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梅本の場合 4
そろそろお開きかなという頃、この機を逃しては後がなくなると感じた梅本は、強硬手段に出ることにした。
「この後もう一軒、行くでしょ?」
「皆さん行くんですか?」
梅本としてはその返事は想定内だ。二人きりだと伝えたら、来てはくれないだろう。だが、他の人間を誘うつもりはない。
「あぁ、どうだろうな…みんな行くんじゃないかな。…多分…」
「……じゃあ…行きます。ちょっと便所行ってきますね。」
という松井に、一先ず安堵して、イッテラ、と返し金子のもとに行った。
「ねぇ梅本くん、次どうする?駅前のトリ八に行くんだけど」
と金子。
「あぁ〜、俺は良いや。松井くん、いま便所だけど、具合悪そうだから送ってくよ。」
「えー、そうなの大丈夫かな。うん、まぁ…オッケーよろしくね〜」
とあまり心配している風でもなく、軽い感じで店を出ていった。女子達は、松井が素っ気なかった事で、脈なしと判断したのだろう。
それから少しして松井が戻って来た。周囲を見回して少し困った顔をした。
「あ、おかえり!じゃあ行こうか?」
「あれ…みなさんどうしたんですか?」
「あぁ〜…今日は解散って感じかな?まぁしょうがないから、二人で、どう?カラオケとか行ってみる?」
梅本は両者に嘘をついた事に若干の罪悪感を覚えていた。が後がないと思い詰めているため、かなり強引だ。
「えっと……、そうですね…」
松井の方は、戸惑ってはいるものの、渋々ながら承知してくれたのだった。
それなのに、カラオケ店につくと、店員に未成年は22時迄だと制される。
「お連れ様は未成年じゃないですか?」
「え?いや、そんな事はないですけど…」
梅本が慌ててついた嘘を店員は見逃さなかった。怪しむ店員に、ホントですか?と更に追求されると、梅本は狼狽えて本当の事を言ってしまったのだ。
「あ〜すみません。未成年です。」
梅本と店員とのそんなやり取りを見て、松井が笑いを堪えて口元を隠している。嘘つけないんだよ!心の中で喚いて、ジロリと睨むと、隣で松井が俯いた。もう、散々だなと心が折れながら、カラオケ店を後にしてからは、どうせ未成年を連れ回せないのだし、と店を探すのは諦めた。気不味い沈黙が続くのをどうすることも出来ない。
梅本が一方的に話していたとはいえ、結構話をした筈なのに、松井は全く打ち解けない。逆に二人きりになって更に素っ気ない。意気込めば意気込むほど、松井和輝は遠ざかって行くのだ。高木にはあんなに懐いてるのに、自分には全く打ち解けてくれない…と、絶望的な気持ちで駅まで歩いた。がそのままここで別れるのも、悔しさが残る。そんな気持ちからダメ元で最後の悪足掻きに出た。
「じゃあさぁ、コンビニで何か買って、公園で飲もうよ。もうちょっと話もしたいしさ。」
すると松井は暫く考えたあと
「うーん、そうですね。そうしますか。俺寒くなってきたからホットのコーヒーにしますね。」
「え?酒飲まないの?」
「いやいや、未成年ですからね」
そうだ。未成年だ…。しかし、松井に断られると想定していた梅本は、受け入れられた事に驚き、喜びで気持ちが明るくなっていた。そうですねといった松井の表情が、少しだけ綻んで見えなくもなかった。嫌われている訳ではないと分かった途端、梅本の足取りは軽くなったのだった。
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