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夜更け

徐々に夜が更けてくると、清太郎は他のテーブルを巡っていた。 つい目が追ってしまうのは、初めての場所に一人で取り残された不安と、接客をする清太郎の態度や表情の変化が面白かったからだ。 ある人には困った目元をしながら笑顔で接しているし、情熱的に明るい態度で前のめりにしたり、清太郎にプレイを強請った女性を縛ったり叩いたり鞭を打ったりしていたり。 多彩な仕事ぶりだ。 扉を潜れば秘匿されたSMが好きな者同士の集まりであり、春斗だけでなく全員にとって、救いの場所の様だ。 清太郎が席を外してからは、スタッフの女の子達が代わる代わる挨拶に来てくれた。 M女さんも、女王様も、自分のコスチュームへの拘りや好み、困っていること、普段購入する場所、春斗の他に作っている人やお店の情報、色々聴かせてくれる。 その全てをしっかりメモ帳に書き込んでいく。 話している内に、その場で別の席に居た馴染みのM男性を連れて来て、コスチュームを注文させる女王様まで現れた。 凄く、仕事をしている気分になる。 ユカがずっと隣で、採寸や会話やメモのアシスタントをしてくれた。 一段落すれば、他愛ない話し相手にもなってくれる。 「春斗さんは、コスチュームを女王様に着て頂くって事以外に、どんな性癖を持っているのですか?」 「主従関係になりたいですね。プレイ内容は相手次第だと思います。」 「わかります〜私もお仕えしたいとか、お役に立ちたいとか思います。」 「あ、でも、この方にお仕えしたい!と思わされたプレイは、鞭で打った後に真冬なのにベランダで冷水ぶっかけられたやつですね。虫けら感があって最高でしたね。その方はそのプレイの直後に引退してしまいましたけど。」 「随分なプレイしてるな……」 清太郎が戻ってきた。 「まずは仕事の報告をせよ。」 「はい!まず、衣装のご注文が2件、採寸させて頂きました。」 パッとユカが寸法と希望デザインのメモを纏めて渡してくる。 一番上に『衣装販売の値段、使用する布の質と値段確認』というメモがある。 ユカの有能さには感動を覚え、きっと彼女のご主人様は彼女を上手く使える有能さを持っているか、次々にダメ男を作り出す魔性のM女かのどちらかに違いないと思う。 「デザインの原案を描いたら、咲女王様とブタマゾ様ご注文の藤女王様の物もこちらに持参する予定です。日程については、藤女王様と連絡先を交換したのでそれで決めさせて頂くか、セイ様経由で連絡するかさせていただきます。」 ユカはパッと別のメモ束を差し出す。   「他にコスチュームのメーカーやお店、夫々の使い勝手や価格帯の情報も結構得られました。」  そして、最初にユカから受け取った紙を見ながら再び口を開く。 「それから、セイ様には受注した2件の事で相談かありますので、来週の水曜日以降に一度お時間を頂きたいと思おます。以上です!」 「わかった。」 春斗は、ふぅと息を吐いた。 物件の大家という割と遠い関係の人ではなく、軍隊の上官の様な雰囲気だ。 収穫物を丁寧にバインダーに挟み、鞄の中に収める。 春斗にとっては宝物だ。 ホット一息。 「セイ様すみません、元々お休みだったのにご負担かけますが、そろそろ二部のお支度を……」 「ごめん、一部のミオちゃんはあれで限界みたいだから。悪いけど、ユカ出てくれる?」 「おまかせくださいな〜春斗さん、応援してくださいね!私頑張りますよ!春斗さんにお見せしたいので!セイ様の本気のやつ!」 鼻息荒くバックヤードにズンズンと音がする様な勢いで向かっていった。 「一日2回もショーに出るの大変そうですね……」 「本来は今日、来れなくなった子のショーだったんだよ。やる事聴いてその通りにやったんだけど。煙草落としたらもう限界の合図だった。後半まであれじゃお客さんも退屈しちゃうから。元々の気持ちの籠もった相手じゃないと頑張れないよね……」 「色々あるんですね……ユカさんはセイ様の奴隷さんなのですか?」 「いんや、付き合いは長いけど違うよ……」 含みのある言い方に、きっと本当はそうだけど、客商売の手前言えなかった事かもしれない、春斗は無粋な質問をした自分を恥じる。 ショーの打合せは何も無く、ステージの音が消え、スポットを浴びながら、ランジェリーに薄いベールを被ったユカが登場する。 まだ清太郎は横にいて、どうするのかわからない。 ユカはステージに背を向けて座ると祈り始める。 薄い布の奥で、しっかりしたハリのあるお尻の肉がティーバックに彩られている。 賛美歌の上に音楽がゆったりと重なってきて、サスペリアの音楽が流れ始めると、清太郎はやっと立ち上がった。 いつの間にか乗馬鞭を持っている。 逃げるんだユカちゃん!!!という心の叫びを飲み込んだ。 この時点で、春斗としては最高の出だしだと思った。

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