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言い訳 4
沙奈絵の家を出た梅本は、和輝がいる家を目指した。まだ夕飯に間に合う。夕飯には和輝が好きなハンバーグを作ろう。そう思うと自然と足取りが軽くなった。
帰り道にあるスーパーに寄り、夕飯の材料をカゴに入れていく。そう言えばナツメグとオールスパイスが無かったなと思いだして、それもカゴに入れてレジに向かった。大して買ったつもりは無かったが気が付くとカゴがいっぱいだ。調子に乗り過ぎたなと苦笑しながら、二袋に分けて詰めると案外重たいが、和輝の喜ぶ顔を思うと重さは気にならなかった。が、家が近づくに連れて重さが腕にくる。どんな顔して会うのかと考えると、何となく足取りも重くなった。
梅本が家に着くと、和輝はソファーに座ってボンヤリしていた。帰って来た梅本を見て少し困った顔をしていた和輝だったが、夕飯を一緒に作ろうと声を掛けると、のろのろと立ち上がって側に来た。
「もしかしてハンバーグ?」
和輝が少し嬉しそうに笑っている。
が、やはり和輝にしては控えめな言動が、あの事に気がついているんだなと感じさせる。
沙奈絵の家を出たときはすべて告白して謝ろうと思っていたのだが、本人を前にすると怖気づいてしまった。和輝が何か知っているなら、正直に告白しようと思うが、元気がないのが単に思い過ごしなら、敢えて自分から言わなくても良いかも知れない、という狡い考えが浮かんでいる。
だから梅本はいつもの調子でハンバーグの調理を始めた。和輝が玉ねぎ切ると言ってくれたので、みじん切りを頼んだが、鼻を啜りながら、やたら細かく刻んでいる。見れば、殆ど目を瞑って闇雲に切っている感じだ。あまりの涙に驚いて、玉ねぎ弱かったっけ?と聞くとそうでも無いよとキレられた。
和輝が切ったそれを受け取って、フライパンで飴色になるまで炒めると、玉ねぎの甘い香りがしてきた。それを皿にあけて粗熱を取る。
何となく手持ち無沙汰になって和輝の方を見ると、和輝もこちらを見ていた。
元気ないねの一言が藪蛇になりそうで、何も言えなかった。それを誤魔化してキスをしようとしたが、すいっと躱されてしまう。それでも懲りずに抱きしめると、和輝は梅本の肩に顔を埋めてきた。小さなため息に混じって和輝が何かを呟く。
「……あぁ、ニオイか。」
だが、梅本にはなんの事か分からない。話が読めず聞き返す梅本に、和輝はイライラした様子で言い返した。
「だからさ、先輩、他所んちのニオイがするよ。」
しばし沈黙してしまう。しかし、和輝の鋭い指摘に梅本は、条件反射でとぼけてしまった。
「えっ俺?ニオイかぁ、うーん、実家のニオイじゃね?今朝実家から大学行って、こっちに帰ってきたんだから、当然でしょ。」
そんなことを言って誤魔化そうとする梅本に、和輝は、俺の嗅覚は犬並みだぞ!と言う。威張っているのか自慢しているのか…そんな所が可愛いし、和輝ならそのくらい出来そうだなとも思ってしまう。そんな気持ちが顔に出てしまっていたのだろう。
「今焦ったね?」
と突っ込まれた。
和輝はハッキリ何かを知っているわけではないらしいが、イイ人出来た?とかもうしたの?と核心を突く質問を次々に投げ掛けてくる。全て察しているのだ。
「どうするの?これから。その人に乗り替える?」
と言われて、とっさに遊びだから…と答えたが、もうこれは正直に言うしかないと観念したのだった。
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