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言い訳 3

 梅本はコーヒーカップを手に、昨夜のことを思い出していた。話が終始平行線だった事に酷く疲れたなと思う。沙奈絵は絶対別れたくないと言う。実家を離れてまだ慣れない一人暮らしの中、この二月で梅本にかなり依存するようになっていたのだ。 「梅本さんと別れちゃったら、私生きて行けません!」 そう言われると、強く突き放せない。もしも、思い詰めた沙奈絵に何かあったら、と思うと、強く突き放せない。暫く考えたが、結局自分自身の中でも結論が出ないまま、冷めたコーヒーを飲み干して店を出た。 この日は4限目まで講義が詰まっていたので、日中はそちらに集中していて、少しの間考えずにいる事が出きた。だが、4限目が終わってしまうと、現実に引き戻されて、ずっしりと気持が重たくなってくる。 でも、そんなこと言ってられない…と沙奈絵の待つ学食へ向かった。3限目までだから待ってます…と言っていたのだ。しかし、学食内を隈なく探したが沙奈絵の姿はない。仕方なくスマホを出して沙奈絵に電話をすると5回コールして応答した。 「沙奈絵ちゃん?何処にいるの?」 という問いかけに沙奈絵は、 「梅本さん、すみません。今家にいます。 ……なんか辛くて……家で待ってます。来てくれますか?」 と答える。しかし行ってはいけない気がした。行ったら流されて、また決着がつかないで終わってしまうだろう。 「でも、外であった方が良いんじゃないかな?ね、お互いのためにさ…」 しかし沙奈絵は涙声になって 「でも、外だと話しにくいし…他の人に泣いてるところを見られたくないから…」 と言う。理解できなくはない。確かに学内で話していれば、知っている人間の耳にも入るだろう。この先の大学生活を考えれば、それはそれで気不味い。 仕方ないなと梅本は沙奈絵の家に行くことにしたのだった。 沙奈絵の家に着いて、チャイムを鳴らす。 インターホンから中に入ってくださいっと言う応答があった。ドアを開けたが、普段は出迎えてくれる沙奈絵が出てこない。出来れば部屋に上がらずに玄関で話を終わらせたかった梅本の気持ちとは裏腹に沙奈絵は部屋の奥から出る気配がない。 「沙奈絵ちゃん?いるんでしょ?出て来てくれない?」 もう一度呼ぶ。返事はないが、奥からすすり泣く声が聞こえて来て胸が痛い。 「沙奈絵ちゃん?泣いてないで出て来てよ…」 梅本自身も泣きたいような気持ちになりながら、訴えるように部屋の奥に声をかけた。すると、目を真っ赤に泣き腫らした沙奈絵が部屋の中から姿を見せた。 「沙奈絵ちゃん…」 と呼びかけてはみたが、その姿に唖然とする。レースのロングのキャミソール一枚と言う、普段の沙奈絵とはかけ離れたセクシー過ぎる姿で立っているのだ。薄い生地からは、体のラインや胸まですっかり透けて丸見えだ。身体で梅本を引き留めようとしているのだ。 その沙奈絵が玄関で棒立ちになっている梅本に向かって近付いてきた。それから梅本の目の前で止まると、首に腕を絡ませて唇を押し付ける様にぎこちないキスをしてくる。それからぐっと閉じた梅本の唇を解くように舌先で遠慮がちに舐めてくる。普段、清楚で大人しい感じの沙奈絵とは思えない大胆な行動に理性が揺すぶられる。 その時、沙奈絵目が合ってしまった。縋るような眼差しが胸に刺さる。沙奈絵が愛しくて深いキスで応えた。小さな身体をギュッと抱き寄せる。 キスが深くなるのに比例して段々と腹の下に血が集まっていくのが分かる。があと少しで理性が完全に飛ぶと言う手前で、和輝の寂しそうな顔が脳裏に浮かんだのた。その瞬間、我に返る。 沙奈絵の肩を強く掴んで、少し引き離して、やっぱり駄目だと告げた。くしゃっと顔を歪ませて 目に涙を溜めた沙奈絵が見つめ返した。 「本当にもう駄目なんですか?」 「うん、ごめん。俺、帰らなくちゃ………」 そんな梅本に、沙奈絵は何も言わなかった。瞬きをする瞳から、大粒の涙がポロポロと落ちた。

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