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Cat tail

蔑む様な目をした清太郎と、ブフッと吹き出す深月に、春斗は居た堪れない気持ちになる。 「ごめんなさい……間違えました……お疲れ様です……」 「お疲れ様。で、デザイン出来たんだって?」 「はい、これです。生地見本はまだ用意出来てないですけど、何パターンか。」 「じゃあ咲さんに写真を送ってみよう。」 「それなら、コッチも送ってご意見伺って貰いたいです、女王様が考える女王様としてどうかと。」 「わかった。」 送り終えて暫くすると、直ぐに清太郎に通話がかかってきた。 咲のドレスは洗濯が出来るサテンがいい、予算は気にしないからデザインに合せた好きな生地でという器の大きい返事が来た。 エナメルを選ばない理由は、エナメルは若い子が着ればいいという事だ。 深月のアドバイス通りだと、春斗は感嘆とする。 そして、もう一人の女王様の分に関しては、ジャケットを肌が透けるフェミニンな素材にして欲しいという要望だ。 強過ぎるのは彼女のプレイスタイルに合わないという理由、流石にプレイスタイルまでは考えていなかった事を反省する。 ハリのあるオーガンジーでふんわりさせるか、エレガントなレースにするか、両方作って合わせてみても良い。 勉強になった。 「それはそうと、それだけで俺は呼ばれたのか?藤ちゃんに連絡先聴いたって言ってたし。」 「うっ……すみません、お近くにいらっしゃるならお会い出来たら嬉しいなぁ……と思ってしまってつい……」 「あ、マジでそれだけなの……」 「あぁ……ゴミを見るような目……かっこいいです……」 その日、春斗は清太郎の蔑む目を思い出してゾクゾクする事で、いつも以上の精度と速度で仕事をした。 仕事ぶりが良かった為、深月は度々清太郎を呼びつけようと思った。 数日間、仕事中の許可が出た時間と就業後、そして休日を使ってコスチュームは総て完成させた。 直ぐに清太郎に連絡し、その日の内に持参する事にした。 「いらっしゃいませ!」 ユカは相変わらず朗らかに出迎えてくれる。 「女王様方は手が空き次第いらっしゃるので、お飲み物飲んでいてくださいな。」 「あの!良かったらそれまでの間一緒に飲んでいてくれませんか!」 「わあ!喜んで!」 色々とお世話になったユカへのお礼をしたかった。 「これ、採寸とかお手伝いしていただいたお礼です。」 咲のドレスに使った残りのレースを使い、コットンパールを縫い付け、リボンで手首の大きさを調整出来る、かわいいM女さん向けのグローブだ。 「かわいい!!咲様とお揃いのレースなんて!畏れ多い!でも凄く嬉しいです!」 喜んで貰えた事に胸を撫で下ろす。 エナメルで出来たフレアミニスカートのコスチュームに、レースのグローブがプラスされるだけで、なんだか洗練された大人のM女に見える。 ユカは、グローブをはめた手をうっとりと眺めていて、春斗を和ませた。 そして、スレンダーな藤に作った衣装もショーの時に着て見せてくれた。 オーガンジーで作ったジャケットは、暗い店内では肌が透けて見え、ステージに上がると糸一本一本が光を反射し、その光に負けない華やかな顔立ちと相まって、圧倒された。 ショーの内容は確かに、咲の言った通りハード過ぎる事の無い、世界観に引き込む様な雰囲気の良い物だ。 鞭の扱いも、苦痛を与える道具では無く、従わせる為のアイコンの様な、自主的に跪かせてしまうような、存在感のプレイだ。 「今までに見た事ない位かっこいいな。」 ショーの間にいつの間にか、清太郎がやって来ていた。 「良かった……」 いくら清太郎の存在を感じていても、春斗はステージから目を離す事はしなかった。 自分の作ったコスチュームで、女王様が、堂々とステージに上がっているのだ、自分が一番夢中にならなくて、誰がなると言うのかと春斗は思う。 やっと実現した目の前の光景に、この世の楽園を見ている様な心地がした。 「春斗、着用してる写真撮ったの?」 「とってないですけど。」 「店内撮影禁止だから間違ってないけど、仕事用に特別許可してやるから、撮らせてもらいに行くぞ。」 「良いんですか!!」 小躍りでミラーレスカメラを取り出す。 「割と撮る気満々だな……」 「一応、後ほど外でサッと撮らせて頂けたら良いなとは思っていたのですよ。」 「コスチュームのSNSは?」 「バッチリです!Cat tailという名前で出す事にしました!」 「独立する気ゼロだな……」 「良いんですよ、もし独立したくなったら暖簾分けしていただきますから。」 ステージの上で特別に撮影する事になり、ステージの下から煽る様にして狙う。 撮られなれている女王様からは、ここを撮りなさいという意志が伝わってくる。 素人でも、M男であれば、そこ!!!という興奮するポイントで多少はかっこいい写真が撮れる。 夢中になっている内に、咲がやってきた。 春斗の作ったドレスを纏っている。 狙い通り、バイアスで贅沢に布をとった事で上品に身体に纏わりつく。 長年コルセットを着ていた事による、締まった肋骨とウェストからの下腹部とヒップの膨らみ、鼠径部から始まる破廉恥なスリット、しっかりした太ももからギュッと締まった足首まで脚一本が一人の人間の様に見える。 春斗は驚いて腰が抜けた。 「どうした……」 「かっこよすぎて腰抜けた……」 辺りが笑いに包まれる。 「春斗くんは優秀ね。私は今度カメラマンに撮影してもらうわね。楽しみにしていて。」 「周年のフライヤー?」 「そう、完璧じゃないかと思うの。」 「良いんじゃない。」 清太郎と咲は業務上の話し合いを始めた。 春斗は、次に行くべきお店やイベントをユカと話し合い、いよいよ自分のやりたい事の道筋が出来つつある事に胸がときめいた。

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