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それから、 5

先輩の胸に耳を押し当てると、ドクンドクンと力強く脈打つ心臓の音が聞こえる。幸せだな。 「起きてるの?」 と、目覚めたらしい先輩が俺の頭を撫でてきたから、起きてるよ、と答えると、下唇を軽く喰まれた。お返しに上唇を喰んでみる。お互いに柔らかさを確かめる様に、唇を触れ合わせている感覚が心地いい。二人を包む空気が甘くなって来たところで、不意に先輩が笑った。 「ん?何?」 「いや、思い出し笑い。」 キスを続けながらそんなことを言う。 「和輝の会社の…橋本さんだっけ?の彼氏…面白かったよね。」 と言われて、俺も、あぁあの人!と思い出した。ササキさんだ。 目つきが鋭くて、見た目は少し怖い印象なのに、性格が何だか可愛くて茶目っ気があって、不思議な雰囲気の人なんだ。先輩と変わらないくらいの背丈だけど、話し方も仕草も少し女性的で、かわいいと言うか……うん、まぁ個性的。ハチミツみたいな色の髪に色素の薄い目が印象的だった。すごく気を遣う人らしくて、橋本さんの側にいてあれこれ世話を焼いていたのが面白かったな。夫婦って感じだった。付き合い始めて20年と言うのも頷ける空気感だった。 「恋人とかパートナーってさ、一番近い存在だから、つい甘えてわがまま言いたくなるんだけど、それじゃやっぱりダメなんだよね。甘えたい相手だからこそ気遣いが大切なんだと思うよ。勝手ばかりしてたら長続きしない。まぁ俺も、最近気がついた事なんだけどさ。だから、お互い大切にね。幸せに歳を重ねていけるといいね。」 て言ってくれたのが、すごく心に響いた。確かになって思う。そういう事って、意識してないと甘えすぎてしまって、段々わがままになっていくんだ。相手を思いやれる関係でいないとって事なんだろうな。でも、橋本さんが言ってた事に、ササキさんが「もっと甘えていいのにぃ。」って抱きついたりして、見てるこっちが照れちゃうくらいだったけど、二人を見てると橋本さんよりササキさんが気を遣い過ぎてるようにも見えて面白かった。 二次会で恋人のササキさんと少しだけ話をしたけど、橋本さんへの愛がひしひしと伝わってきて、気持ちが温かくなった。少し心配そうに職場の事なんかを聞いてくるのが保護者みたいで、それを聞いてる橋本さんは煩そうに、余計なこと言うなよ、って言ってるのが家族っぽくて面白い。The!真面目って感じの橋本さんと個性的な風貌のササキさんは不釣り合いな感じで、紹介された時は意外だったけど、二人のやり取りを見てたらすごく納得できた。 俺たちも、十年後にあんな風になっているんだろうか。まぁ、俺も先輩もタイプが違うから、また違うとは思うけど、周りの人から見ても似合いだねって言われる様になりたい。 「ササキさん、面白かったな。でもめちゃくちゃいい人だったよね。俺、あの人好きだな。」 先輩の言葉に俺も頷いて、 「うん、俺も好き。二人ともいい空気感だったよな。雰囲気がもう、完全に長年連れ添った感溢れてた。俺達も十年後、ああなってるのかな?」 先輩を見つめて言うと、 「あぁ、そうだね。でも、もう今だって俺たち負けてないと思うよ。十年後は世界一じゃない?」 先輩が見つめ返して言った。全く、自惚れるにも程があるけど…実は俺もそう思ってる。俺達より似合いのカッブルなんて、きっと他にはいない。 「そうだね。………うん、そうなろうね。」 微笑んだ先輩の唇が近付いて来て、再び触れる。カーテンの隙間から漏れた朝の日差しが眩しくて、そっと目を閉じると唇が触れては離れる音だけが耳に響いて、触れ合った部分が溶け出して一つになる様な感覚になる。この世界に二人しか存在しないんじゃないかっていう心地よい錯覚。この先もずっと二人、この心地よさを感じながら、生きて行きたい。  ずっと、ずっと。 それから、 終 Spice of life  完

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