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言い訳 7

 今度こそ帰ろうと和輝の待つ家を目指す。ケーキでも買って帰るか……と思ったが、好きなのは自分一人なのだと梅本は思い直した。それよりも、和輝に先程の話のをしなくては。なんと説明しようか悩みながら歩いていたら、いつの間にか沙奈絵と別れてから2時間近く経っていた。 すると、もう間もなく家に着くというところで、写真部の後輩から電話が入る。 「梅本さん、今から来れますか?竹井さんがちょっと…」 と言われて沙奈絵に何かあったのだろうか?と胸騒ぎがしたが、和輝に二人でいるところを見られたし、追いかけていった事で心配もしている筈だと、梅本は一旦家に帰った。和輝に説明してからもう一度行こうと。 しかし、和輝はまだ帰っていなかった。部屋の灯りはまた点いておらず、日中の空気が籠もったまま、蒸し暑い重たい空気が立ち込めている。仕方なく玄関から一番近い寝室に入り、メモ用紙に簡単なメッセージを残した。今日こそちゃんと終わらせて帰ってくるからと思いを込めて。 それから電車で後輩に呼び出された場所に行ってみると、写真部の後輩4人で飲んでいた。その中に酔いつぶれた沙奈絵がいる。後輩らの話だと、ずっと泣きながら梅本の話をしていたそうだ。 「梅本さん、ちゃんと送ってあげてくださいね。あと、ちゃんとここに戻って来てください。話があるんで。」 後輩の一人にそう言われて、仕方なく沙奈絵おんぶしてマンションまで連れて帰った。ベッドに寝かせて家を出ようとしたところで、目を覚ましたのか、すでに起きていたのか、沙奈絵に呼び止められる。 「梅本さん、帰っちゃうんですか?」 「あぁ、うん…そうだね。もう帰るよ。水飲むなら持ってくるけど?」 「いえ…大丈夫です……」 「じゃあ、うん…じゃあ帰るよ。」 沙奈絵は、そのまま帰ろうとする梅本を見て、流石にもう諦めたらしい。 「送ってくれてありがとうございました。もう大丈夫です。ご迷惑かけてすみません。」 と言って壁の方を向いてしまったが、梅本はその背中に帰るね…とだけ言って沙奈絵の家を出る。すると、見られてたのかと思うほどタイミングよく先程の後輩にちゃんと送りました?とメールで聞かれた。が、どうせ戻る予定なんだし、と返事をするのも面倒で、そのまま先程の居酒屋に戻る。途端、3人に囲まれて散々後輩たちに説教をされた。和輝と同じ学年のこの3人は一年の付き合いがあるからか、梅本にも容赦がない。 「梅本さんには松井がいるでしょうが!」 「浮気とか二股とか最低です!」 「沙奈絵ちゃん、めちゃくちゃ傷付いてますよ!」 などと、言いたいことを言う。他人から、しかも後輩から言われると、腹が立つが、反論できない。言われて当然だなと項垂れたまま後輩の言う事に頷いていたが、その後は段々と話が逸れていって、梅本には関係のない奴の愚痴を延々と聞かされ結局真夜中になってしまった。閉店時間になって追い出されると、終電はとっくに終わっていて通りを歩く人は数人の酔っぱらい以外もういなかった。後輩達と別れて真っ暗な道を家路につく。家に着く頃には空も明るくなり始めるだろう。 あの日もこの道を歩いたなと、初めて和輝の家に行った日の事を思い出した。梅本にとって和輝はどうしても手に入れたい存在だった。あの時、必死で手に入れたのに、どうして自分で傷付けてしまったのだろう。魔が差したと言うより他ないが、自分のバカさ加減に呆れてしまう。でも、もう清算してきたのだ。ちゃんと話をして謝ろう、そう思って空を見上げると、沙奈絵と見たときよりも、月がずっと高く昇っていた。

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