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梅本の場合 2

 それから梅本は、高木を探すようになった。もちろん高木に会いたいからではなく、また松井和輝が現れるかもしれないと言う下心があるからだ。だが、高木を見つけても少し離れた場所で様子を窺う。話しかけに行くのはまだ早い。  高木に目星をつけてからは殆ど毎日姿を見る事ができるようになった。梅本にとってそれは、嬉しい事ではあったが、親しく話している高木の存在は疎ましい。クソっ高木の奴め!そう思いながらも、そうやって毎日二人を観察しながら、恋心と嫉妬心を募らせている。 これはもう、完全にストーカーである。そんな自分が情けないが、よく考えたら、あの時、サークルが映研である事と名前以外結局分かっていない。少しでも彼を知るために、背に腹は代えられないのだ。  元々梅本は社交的で人見知りもないし、誰に対しても物怖じしない性格だ。だから、高木がいるところに割り込んで行って、無理やり話に加わる事だって出来ない訳ではない。が今回ばかりは慎重だ。そもそも、松井が男を受け入れるかどうかも分からない。いや、一般的に考えて受け入れない可能性のほうが高いだろう。だからこそ、そんな相手を絶対にものにすると決めた以上は失敗は出来ないのだ。  この日も二人を眺めながら昼休みを過ごした。姿を見れば見るほど、愛しさが増していく。何がそれ程の魅力なのかと問われたら、一目惚れだったという以外ないのだが、一月近く観察した彼の魅力を分析してみた。  背丈は高木より10センチ位高いだろうか。だから梅本とはさほど変わらないくらいだろう。体格は全体的に線が細いが、顎から首にかけてのラインや肩幅を見れば紛れもなく『男』だ。 色白の小さな顔は面長で、意志の強そうな整った眉と、すっと通った鼻筋に黒目がちで切れ長の目が印象的だ。長い手足を持て余すように、気怠げに歩く様や、物憂げな表情は妙に色っぽい。 梅本は、女子であればベタベタに甘いタイプと付き合うのだ。髪が長くて目が大きくて、胸が大きいのも大事なところだ。露出の多いイケイケなタイプは好みではなく、フリフリしたワンピース姿の清楚な女子を見るとつい……。言ってみれば綿菓子みたいな女のコが好みなのだ。 が、男の場合は松井のように骨張った体つきに、しっかりした眉毛が好きだ。そもそも、女の代わりに男を選んでいるわけではない。松井が男だからこそだ。ここまで力説しても、男と肉体関係になった事は未だないのだが。 そして、観察していて更に気が付いたが、松井は女子学生とは話をあまりしない。大抵高木や他の映研の男子の上級生といて、たまに女子が来るとすっと席を外してしまうのだ。男どもと話している時は笑顔が見えるのに、女子が来ると途端に表情が強張ってしまう。誰が来てもそうだから、特定の人間が苦手という訳ではないようだ。もしかしたら、という期待が胸に湧いてくる。 慎重に慎重に…と言い訳をして、実のところ勇気が出ないでいたが、もしそうであれば、押して見るのも良いかも知れない、と俄然やる気が湧いてきた。何か切っ掛けがあれば…と思っていたところに、降って湧いたように、週末に映研の飲み会があるという情報を得たのだ。高木がポロッと漏らしたのだが、きっと松井和輝も出席するだろう。梅本は、嫌がる高木を拝み倒してサークルの飲み会に参加させてもらう事にしたのだった。

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