籠もってしまった。 帰るときに、「私、赤ちゃん大好きなのよ…孫を抱っこしたいのよ。」と言ったのが切なかった。でも先輩は帰り道で言っていた。 「大丈夫、絶対分かってくれるから。」 と。その言葉通り、会うたびにお義母さんが打ち解けてくれて、終いには 「和輝君、キレイだし背も高くてモデルさんみたいよね。うちの貴大とお似合いかもしれないわね…」 と言ってくれるまでになった。その頃には、お義父さんは相変わらずムスッとしてるけど、部屋に引っ込まなくなったし、食事も一緒にしてくれるようになって、一年経たない内に将棋を指す仲になったのだ。それから、間もなく将棋を指しながら、お義父さんが 貴大のことを頼むよ、と言ってくれて、両家の親も公認の関係になれたのだった。 何か着てから寝ればよかったな。触れ合っていない方の腕が寒い。寝返りを打って、冷えたところを先輩の身体に押し当てる。うっと唸って身震いして、なんでそんな冷えてんの?と言いながら、また擦ってくれた。 昨夜は結婚披露パーティーで、両家の親と先輩の兄家族、高校や大学の時の友人、職場の人たちが来てくれた。まだまだ、同性の結婚なんてと言われているけれど、俺たちは周りの人に恵まれたなと思う。大学の時は結構オープンに付き合っていたから、殆どの仲間が知ってたけど、就職してからはそれほど言っていない。それでも、俺が打ち明けた人はみんな、認めてくれている。まぁ、人を選んで話しているから当然かもしれないけど。 まぁそう言う訳で、一次会の後二次会に行って、友人だけで盛り上がって、楽しく過ごしたわけだ。それで帰ってきたら、いい雰囲気になって…よく覚えてないけど半年ぶりくらい?…に身体を繋げた。先輩の体力が落ちてるのには、びっくりしたな。自分も人の事は言えないけど。こうやって、二人で老いていくんだろうなって思うと、これから先の人生も共に歩んで行くんだという実感が湧いたりして、今幸せを噛み締めているところだ。  

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