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しつこい人 1

 最近、先輩との関係がギクシャクしている。いや、それを通り越して最悪だ。 せっかくこの間のゴタゴタが収まって、改めて付き合い始めて一周年を二人で祝ったところなのに、今度は先輩が勝手にいじけているんだ。いじけてるって言うか、勝手に妄想して勝手に嫉妬している……俺の初めての人に。 何がきっかけって言えば、まぁ、この前の浮気騒動なんだけど、状況悪化の発端は、そう、正に一周年を祝ったその日の夜、セックスをした後のあまりにもお粗末なピロートークに俺が腹を立てたからだ。 「ねぇ、和輝?」 愛を囁いた甘い声のまま、俺の唇を食みながら、先輩が話し始めた。 「なんでそんなに上手いの?どこで覚えたの?」と。 まるで、これからもう一回戦始めようかと言うくらい甘い声で、唇だけでじゃなく、首筋や胸にまでキスしながら聞いて来た。俺はそれに対して何の話?と聞き返す。だけど、もちろん、何を聞かれているか分からないわけじゃない。飯を食いながらする話じゃ無いけど、ましてやこんな時……二人で愛を確かめ合った後に話す話じゃないはずだ。俺はがっかりしてため息をついて、先輩を押し返した。それでもしつこく、いいじゃん教えてよ、と聞いてくる。  今までも何度かそういう事があって、その都度俺はやんわり躱してきたんだ。答えたくないって言う俺に、初めは先輩が怒ってた。恋人同士なら隠し事はしないだろって。でも言いたくない事だってあるし、言わない権利だってあるはずだ。俺はその人について、話すつもりはない。だから、先輩が何を言っても答えない。でもそういう俺の態度を見て、何か勘繰って下らない事を考えてるらしい事は気付いていた。だけど、今回はたちが悪い。 「馬鹿じゃないの?今する話?あぁ〜萎えた。一緒に寝たくないんだけど?」 「別に聞いたっていいじゃん。なんで駄目なの?」 「いやいや、ちょっと待ってよ。別れた男の話なんて思い出したくもないし、喋りたくもないでょ。本来なら聞きたくもないんじゃないの?俺なら嫌だよ。先輩が付き合ってた彼氏の話とか…先輩の場合は女の子の話もあるけどさ、聞きたいなんて思わない。」 「それは和輝の場合だろ。俺は最初の時からずっと気になってる。」 あまりな言いように腹が立って、ベッドから蹴り飛ばして追い出した。 まぁ、そんなことがあって……今は家庭内別居中だ。 それで今は、寝室のベッドは俺が使ってて、先輩はリビングのソファーで寝起きしている。先輩がリビングにいる時は、なるべく長居しないで、用が済んだら部屋に入るし、先輩も俺がキッチンにいる時にはソファーから動かないし、喋りもしない。 最悪の状態だ。ホント、最悪。 付き合い始めならいざ知らず、付き合って一年も経った今頃になって、気になって仕方ないって、どんだけだよ。 でもさ、実際のところどうなのかな、みんなそう言う事って気にはなるだろうけど、無理やり聞き出したりしなんじゃないかな…? そんなこんなでここ数日は、家での険悪な気分を引きずったまま、大学に行っていた。あんまり話もしたくないから、学食でも端っこに座って一人で過ごすことが多くなってた。早く諦めてくれたら良いのにと思うのに、先輩は諦める気配がない。割と短期で飽きっぽいくせに、何なの?この執着。 でもまあ、こんな最悪な状態なのに、お互い外泊しないで家に帰るんだから、まだ捨てたもんじゃないかもな。 とはいえもう半月はこの状態。いい加減にしてくれよと辟易しながら送る日々だった。

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