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梅本の場合 5

コンビニで買った飲み物を持って、前に高木と大学の帰りに寄った公園に案内する。あの時は、課題提出が終わって二人でミニ打ち上げをしたのだ。  公園のベンチに二人並んで座ると、松井和輝はホットの缶コーヒーを両手で包むようにしながら暖をとっている。寒そうに首を竦めているのを見て、梅本は持っていたジャケットを肩に掛けてやった。 「梅本先輩!俺男ですよ?なんか優しすぎません?」 少し打ち解けたような口調でからかう様に、ニヤリう松井。緊張が解れてきたのかもしれない。 「分かってるけど?だって寒そうじゃん。」 「はぁ、まぁ、そうですね。……すんません。」 松井の笑った顔にドキッとして、思わず突っ慳貪になってしてしまったが、言い方が悪かったのだろうか、松井がまた萎縮して、無言になってしまう。何でうまく行かないのだろう。全てが空回りしている。自分が意地を張って引っ張り回したが、こんな寒そうにしている松井を、これ以上帰らせないのはかわいそうだ、梅本はそう思って家まで送ることにしたのだ。 「お前んち、近くなの?」 「一駅先なんで、電車乗らないとですけど、駅からはすぐですよ。まぁ近いと言えば近いですね。」 「歩いていけるよな?」 「歩けなくないですけど?歩くと案外ありますよ。」 一駅なら歩けなくもないはずだ。高木から聞いて家の方向もだいたい知っている。あと少しだけ、一緒にいたい。 「ふーん、まぁ良いや。じゃ、送ってくよ。一緒に歩こうぜ。」 松井は呆れた顔で、梅本を見ている。 「先輩酔ってますか?家何処ですか?帰れます?」 あぁちょっと酔ったかも。でも酔ってるだろうと言われると、何だか癪に障る。それに多少酔ってはいても正気なのだ。 「お前バカにしてる?酔ってるわけないじゃん。ってか、新入生一人で、帰せないだろ?」 「えっ、でも、電車乗れば駅からすぐなんで、大丈夫ですよ?それに男だし。」 「何が大丈夫ですよ?だよ。それに、お前自分の容姿に自覚ないないだろ!東京舐めんなよ、怖いところだぞ?」 松井が更に呆れているのが分かる。もちろん東京が怖いところだなんて、思ったことない。が、話の通じない酔払いをあしらう様に松井が梅本を諭す。 「先輩、そしたら電車乗りましょ。すぐなんで。」 「ヤダ!歩く。」 完全に駄々っ子だ。やっぱり酔っているなと梅本自身も思った。が、そんな事、聞いてられるかバカヤロー、と心の中で叫ぶ。そして、松井の家に向かって勝手に歩き出した。後ろでため息が聞こえたが、小走りに付いて来たことを気配で確認した。 途中、軌道修正されながら歩いていく。しかし、家が近づくに連れて、自分は何がしたかったんだろうと恥ずかしい気持ちになっていた。 「家、ここです。上がって行きます?コーヒーくらいなら出せますけど? 思ってもなかった提案に思考が停止する。家に上がるなんて、全く考えていなかった。家につくまでに、連絡先の交換とか、多少は気持ちを伝えるとか出来ればいいなと思っていただけなのだ。梅本は、交際の順序にはこだわりがある。好きなヤツの家にいきなり上がるなんて出来る訳がない。が、松井は梅本を全く警戒していないのだと思った。恋愛感情がない同性を部屋に上げたところで、何も問題ないのだから。 どうぞと再度促されて、ようやく家に上がることを決意した。

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