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面接

深月の道楽だと宣ったわりには、明らかに手は足りておらず、かなり忙しい事になった。 ウェブやSNSは二階の縫製工場長が趣味で展開している。 従業員は半分が日本人のおばちゃんで、半分は外国人、工場のプライベートブランドを主に作っている。 デザインは一階の従業員と隊長が話し合って決めている。 深月は営業の為に店に居ない時間が増え、深月の受けたスーツの縫製は殆ど春斗が担当する事になった。 深月自身がどうしてもやらねばならない仕立ては、全ての仕事を終えて深夜までやっている。 「一階にももう一人、スタッフが欲しいです!」 「許可する!」 ユカと春斗は、かなり疲弊していた。 工場も、今までの取引先を一部そのまま引き継ぎながら事業を開始したが、今までより手狭になった分大混乱を来し、結局倉庫としてまた別のフロアの小さな一室を増やしたり、ある程度稼働した時にはもう秋も半ばになっていた。 夏は何処に消えてしまったのかと春斗は思うが、たまに清太郎に虐められに行くBLOOMが励みだった。 「従業員を増やす許可はするけど、ごめんね、人選してる時間が無いから、春斗くんとユカちゃんに任せたい。」 「かしこまりました!お任せください!」 ユカは事務作業にも能力を発揮しており、かなりお店全体を掌握しつつある。 深月は今までオタクっぽく、経営そっちのけの仕事をしていたかと思っていたが、かなり経営能力があった。 春斗はいつまでもオタク臭く仕事をしている。 「春斗さん、また卒業生で探しますか?それとも、心当たりとか?」 「一応声かけたい奴が居るな……連絡してみる。」 思い浮かべるのは同級生、かなり変わり者で、社会不適合者。 自宅で自作の服を作ってネットで販売している黒尽くめの男だ。 この世の者では無い感じのする。 早速春斗は連絡をして、会う事になった。 向こうから指定されたのは、古い鉄骨マンションの一室だった。 周りは事務所利用が殆どらしく、指定された部屋の呼び鈴はクラシックな真鍮製に変えられ、Push Meと矢印がつけられている。 呼び鈴を鳴らすと、人の気配を感じさせずに急にガチャリとロックが外され、少し驚いた。 「お隣くん……久しぶり……」 消え入りそうな声と共に、扉の隙間から目だけ出している。 「鴉くん久しぶり。元気そうで何より。」 「…………。」 招き入れられると、土足のまま部屋に上げられる。 一応玄関の段差はあるが部屋に床板を貼って土足にしていた。 壁は真黒に塗られていて、壁際にはハンガーラックと、黒い服が掛けられている。 中央の丸テーブルにはアクセサリーや雑貨と、装飾過多なアンティークらしい円鏡。 最奥の右手には赤いカーテンで試着室がある。 中にはこれまた豪奢な姿見があり、目を引く。 左手にはカーテンで覆われた鳥籠の様なパゴダの中にぴったりのソファがハマっていて、テーブルセットがある。 そのソファに案内されて、誘おうと思ったが自分でお店を作っている事に気付いた。 甘いルームフレグランスが怪しい空気を演出していた。 鴉と呼ばれる男は紅茶を淹れて春斗を持て成す。 「ごめん、お店やってる事知らなくて……」 「言ってないから知らなくて当然……僕はお隣くんに会いたかったし……」 蚊の羽音の様な喋り方を懐かしく思う。 「殆ど通販だけど……」 「落ち着ける場所が出来て良かったね。」 鴉は人が苦手なのにモデルをやっていた過去がある、丹精さの塊の様な顔にくっついた薄い唇が三日月の様に上がった、少し照れて青白かった顔に赤味が指した気がする。 「メールで来たやつ……僕は無理だけど、紹介したい子が居る……まだ学生だけど……良い子……もう少ししたら来るから……」 そのあとは、ひたすら無言でお茶を飲んだ。 一時間位、学生時代からこうなので、春斗は久しぶりの穏やかな時間に満足していた。 何も話さずに、近くに居られる事は貴重な存在だと思っている。 ただ、お互いに本名を忘れていそうな気がする。 「きたって……」 何の気配も、スマホの着信も、特になく、唐突に鴉は口に出した。 相変わらず怖いなと思いながら、同時に呼び鈴が鳴った。 呼び鈴を待つのは、相手を怖がらせない為の優しさらしい。 扉の方からのギャッ!!という悲鳴を聴く限り、扉の隙間から覗く顔で充分にビビらせている。 何やら挨拶を交わしながら、入ってきたのはまだ少し少年の面差しを感じるパンクスだった。 ツンツンの金髪、眉毛と唇がピアスだらけで、ガリガリの身体に黒いガーゼのカットソー、赤いチェックのボンテージパンツにエンジニアブーツだ。 「ブリティッシュパンクだねぇ……」 「彼はかわいいくんです……彼はお隣くんです……」 「はじめまして、内藤です。」 かわいいくんというネーミングに、鴉の愛着を感じる。 「かわいいくんは……とてもかわいいです……」 「やめてください。」 鴉は拒絶されて、少し悲しそうだ。 簡単な自己紹介を交わして、準備していたらしい履歴書を受け取った。 春斗は、パンクスの癖に生真面目な字を書くんだなと思った。

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