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落着き

扉の先は人気のない和風の民家に繫がっており、何か工場の様な事業をやっていた家なのだろうかと思う。 連れて行かれた浴室だけは、リフォームされたのか新しい。 我に返ればただただ気持ちの悪い濡れた服を脱ぎ捨てて、脚を眺める。 列記とした拷問で、脚が壊れたかと不安だったが、本当の拷問に比べればかわいいもので、時間も短かった為に既に打撲程度の痛みだ。 大丈夫だと判断してボディソープをシャワーで洗い流してから、着ていた服をとりあえず手洗いする。 適切な洗剤も無いが、とりあえず洗って帰宅したらまた洗濯しなければならない。 しかし、この服を着る度に思い出して勃起しそうなので、着れるかどうかは不明だ。 そのような事を考えながら、ご丁寧にお湯の張られた湯船に浸かった。 脱衣場では清太郎が何かやっている。 そして、清太郎が侵入してきた。 全裸でだ。 初めて見る清太郎の全裸に驚いて、湯から立ち上がった。 交代すべきかと逃げる様に出ようとするが、肩を掴まれて湯に戻された。 「別に良いだろ俺もさっさと入りたい。」 目を逸らすべきかと思いながらも、身体に泡をつけて洗っている清太郎は魅惑的だった。 ヴィーナスが男なら清太郎に違いないと思う。 はしたないと自分を責めつつも、春斗はしなやかな筋肉のついた身体をじっくりと舐め回すように目を皿にしてじっくりと見した。 「すけべ……」 視線に気付いている清太郎は呆れた声を出した。 「だって、見ちゃいますよ、大好きな人の身体は、どうしたって。」 「お前さっきちんこしゃぶってたじゃん、今更だなあ……」 「ごめんなさい、つい眼の前に美味しそうなものがあったので……でもさっきは全裸では無かったです!」 洗い終えた清太郎の入る隙間を開けて縮こまる。 「股開いてろよ。」 「ハイ!」 膝を開ければ、清太郎は背を向けてそこに収まる。 恋人の様な入り方に、それでも春斗は手を上に上げて触れない様に硬直していた。 眼の前にアル清太郎の項と形のいい耳が悪魔的に春斗を追い詰める。 清太郎は息をついて、春斗の腕を掴んで湯に沈めて、自分の脇の下に収める。 調子に乗って、春斗は清太郎の項に顔を埋めて唇でなぞる。 それも清太郎は特に止めず、身を任せていた。 静かな時間を堪能すると、清太郎はのぼせたのか、全身ピンク色で立ち上がる。 「よし、掃除するぞ。」 「はい!」 清太郎は着替えも用意しており、至れり尽くせりだった。 掃除道具を渡されて、自分が汚した椅子や床を磨き上げていく。 清太郎は手伝おうとしたが、春斗は断固拒否して乗馬鞭を持たせて座らせた。 「元気だな……」 「セイ様がいつも疲れ過ぎなのでは……」 「仕事じゃないSMするの、ニヶ月ぶり位かも……」 清太郎は店で遊んでいるので、二ヶ月もご無沙汰では無いが、仕事は仕事だと思う。 しかし、春斗は自分が仕事明けて一番に連行された事に喜び、グフフと笑って、更に気合いを入れて掃除をした。 食事は出前で済ませて、和室に敷いた布団でゴロゴロと過ごした。 「お仕事はどうですか?忙しいですか?」 「クソ忙しい……深月のせいで……」 「すみません……そういえば、本業って何なのですか?」 「ベンチャーの代表取締役とか。この前までは会社員でもあったんだけどね、会社員は合わなかったね。」 「社長さん!全然知らない世界だ……」 「BLOOMとLong Tailは完全な趣味。深月がやっとやる気出したからもう暫くはほっといて大丈夫だと思うけど。」 「意外と会社としての経営好きみたいですね、不安ですけど……」 「あいつ、勤め人してたときはかなり優秀だったんだよ、仕立てなんて殆どせずに運営の方で出世しちゃって、資本主義恐怖症になって辞めたんだ。」 「資本主義恐怖症……深月さんって感じ……でも、また会社を経営しようとするのは、やっぱり面白いのかな。」 「コマが揃ったとか言ってたな。ファッション業界の事はわからないけど。何か理想があるみたいだね。昔の取引先とか引っ張り出してるし。理想を追求する人は応援したくなるし、春斗もユカも、新しい内藤くんも自由に出来る人はやってほしいと思ってるよ。一生俺が面倒見るのは無理だからちゃんと利益出るまで頑張ってほしいけど。」 「頑張ります、セイ様は名実共に御主人様ですね。」 清太郎はとても穏やかな優しい、そして少し畏怖の籠もった顔で春斗を見つめていた。 春斗はその表情の意味はよくわからなかったが、好意的なのだろうという感覚で、誇らしげに見つめ返し、わくわくとした気持ちで、常識的な距離感で敷かれた布団を清太郎の布団にズルズルと寄せて、間近で顔が見れる距離で眠りについた。 深夜、清太郎は春斗が良く眠っている事を確認してから、布団を抜け出した。

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