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C.B.P.
技術的な話や、給与や雇用の話をして特に問題のない事を確認した後に、春斗は大切な事を聴いた。
「内藤くんは、何を作りたくてファッションに進んだの?」
「それは……」
モゴモゴと言い淀む。
「かわいいくんは……デブ専……」
「あぁっ!何でそれを言うんですか……!!」
「採用!!」
春斗は前のめり気味である。
「えっ……」
「いやーわかるよ、モッチモチの重みを感じて圧死しそうになる愉悦。骨の軋む快楽。肉体に征服される悦楽。最高だよね。」
「ちょっと違うかもしれねえっす……」
「とりあえずプラスサイズの服を作りたいんだね、僕も最初の服作りはプラスサイズの彼女の服だった。」
「羨ましい……俺は付き合ったことは無いです……お店とかで大きい子を……」
「風俗があってくれて良かったよね、僕はSMクラブが無かったら人生の九割が終わってるから。絶望だから。」
「えぇ……」
若干困惑する内藤に、鴉は特に気にせずお茶の追加を入れたり、お菓子を出したり、余程かわいいと見える。
愛玩動物に餌を与えている様に見える。
「お隣くん……気に入ってくれて嬉しいけど……採用するかは……オーナーと話してからじゃないかな……」
変わり者にマトモな事を言われて、春斗は頷き、落ち着かせる様にお茶を啜った。
「良かったらこのままお店来る?用事あれば後日でいいんだけど。」
「すみません、今日はこのあと推しのライブなんで。」
キリッとした顔で答える。
「ほぅ……興味深い。」
「地下アイドルですよ。センターの愛実ちゃんが最高なんです、174cmに100kgオーバーだけど、体脂肪率45%の痩せ型です。元重量挙げの選手で、お姫様抱っこチェキは先着なんで、急がないと。」
「それは急がないといけない。時間を取ってくれてありがとう、来れる日を連絡してくださいな。」
「必ず連絡します。」
そうして、パンク小僧の内藤は爽やかに去っていった。
「お隣くん……今度イベントに出店する……SMの人も沢山くるから……良かったら来て……」
わざわざエンボス加工で装飾された封筒に入れ、シーリングスタンプで止められた中に、一枚のインビテーションが入っていた。
これを一人で包んでいるかと思うと、愛くるしく感じる。
「あ、このイベントフェティッシュパーティだね。」
鴉はコクリとうなずく。
「手伝おうか?」
鴉はゆるりと首を横にふる。
「妹……さくらが手伝ってくれるから……大丈夫……」
「おぉ、それは心強いね。必ず行くよ。さくらちゃんに会うのも楽しみだなぁ〜」
このイベントは、ゴシック、ロリィタ、フェティッシュ、パンク、ドレスコードのあるファッションクラブイベントだ。
パフォーマンスで緊縛やSMの人も参加している。
清太郎を誘おうと思いながら、同級生の活躍を心から喜んだ。
そして、すぐ翌日にはパンクス内藤がLong Tailにやってきた。
面接のフリをしたただのおやつの時間である。
「めちゃくちゃ可愛いです……え、本当に最高なんですけど!!」
お姫様抱っこチェキを見たユカは、興奮気味だ。
「ファーで出来たランジェリー着て欲しぃです……」
「冬イベントで、フェイクファーのウシャンカとコートと手袋のセットアップ着てた時は、あまりの可愛さにこのまま死ぬかと……」
「それは死にます。オーガンジーでふわふわ全部包むのもマシュマロボディでめちゃかわいいです!」
仲良くなって素晴らしい事だと、春斗は微笑ましく眺めた。
仕事としては、意外にも内藤はストリートカジュアルでは無く、テーラードにのめり込んで勉強していた。
本人曰く、イギリスかぶれな所がそうさせたらしい。
深月の仕事も手伝いたいという意向があった。
「そうだ、私のランジェリー部門の名前をBob tailにしようと思っているんです、内藤くんがプラスサイズやるならPuffy tailなんてどうでしょうか?膨らんだしっぽちゃんです。」
「僕のボンテージはCat tailだから良いね。でも、内藤くんは学生で、インターンかアルバイトになるし、卒業したら他の会社に就職するんじゃない?」
「それもそうですね……」
「オーダーメイドでしたら、その後引き継ぐ人が居れば問題無いのでは?そんなに大掛かりに作れないですけど、ダメですかね?作りたいなぁ……出来れば卒制は推しに作りたいなぁ……作りたいなぁ……」
胸を抑えて悩む内藤に、今まで笑顔で眺めていた深月が口を挟んだ。
「春斗くんにそっくりだね。やっちゃえばいいんじゃない?そんなに最初からバンバン入るわけじゃないし、最悪縫製は工場にも回せるし。」
真剣な顔で内藤は頷く。
「それぞれ主体性を持ちつつ、助け合ってやっていこう。因みに今日はトランスジェンダーさんがスーツをオーダーに来るよ。来週はプロレスラーさん。それぞれの特技を活かして楽しんでやっていこう。」
Long Tailの客層はここのところ非常に幅が広い。
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