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思い出
小学生の頃は、春斗はとても華奢だった。
クラスで一番背が低く、大人には心配されたが、クラスの女の子達は彼を小動物の様に可愛がった。
おままごとの延長の様に、犬の役割を与えられ素直に犬の真似をすると頭を撫でてくれる。
それが一時流行ったのだ。
そして、ある女の子は大変な愛犬家で、実際に大型犬を飼っていた。
小学生ながら、ドッグスクールの訓練にもきちんと参加していて、見事な腕前で春斗を犬にした。
ロールプレイは幼児期の成長に欠かせない、その経験は小学生になっても、大人になっても残るものだ。
子供というのは純粋にドギープレイも出来てしまう。
調教師として申し分のない女の子の他にも、動物を飼った事が無い奔放な女の子からは躾と称して殴られ、その逆らえない強さもまた、春斗の人格形成に多いに影響した。
女の子達の持ち物をわざと取り上げては捕まって叩かれる。
そんな遊びを繰り返していた。
先生に女の子達が叱られても、春斗本人は意地悪をされている意識も無く、悪戯をして叱られているのだから対等で、その遊びが無くなったらつまらないでは無いかと思っていたが、叱られた女の子達は一斉に興味を無くしてしまった。
女の子ともっと遊びたいのにと、春斗は不貞腐れるばかりだし、みるみる内に身長は伸びていって、かわいいペットの雰囲気では無くなってしまった。
中学に上がると、女の子達はこっそりメイクをしてみたり、休みの日の洋服について盛り上がったりしていた。
学園祭ではジャンケンに負けて衣装担当になり、初めて服を作った。
女の子が大多数の中で教わりながら作業をして、自分が作った衣装をクラスメイトが着て、凄い凄いと喜んでくれる。
女の子が喜んでいると、なんて幸せな気持ちになるのだろうかと思う。
もっと喜ばせたい。
高校生になると、いよいよ洋服というものを趣味で作る様になっていて、部活も手芸部に入った。
太ってるから流行ってるかわいい服が着れないというクラスメイトに、かわいい服をプレゼントして、泣いて喜ばれた。
その子が初めての彼女で、初めてのセックスで圧死しそうになったのだ。
数秒意識を飛ばしながら女の子に埋もれる喜びを感じていたが、向こうはそうはいかなかった、あまりにショックでダイエットを成功するまで距離を置こうと言われた。
そのままで魅力的だと説得しても、これは私の問題だと譲らなかったので、応援する事にした。
ところが、ダイエットに成功してしまえば、その根性と隠された可愛さからモテ期が到来し、春斗との復縁には至らなかった。
もう、大きいサイズの服を作ってあげなくても、彼女は素敵な服を着られるのだ。
それはきっと、彼女にとって幸せな事だと思う。
完全に捨てられたのだと理解した。
そう考えていると、何故だか妙に興奮してきて、元彼女がバレーボール部の部長と付き合い始めたらしいという噂で、彼女の最初の男は俺なのにと言いながら、スポーツマンの男に抱かれる彼女が自分を嘲笑う想像をしてオナニーし始める始末だった。
やるせない思いで、ぼんやりバレーボール部の練習を眺めていた時、恵まれた体躯から叩き飛ばされるボールに感極まり、元彼女に嫉妬さえした。
唯一男性にときめいたとすれば、この時しか無い。
それからは、専門学校に進学して、自他共に認める変態としての生活を謳歌した。
クリエイターの環境というのは、変態でも気にする人は居ない、寧ろ執着があればあるほど創作は尽きないのだ。
SMクラブ行きたいから死ぬほどバイトする等と公言しても許される最高の環境だった。
思い返してみると、女の子から齎される痛みや苦しさや切なさや喜びという、ありとあらゆる刺激を愛していた。
自分の感情が揺さぶられる事が、春斗にとって生きるという事に等しい。
清太郎は初めて会ったとき、天使が寝てる絵画を見る様な静謐な気持ちになった、その一方で王子様であり、悪魔でもある。
何人もの女の子達からそれぞれに与えられた物を、一人で起こす、大地震の様だ。
清太郎の魅力に納得して、春斗はまた新しい紙を手に取る。
好きなもんは好きだよね。
好き……?
好きだねえ……
ほんとに……
清太郎に着てほしいスーツのデザインを走らせる。
細身で深く鋭い角度の前合わせのジャケット、この形は美月好みで作ってくれそうな気がする。
巨大な花をあしらったコートなんかも似合いそうだ。
形は少しどっぷりとした形にして、キャメルに黒い花だ。
フェルティングニードルで花を描いても良いかもしれない。
手編みレースのロングトップスに、レザーのパンツを履いてたらかっこいいだとか、レザーのロングコートを着てほしいだとか、
欲望赴くままに陽気に何枚も何枚も書いていく。
仕事中だという事も忘れて。
「おい……おーーい………おい!!!!」
ウギャアと声を上げて振り返れば、そこには本物の清太郎が居た。
「今日もかっこいい……」
思っている事と、口に出した事が逆だった。
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