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それから、 2

お披露目の会をするかどうか、二人で大分迷ったけど、出来てよかったなって思う。ちゃんと自分たちの覚悟を皆に伝えられて、来てくれた人みんなにおめでとうと祝福されて嬉しかった。 でも、ドキッとすることが一つあったんだ。高校時代の友達の一人、野崎の何気ない発言に一瞬心臓が止まりそうになった。 「松井、覚えてる?ヤマザキって先生。ほら、数学の。あの先生、最近クビになったらしいよ。何か、生徒に対してヘンな事したんだって。」 と野崎が言う。覚えてるも何も………忘れるはずがない。『先生』の事だ。 「そう言えば、松井、いつもあの先生の準備室入り浸ってたよね。何かされなかったの?大丈夫だったわけ?」 と、今度は久保が聞いてくる。隣には先輩がいて、話を聞いているのに。 「変な事って…別に…無かったかな。ていうか、じゃあ、あの先生、もういないんだな…。クビになるって…ははは、生徒にイタズラしてクビとか、笑うしかないな、あはは。」 動揺を隠して明るく振る舞う。先輩を見ると何?その先生、ひでぇな、馬鹿すぎて笑えるわ、と面白そうに会話に混じって、俺の動揺に気付かないフリをしている。本当は、先輩だって聞きたくないはずなのに。腹の中で野崎に何もこんな時に話さなくたって良いのにと文句を言うが……まぁ、事情を知らないんだから仕方ない。 実は、一年ほど前、俺の実家に挨拶に行ったときに、先輩には大方の事を知られてしまった。 先輩に、お前が行ってた学校とか好きだった場所を見てみたいって言われて、懐かしい場所巡りをした最後に高校に連れて行ったんだ。 校門のところで、先輩と二人で中を覗いていたら、教師らしき人が出てきて…『先生』だった。あの頃、すごく大きな人だと思っていたのに、背が追いついてしまったのかな、大して目線も変わらなくなっていた。 どうかしましたか?と聞かれて、卒業生ですと答えると、『先生』が目を見開いて、 「もしかして、松井くん…かな?久しぶりだね!山崎だよ、覚えてる?」 って言ったんだ。もちろん覚えていた。忘れるわけがない。 「あれ〜!山崎先生?すげえ!会えると思いませんでした。お久しぶりです。お元気でしたか?ちょっと老けましたね!まだ居たんですね〜びっくりした!川本先生お元気ですか?お子さんとか生まれたんですか?まさか離婚なんてしてませんよね?あははは!いやいやびっくり………」 一気に捲し立てるように話す。最後の方は息が切れるくらいに…。 「私立高校だから、転勤もそうないしね。松井くん、元気そうだね。川本も、まぁ山崎だけど…元気だよ…子供は残念ながら。」 淡々と先生が言って、ちらっと不機嫌に先輩を見て、お友達と来たの?と聞いてきた。 「いや、友達じゃなくて………パートナーですよ。一番大切な人です。親に挨拶に来たついでに、思い出の場所を見せて歩いてるんです!」 自分のテンションが不自然に高い。わざとらしい明るさで後ろめたさを誤魔化すが、先輩にバレないか気がきじゃ無かった。気不味くて先輩の顔が見れない。山崎は、へぇ、と言ってすごく驚いた顔をしていたけど、 「思い出の場所なら、僕の部屋も寄って行くかい?お茶くらい出すよ。」 ととんでもない事を言い出した。心臓がドッと大きな音を立てて鳴った。あり得ない申し出に、俺が慌てて断ろうと口を開くより先に、先輩がお願いしますと答えていたんだ。 先輩は何を考えているのだろうと腹立たしかったが、山崎と連れ立って歩いていくのを慌てて追いかけた。準備室に入ると、山崎が振り返って、 「懐かしいだろう、松井くん。君との思い出は僕にとって宝物だよ」 って満面の笑みを向けてきた。それから先輩に言ったんだ。松井くんは優秀な生徒だったんだよ。物覚えも良くて、私が教えた事を直ぐに理解して、実践てくれるんだ。って。10年以上経っても執着を見せる山崎が恐ろしい。だけど、先輩は 「ええ、そうですね。大学の成績も優秀でした。卒論もかなり評価されましたし。俺、和輝とは10年以上の付き合いなんで、そう言う優秀さだけじゃなくて、恋人としての優秀さも知ってますよ。結構長い付き合いなんで、良い事も悪い事も色々知ってますけど、でも人として素晴らしいし、結婚するなら和輝しかいないって言うくらい最高な人です。」 と澱みなく言った。ただ淡々と、でも少しはにかみながら、当たり前の事を告げるように。

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