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深夜の男
ゾクゾクと首筋を這うような、憎たらしいただの生理的な現象に、清太郎は身をよじる。
自分のおもちゃには見せるべきでは無い姿という物がある、職業病か、過去の苦い思い出の影響か、思い返すと恥ずかしくて苦々しい気分になる。
都心から車で一時間の場所、春斗には詳しい場所を告げてはいない、夕方に一時間かかる場所が深夜は四十分もかからない。
予め連絡して、了承を得た人間の家に乗り付けた。
「相変わらずの女王様っぷりだね。」
「相手は選んでるし人間扱いしてるつもりだよ。ちょうど仕事が終わる時間だったでしょ?」
言い終わるか終わらない内に招き入れられ、唇を塞がれ、身を任せる。
自分がS男性としてBLOOMにデビューした日から、清太郎の性癖はめちゃくちゃになっている。
誰でもいいし、誰でも良くない、相手は勿論選ぶけど、セックスの相手は全て妥協に妥協を重ねた上での選択だ。
「シャワーは?」
「浴びたけど、中を準備する時間は無かった。」
「望むところ。」
「いつもの事ながら、かなりマニアだと思うよ。」
「サディストに言われたか無いよ。わかっててここに来る癖にさ。」
服を剥ぎ取られ、清太郎は既に使い捨てシーツが敷かれているベッドに倒れ込む。
四つん這いで尻の穴を執拗に舐められる。
「赤痢で死ぬよ?」
「海外旅行したときは連絡してこないでね。」
顔を見ない四つん這い、受け身になりたい心は紛れる、その一方で相手の存在は曖昧にぼやけてしまう。
「なぁ……なんか喋りながらにしてくれ。」
「わかってるよ。最近仕事が忙しそう。」
「あっ……いそがしいね……新しい会社というか、休止してた、会社、うごっ……かし…………」
「うん、二ヶ月ぶり。」
「ぅう……ん……」
「興奮してる。結局舐められるの好きなんじゃ無い?」
「生理現象……」
「うん、そうだね、そしてセラピーだね。」
「もっと……気持よくしろ……」
フフッと笑って、中に指が這入ってくる。
唾液だけだとかなりの異物感があり、準備していないとかなり心許なく、締付けてしまう。
この締付けと、生々しい匂いに、男は興奮する。
本当はこのまま自身のペニスをぶち込みたいが、酷い事をしたいわけでも無い、男は決してサディストではない。
あまりにも苦痛な声を聞けば、興奮も何処かへ行ってしまう。
準備していないと言う割に大して汚れても居ない内部に、少しのがっかりと、朝飯も昼飯も抜いているやる気を理解する。
本当は人の内部を地肌で堪能したい所、常識的範囲のフェチズムを心情にしてコンドームをかけ、アナルセックス用のローションを垂らして、ゆっくりとペニスを挿入する。
少し慣らしの甘かったアナルは、セックスを拒絶している様だ。
「もう少し慣らす?」
「いい。ゆっくり入れて。」
「仰せのままに、女王様。」
茶化されて、腹のたった清太郎は脇腹に踵で蹴りを入れた。
「興奮しないから辞めて……痛いし……」
「ふざけたのはてめえだろ?」
「ごめんて。」
気を取り直して、対等に仕切り直す姿に、少し萎えてくる。
くそったれと、自分のペニスを心で罵倒しながら、挿入と同時に自分のペニスをしごく。
「あぁ……良いな……下手したらクソまみれになるかもしれないスリル、たまにでもさせてくれるだけで俺は幸せだよ。」
「俺はM男が好き。」
「うん、その代わり俺は女王様の性欲処理してる、ある意味マゾでしょう?」
「こんな態度のデカいマゾいらっあっあぁっっ」
否定の言葉を遮る様に、貫かれる。
あとは、二人が満足するまで、穴と竿を擦る、それだけだ。
ものの一時間で、何もかもを済ませた。
「え、マジでもう帰るの?泊まってけば?」
「マゾ放置してる。」
「あぁ……可哀想に……本当クソ野郎、愛してる癖に、自分の物にしない。相手の物にならない。」
「そういう関係じゃねえんだよ。」
「でも、興奮して、耐えられなくなって連絡して、夜中に車走らせてきた。それで違うってあまりにも滑稽じゃない?」
ふふっと笑って、清太郎は誤魔化す。
「そういや、お前人に見られてるセックス好き?」
「めーーっちゃ興奮する。けど、野外とかは犯罪だからやだね。」
「わかった。」
「何企んでるのさ。」
「プレイの妄想をしているだけ、身も心もボロボロになるような。多分やらないけど。だいたいそれまでに逃げ出すか飽きるか。」
「真面目な話をしよう、少しうざいと思うけど。清太郎はどこまでも酷い事をして、ほらやっぱり離れていく……って確認してネガティブな方に自己肯定たいだけだ。性癖と結び付いて拗れてるから誰も問題視しやしないけど本当はいつか首が回らなくなる。もしそれでも試すなら、試すなりの情熱を確かに自覚して、相手と自分を心底から傷付けて、もう生きていけなくてもいい覚悟でやりなよ。そんな事出来るもんならね。」
「少しどころじゃなく、大分ウザいな。」
指摘の内容はとっくに自覚をして、自分でも言語化出来る位に把握している。
故に、清太郎は怒ったりはしない。
この男はそれでも尚、相手が精神的に安定している限り、ちゃんと言わなきゃと思ったことは言う、というのがカウンセラーから水商売、そして女性向け風俗に流れたこの男の、信条だった。
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