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BLOOM
職場からタクシーに押し込まれ、ほぼ一本道を進んで歓楽街に向かっていく。
「向かっているのはBLOOMですか?」
「そうだよ、よく知ってるね。」
「あまり行けなくても調べはしますから。一応学校を卒業したので月一は何処かに行くようにはしようと思っているんです。BLOOMは敷居が高いですけど……」
清太郎は否定せずに苦笑いだけを浮かべた。
SM関係のお店は学生がひょいひょいと行ける金額では無い。
特に男性の料金はお店のシステムや遊び方により大きく変動するが、余裕が無いと楽しめない。
お店によって、アットホームであったり、和風であったり、洋風であったり、女王様もM女さんも美人揃いであるとか、それだけではなく性癖やタイプが多様であったり、BLOOMの様に男性も働いていたり、お店を調べるだけでも多彩で面白い。
BLOOMはかなり玄人向けのお店に分類される、春斗にとっては憧れのお店だ。
繁華街の中心部の渋滞ゾーンを少し抜けて、ほんの少し路地に入った所に、5階建てのビルがある。
入口は四階で、エレベーターが空いてすぐの重い金属の扉を開ければ、赤と黒と金で構成されたエロティックな夜の雰囲気が広がり、バーカウンターがあり、お酒を飲んだり喋ったりする為のスペースとなっていて、最奥の螺旋階段を登ると、そこにはショーフロアが出現する。
薄暗くステージを囲む様にボックスの席がズラリと並び、その一つに案内されてボックスの一つに座る。
開店直後だからか、客は疎らでスタッフも少ない。
舞台の対面の後ろは一段低くなった場所は金色の柵で区切られて広めの檻になっている。
インターネットの情報で見たままのお店に鼻息も荒く、春斗はソワソワと辺りを見渡す。
エナメルで作られたバニーのコスチュームを着た小柄でふんわりした女性が跳ねるようにやってくる。
「はじめまして。M女スタッフのユカと申します。」
座っている春斗に目線を合わせる様に屈むと、胸の谷間が強調される。
清太郎に頼んでいた飲み物を持ってきてくれた様だ。
「はじめまして。春斗です。」
「セイ様がお支度をされている間、お話させてください。」
隣に座ったユカは、ニコニコとして大変癒やし系だ。
丸顔に丸目、お化粧は濃いめながら可愛らしい雰囲気、ボーン入の本格的な構造のバニースーツである。
「バニースーツかわいいですね。ボーン入りって凄く珍しい、オーダーメイドですか?」
春斗の相好は完全に崩れていた。
「そうなんです〜!どうしても元祖のプレイバニーに似てるエナメルの物が着たくて、ちょっと身長低いけど作ってもらいました。」
「とても良く似合いますね。」
そこからコスチューム談義が始まる。
出勤しているスタッフのコスチュームを遠目に見ながら二人で話し込んだ。
「楽しそうだな。」
「セイ様!おかえりなさいませ!」
ユカはぴょんという音が聴こえる様に飛び上がって床に膝をつく。
吊られて春斗も床に跪いてしまった。
ケタケタと笑う清太郎は椅子に座る。
「春斗、馴染んでるな〜」
呼び捨てにされてほわほわとした気分になる。
「今日はスーツ汚れるから椅子に座ってなさい。」
「はい……」
何となく恥ずかしい気分になりおずおずとソファに座る。
気が付けば、周囲に客が増えていて、ガヤガヤと賑やかな雰囲気になっている。
「春斗はマゾなんだね。」
「あまり経験無いですけど、紛う事なくマゾだと思います。」
「パートナーとかいなかったのか?隠してないみたいだし、いくらでも出来そうだけど。」
「出来なかったですね。余裕が出来るとSMクラブに行っていましたけど……」
「どこの女王様に通ってたんだ?」
「それには悲しい事情があり、特定の方が居たわけではないです。この方素敵だなと思って二度目に行こうと思うともう辞めていました。」
「それは不運だな。今までどんなプレイしていたんだ?」
思い返してみると、春斗のプレイはコレというものが無い。
しかし、SMクラブではどんなマゾヒズムを持っているのか説明してプレイする事になる。
「本当は女王様の好きにされたいだけなんですけど、NGは流血する様な事と目隠しとだけ伝えていました。」
「その心は?」
「相手の性癖次第で流血するほどの何かは受け入れられるけど、衛生面が怖いのと、目隠しは女王様が見えないからです。」
清太郎とユカはなるほどと頷く。
「セイ様は?実は私、セイ様の性癖を落ち着いて聴いたことがありません!教えていただきたいです!」
「僕も知りたいです!」
ユカと春斗は手を取り合って清太郎を見つめる。
清太郎は少し嫌そうな顔をした。
「俺は、俺が何をしててもついてくるマゾが好きだなあ。その人が本当ぶっ壊れるんじゃないかと思う様な事をやって、それでもついてくるやつ……内容は人それぞれだけど。」
「ちょっとヤバいやつっぽいですね……」
「ユカはそういうクズの発想ちょっとすきですけどね。」
「ちょっとだと……?」
「あっ……ちょっとではないですね……」
ユカは口に手を当ててふふふと笑って誤魔化した。
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