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いじめっこ(番外2)

内藤が中学生の頃、クラスのぽっちゃりな女の子は男子生徒にからかわれていた。 内気な性格で、からかわれる度に顔を赤くして、俯いていた。 ある日、校舎裏で女の子は男子生徒に囲まれ、ハサミを向けられて居た。 通りかかった内藤は、流石にカッとなった。 考えるより先に身体を向け、クラスで一番ガタイの良い佐藤とその取り巻きと、内藤にとって学校一可愛いと思っている女の子の間に割って入った。 「なんだ、内藤、お前ヒーローになるのか?ブタに惚れてるのか?」 下卑ている、というほど大人っぽくもない、悪ふざけのアウトラインがわかっていない子供のからかいだ。 「ハサミはやり過ぎだ。遊びですまないぞ。」 怒りと恐怖は普段大人しい内藤を饒舌にさせた。 「いやいや、何マジになってんの?髪型を相撲取りらしくしてやろうって言ってただけだよ?」 「それが、笑い事じゃないって言ってるんだ。」 「つまらねえ事言ってんじゃねえぞ?」 ハサミは内藤に向けられた。 その切っ先に、内藤は手を当て、グイグイと押した。 「もっと力入れてみろよ、ちゃんと怪我する。それに、女子の髪を切ろうなんて、最低だ。」 「じゃあ代わりにお前の髪切ってやるよ。男なら良いんだろ!?」 理論がよくわからなかったが、佐藤は内藤の髪を掴み、ハサミを入れた。 抵抗しようにも、貧弱な内藤は何も出来ないし、女の子は恐怖で過呼吸気味に固まっている。 ジャキリと、内藤の髪の一部が地面に散った。 その時は、それだけで事は済んだ。 ただ、歯向かわれた事に、佐藤は苛立ちを覚えていた。 弱いくせに、何故逆らうのか、内藤の行動は理解が出来なかった。 日々の嫌がらせは総て内藤に向けられていった。 そして、執拗な「鬼ごっこ」として追いかけられ、捕まると殴る蹴るを受ける、本格的に標的になってしまった。 全員が職員室に呼び出された。 女の子は、内藤が暴行される動画を撮影していた。 消しなさいと注意する教師に対して、女の子は頑なに拒否した。 「何度も、先生にいじめが起きてるって言いました。何度も言いました。私が酷くからかわれた時も、内藤くんが蹴られたり殴られたりすることも、何度も言いました……何にもしてくれないなら、SNSに投稿します!!」 教師は何もしないなんて言ってない、先に動画を消せと迫る。 じゃれ合っていただけだよな?と、内藤と佐藤にも教師が詰め寄る。 仲直りをしようと説得する。 お話にならない。 女の子は、涙を溜めて頭を横に振り続けた。 「これは、いじめです。」 内藤と佐藤は、口を開くことが出来なかった。 自分達の状況は正式に加害者と被害者になっていた事に気が付いた。 親も呼び出され、内藤は学校の対応に幻滅した親の意向で転校、女の子も同様の理由で転校、佐藤は学校に残った。 内藤にとって、その女の子は強くて美しく賢い、最高の女の子として神格化した。 その後、どうしているのか、風の噂で私立の女子校に行ったと聴いている。 内藤は新しい学校で虐められない見た目を模索した。 その延長線の服作りに打ち込み、推しを愛でる活動も充実し、佐藤なんてそんなこともあったよね、という気持ちになっていた。 とんでもなかったなあと思う事には思うが、自分の世界はあそこだけではないと深く知る機会に恵まれていた。 試合の後は特に何事も無かった様に解散したが、後日比留間が菓子折りを持って現れた。 「佐藤から事情を聴いた。辛い思いをさせて申し訳なかった。あいつは許されない大馬鹿だ。」 「いや、あの……佐藤は物凄く気にしてるみたいですけど、こっちはそんなに気にしてないんですよ……だいたい比留間さんあまり関係無いですし……謝られても……あいつの親には散々謝罪されてますし……」 「俺は親では無いけど、今まであいつがプロレスをやってたのは、君との事がきっかけで、親御さんから人への暴力がどういう事かしっかり学べと言われてうちのジムに入ったんだ。いつか謝れる機会があるかもしれないから、有名になりたいって言ってた。だから、俺にも関係があると思っている。なのに、あのバカ負けたからもう会えないし、やっぱり自分には会いたくないに違い無いとか言って今日も呼び出したのに来なかった。本当にバカなんだ……練習も出てこねえし……」 「それは、確かに馬鹿ですね。」 内藤は素直に呆れた。 「ほんっとに情けねえ、だから最後の最後でせり負けるんだよあのバカは。」 「はあ……まあ、それはわかりましたけど、やはり一度話して欲しいというお話でしょうか?」 「そんなつもりは全くない、そうしてもらうのは都合が良すぎると思うから……」 「いや、都合が良いなら、全然構わないですけど……なんか可哀想な気もするし。」 「本当か!!あいつが無茶苦茶しない様に俺も同席するし、もし腹が立ったら変わりに俺がコンクリにバックドロップ決めるから安心して欲しい。」 「殺さなくて大丈夫です。」 「それに……君の好きな愛美ちゃんは、佐藤の大学のサークルの先輩で二人でジム帰りに飲みに行く位仲が良い。この前の試合の後も凄い怒られてたんだが、出てこない。」 「今すぐ佐藤くんに会ってやる気を取り戻していただかないといけませんね。佐藤は先輩の顔に泥を塗らない立派な後輩にならねばいけません。仕事なんかしてる場合じゃありませんよそれは。」 内藤は、ダメージ加工された上に愛美缶バッチを大量に添えたパンクが過ぎる上着を羽織る。 「バイトの後にしよう!!深月さんに悪いし、ね、一旦落ち着こう。」 「別に構わないけどね。内藤くん、ついでに採寸とかしてきちゃってくれたら良いよ。いってらっしゃーい。」 「行ってまいります!ささ、行きますよ比留間さん。日が暮れてしまいますから。」 困惑する比留間を引き摺る様にして内藤は店を出た。

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