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和輝の場合 Ⅱ 1※
黒板に書き出された数式を、黙々とノートに書き写す。少し低めの声が教室に響いて解説をするのを、一つも聞き逃すまいと、全身で集中する。大好きな声。その声の主を俺は目で追う。夏までは俺だけに向けられていたあの目を、もう独り占め出来ない。そんな寂しさに狂いそうになるのを必死で抑えながら、授業に打ち込むんだ。
高2の春に赴任して来たその教師は、その年すぐに、数学の担当教師になった。まだ成長過程で、それ程大きくもない俺からは見上げる様に大きな人で、学生時代に水泳部に所属していたらしく、白衣を着ていても締まった体つきなのが分かる。話も面白くてカッコイイ彼は、生徒達の人気者だった。
そんな『先生』に俺は、赴任して来たときから恋愛感情を抱いていたんだ。そう、同性の男の先生に。
高校に入学した年は、電車とバスを乗り継ぐ登下校に疲弊してしまって、何度も挫折しかけたのだけど、2年に上がったときに『先生』が来て生活が一変した。『先生』に会うためなら、通学時間も苦にならなくなった。
二学期になると、水曜日はあまりに残業しないで帰っているのが分かったから、その時間に合わせてバスに乗るようにした。偶然を装って、『先生』に話しかけるんだ。今日の授業でわからないところがあってね…って言うと、いっぱい説明してくれた。きっと『先生』は俺を、めちゃくちゃ熱心な生徒だと思っていたんだろうな。でも、本当は質問なんて二の次だった。『先生』とほんの少し話せるだけで嬉しかったんだから。
でも、秋が終わる頃になると、俺は大勢の中の一人でいる事に、我慢が出来なくなった。先生に俺自身の事を認めてもらいたい、って。だから、二学期の終業式に告白したんだ。
もちろん、先生はその場でOKしてはくれなかった。だからって、軽くあしらったりもしなかった。あくまで真面目に、真摯に向き合ってくれた。俺だって先生と付き合えるなんて思ってもいなかったから、俺の気持ちを受け止めてくれたってだけで嬉しかった。
でも三学期が始まった時、先生から呼び出されて、付き合っても良いよと言われたんだ。でも内緒だよって。
俺は二人だけの秘密の関係がとても嬉しかった。天にも昇る気持ちがってこう言う事なんだなって分かった気がした。
それからは毎日、先生と一緒に帰りのバスに乗った。もちろん偶然乗り合わせたみたいに装って。休み時間は数学の準備室に行って、先生と喋った。松井は数学が好きなんだな、だから数学準備室に入り浸っているんだなと周りに思わせるために、死ぬほど勉強したんだ。でも、準備室では二人で好きな音楽や映画の話、友達の事、コンビニの新作スイーツの話もした。そして、またにキスをした。
春休みが終わって、新学期が始まったその日、『先生』は準備室で、いつもと違う熱っぽい目で俺を出迎えた。俺を引き入れると、内鍵を掛け、包み込むように抱きしめてきたんだ。初めは何が起こったか分からなかったけど、これは、そういう事 なのかなと悟った。
そして、先生がいつもと違うキスをしてきた。ヌルっとした先生の舌が俺の唇の隙間から入ってきて、掻き回す。それに応えたくて、俺も必死で先生の腕にしがみついた。そして、膝から倒れそうになるのを先生が、受け止めながら床に横たわらせた。
ネクタイを解かれて、カッターシャツのボタンが上から一つずつ外されていく。全が外れて前を開けられた時に、もう一度抱き合ってキスをした。
それからベルトを解かれてスラックスを下げられた。肌寒さに鳥肌が立つ。下半身を露出した俺を見て、先生はうっそりと笑った。
先生が白衣のポケットから何か取り出して、手に絞り出した。トロトロとしたそれを両手で温めて俺の後ろに塗りつけた。
でも、今日はまだ挿れないよ。君もまだ受け入れられないだろうから。準備の仕方、教えて上げるからね。次の水曜日は準備しておいで。
俺は言われるがままに、先生に教えてもらった方法で準備して、水曜日に学校にいったんだ。
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