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梅本の場合 6※

 家に着いてからの松井は先程より打ち解けて見えた。大学の課題の話やサークルの事などをぽつりぽつりと話し始め、笑顔も見せてくれる。 そんな松井の話を聞きながら、梅本は酔が回るのを感じていた。それに伴って理性を失っていたのかもしれない。 唐突だったかもしれないが、世間話のついでのように、彼女はいないのかと問う。松井は 「彼女はいないですよ。」 と答えた。彼女は(・・・)いないと。 「へえそうなんだ。んじゃ、彼氏は?」 そう言って距離を縮めて松井の頬に手を伸ばす。すると、松井の表情が変わったのが分かった。梅本を見つめ返す瞳が熱い。 「俺は構わないですけど…俺男ですよ?…」 あぁ分かってる。だからお前が欲しいんだよ…しかしその言葉は口に出さなかったかもしれない。 そのまま口づけをすると、松井もそれに応じた。最初は啄むように、徐々に舌を触れ合わせると、松井から舌を絡ませてきた。想像を遥かに超える巧みなキスに、梅本の理性は完全に崩壊した。箍が外れると言うのはこういう事なのだろうか。その後は我を忘れて本能のままに動いたのだった。 途中、挿入しようとした梅本を松井が止めた。 「男とは初めて?何も知らないんだ。可愛いですね。色々準備がいるんですよ。」 と言って笑う。梅本は、そんな指摘に真っ赤になりながら、お前が詳しすぎるんだと講義する。松井はそれを見て、また不敵に笑った。 それから、先輩まだでしょ、と言って松井は、梅本のペニスを口に含んだのだ。時折微笑みながら上目遣いに口を窄めて口淫する松井は何とも言えず艶めかしい。激しい愛撫の末にキュッと吸い上げられ、呆気なく口の中で達してしまった。梅本が放ったものを松井がなんの躊躇もなく飲み込む。それから、放心してくったりと脱力してベッドに仰向いている梅本の隣に松井がモゾモゾと上がってきて、甘える様に寄り添った。梅本が、松井の頭を撫でてやると、ニッコリと微笑む。初めて見せたその笑顔に心を鷲掴みにされて、目眩を起こしそうだった。 何気ない調子で眠そうにしている松井に聞く。 「お前、経験あるの?」 「何がですか?」 「いや。その…男と…さ…なんか上手いなって…」 「ん?あぁ、ありますよ。」 あくびを噛み殺しながら、当たり前のように言うのが憎らしい。 「どんな奴?」 「そんな事、聞きたいですか?それより、……ふふふっ。」 松井が何やら笑みを浮かべている。 「ん?何?」 「いや、なんでもないです。もう寝ません?俺、めちゃくちゃ眠くて…もし風呂に入るなら使ってください……構わないんで……タオルなら………」 言い終わらないうちに、松井は寝息を立てて眠り始めた。シャワーを借り、体を洗った後梅本は、湯で湿らせたタオルで松井を拭いてやる。ベタつくシーツにバスタオルを被せてしのぎ、松井の隣に横になった。 目が覚めた瞬間、見慣れない天井に記憶が追いつかない。が、隣に眠る松井を見て全てを思い出した。急に我に返る。昨日は酒も入っていたし、かなり意地になっていた。完全に欲望に負けたなと焦る。言い訳でしかないが、松井の手管にすっかり酔っていた。手慣れていたなと思い出す。遊ばれたのだろうか?しかし、昨夜の妖艶さが嘘の様に無防備な寝顔には、やはり罪悪感を感じる。無理やり上がり込んで、仕掛けたのは梅本自身なのだ。松井に何と言い訳すれば良いだろう。 松井はよく眠っている。梅本はテーブルの上にあったメモ用紙とペンを拝借し、 『ごめんな。 梅本』 と書き残して部屋を出た。

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