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頭がいっぱい

春斗は定休日の前日になると、BLOOM以外のお店にも積極的に足を運ぶようになった。 他のお店でも幾人かコスチュームを注文してくれる人が現れた。 そして、SMプレイもした。 バーで話していると、物のついでと言わんばかりに女王様は春斗をからかい、弄び、命令する。 楽しそうな女王様達に尊さを感じた。 ところが、鞭を打たれては、清太郎の鞭を受けたユカはあの時どんな痛みだったのだろうと想像し、緊縛されれば、清太郎の縄はこれと似ているのだろうかと想像した。 これはいけないと思い、今度はSMクラブの情報を収集して、好みが合いそうなベテラン女王様の予約をした。 SMクラブは飲食店であるバーと違って風俗店だ、バーではやらない様なS男性とは違う性的なプレイをしてくれるに違いないと思ったのだ。 しかし、ペニスバンドでイラマチオされながら、清太郎には本物のペニスがあるのだと想像して、萎えなければ射精もしないシリコンのペニスをいかせる気概で必死に丹念に舐め回し、背面からアナルに突き立てられた瞬間、まるで清太郎に犯されている気になって一瞬で射精をした。 女王様には当然、何故許可するまで射精を耐えられないのかと叱られた。 しどろもどろに謝罪をし、お仕置きという名のご褒美とも言えるケインを受けた。 予定外が起きても鮮やかにプレイに昇華してくれる素晴らしい女王様だった。 春斗は帰宅して一人、人生は戸惑いの連続だと思った。 まさか、既に素敵だと思ってはいたものの、女性上位、女性を崇拝し女性に従う趣味を持つ自分が、男性に心奪われ、女王様を前にしてあまつさえプレイまでして頂いているのに、頭の中が総て清太郎に結びつくなんて、思ってもみなかった事だ。 こんなに女性が好きなのだから自分には男性に傅く要素は無いだろうと考えていた。 しかし、春斗の戸惑いもそう長くは続かず、これはもう清太郎が相当好きだと理解した明くる日に、仕事を終えたら久しぶりにBLOOMに向かう気になった。 春斗の冒険そのものは長く、既に夏も終わりと言える季節になっていた。 仕事中はそわそわしっぱなしだ。 自分から会いに行ったお店以外の女王様やM女さんも、お店にわざわざやってきてコスチュームを注文していく様になっているし、本業の紳士服についても流れ弾の様な注文が増えている。 そわそわしていても、この日は幸い来客も無く、黙々と積み上がった注文を縫い続ける一日になった。 ここのところの慌ただしさと、縫直しの利かないPVCを扱っているおかげで、春斗は仕事の速度が上がっていた。 深月は集中している春斗を見て、我ながらなかなか良い子を雇ったものだと思う。 「深月さん、今日BLOOMにいこうと思っているので、残業はしたくありません。」 「最近忙しかったもんね……勿論構わないけど、BLOOM行くなら、忙しい今だけでもユカちゃんに手伝いを頼んでみたらどうかと思ってるんだよね。また専門学校から紹介して貰っても良いけど、いつまで続くかわからないから本業ある子が良いんだ。」 「人が増える!!助かる!!訊いてみますね!!」 「実は舞台衣装の人からもエナメルのフェティシュな物頼みたいって打診もあってさ、出来れば受けたいけど流石にオーバーワークだからね……」 「自分で思ってたより注文入ってしまいましたからね……」 「そうなんだよね……清太郎が居たら、雇用形態とかそのへん話しもしたいって言っておいて。」 「何でそれ清太郎さんなんです……?」 「大家さんだから……?」 「絶対大家さんの範疇超えてますけど、まあ、自分達でやって失敗するよりマシですね。」 「そうなんだよ、餅は餅屋だよね。よろしくね。ところで今日の服かわいいね。」 「そうなんですよ~かわいいんですよ〜」 「ギムナジウムの色男みたいだね。」 春斗の服装は、麻の白いシャツに黒のサマーウールのベストとパンツに、襟元は赤いリボンタイ、靴は黒のオクスフォードである。 靴下もタイと同じ赤だ。 無難な合わせに少しの悪戯心、これが深月の好みにピッタリハマっていた。 「夏の終わりって感じ……」 二人だけで受けた仕事をウキウキとこなして楽しく過ごしているlong tailにも、新しい空気が入ってくる気がして、意を決して数ヶ月ぶりに清太郎に会いに行く春斗は、今日こそ清太郎に遊んでもらうのだと、意気込んだ。 心臓はバクバクと騒がしく、もし断られたらと思うと唇が震える、手は固く握りすぎて冷たくなり、かといって承諾されても粗相が無いか心配で頭から血の気が引く。 バスに乗りながら具合が悪くなり、バス停からBLOOMまでの記憶は無かった。

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