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友達の距離感(番外4)
それから、内藤と佐藤は他愛もないメッセージをやり取りするような仲になった。
美味しい物を食べると佐藤は内藤に写真を送ってきた。
たまに筋トレで成果があるとその喜びを伝えてくる。
本当に愛美とは仲が良い様で、たまに愛美のハートやらピースやらしてる手がブレながら写り込んでいる。
『今日のネイル最高にかわいいですね。』
とか
『そのブレス、新作じゃないですか流石おしゃれ!』
とか
佐藤そっちのけでそんな返事をしてしまう。
ある日のお昼時、佐藤からまた写真が送られてきた。
『筋トレ勝負で勝って、先輩の奢りにがっつく後輩。』
というメッセージと共に、SNSで話題になった巨大ハンバーガーを大口で食べている佐藤の画像が送られてきた。
内藤はそのでかい口と、ハンバーガーを持つためにギュッと寄せている巨大な上腕筋群に何故だかドキリと胸が高鳴った。
どう考えても愛美が佐藤のスマホを奪って勝手に送っている。
佐藤が食べている姿に何故ドキドキしたのか、内藤にはよくわからないが、もっと食わせてえ!食ってる所もっとみてえ!と思ってしまった。
『今度家に遊びに来ない?飯作るからさ。』
という、佐藤に向けた返信をした。
『マジで!!めっちゃ楽しみ!』
という、返信が秒で来て、内藤は微笑んでしまった。
その時の佐藤サイドはと言うと、少しばかり下世話な雰囲気だった。
「ほらね、進展した、ほんと任せてって感じ!!」
「先輩マジですげえ……」
内藤に何を送れば良いかわからないとウジウジとする佐藤に対し、愛美はご飯の写真だよとアドバイスをした。
デブ専にはひたすら愛嬌のあるご飯の写真を送れば良いし、筋肉デブ専にはトレ報告もたまに混ぜれば尚良し。
返信して貰えるように、愛美自身の指を写り込ませてくれた。
そして、極めつけは油断して食ってる姿でイチコロ。
との事だった。
ただし、内藤くんの自意識がノンケつよつよだと、ちょっとわかんない。
というのが、実はレズビアンである愛美の談であった。
だからこそ、佐藤は本当に内藤が好きかもしれないと打ち明けやすかった。
ご飯を食べさせたいという返事が来た時、愛美の方が強めのガッツポーズを決めていた。
デブ専にとって、最上級のデートの誘いとも言える。
佐藤は、再会したその瞬間から内藤に惚れていた。
というより、罪悪感を拗らせて会えもしない架空の内藤に執着し続けた事により、内藤の面影を追いかけて何となく中学時代の内藤の雰囲気に似た女の子にばかり惚れていた。
ひょろひょろと薄っぺらい身体に、ショートカット、気が強い、自分に対して物怖じしない、そんな子が現れると、だらしない程にすぐ惚れた。
優しくしなきゃ、守らなきゃ、大切にしなきゃ、傷付けたくない、急激にそんな気持が湧き上がってしまう。
実に甲斐甲斐しい男だったが、最後に付き合った気の強い女性からは自分がそうしたいだけの自己満野郎と言ってふられた。
内藤に再会した瞬間、夢にまでみた事態の衝撃、そして単純にめっちゃタイプじゃんという脳内の大混乱、そして、衝動に任せて膝と額を地面にを打ち付けていた。
謝らなければと思っていた事は一番強く、紛れも無い事実だったが、俺は一生この人に恋し続ける為に産まれたんだという確信めいた感情を呼び起こした。
そうなると、無意識化で好きだったから虐めてしまったのかもしれないという都合の良い好きな子に砂かける男児を連想した。
「流石にそれは後天的な思い込みだわ。ただの虐めを正当化するのは人として無い。」
「はい仰るとおりでした……」
愛美は冷静に佐藤の色ボケを否定した。
「でも、人間って罪悪感から人に愛着を持ったり、より大切にしたいと思ったり、そういうのって機能としてある気がする。あたしがアイドルやってる時によく思う、シルエットが丸くて温かくて柔らかいものってかわいいって思っちゃう。そういうのも機能だと思うんだ。立ち向かってきた同級生によって君の脳にはパラダイムシフトが……」
「と、言いますと……?」
真剣な顔はしているのにちんぷんかんぷんといった佐藤をみて、自分の語り癖に愛美はため息をつく。
「応援するよ。」
シンプルに纏めた。
「凄っ……」
「アスリートだし、カロリーは低めが良いかと思って、三分の一は鶏ももなんだけど、あとはこんにゃくのやつと、はんぺんとひじきなんだ。粉もタンパク質はとれるようにひよこ豆の粉使ってて……」
内藤が前日から仕込み、半日かけて揚げて積み上げた唐揚げピラミッドを解説する。
高揚した顔で早口に説明しているブリーチしたてのひよこ頭の内藤が、かわいくてかわいくて、佐藤は目の前がクラクラした。
「糖質も必要だから、おにぎりもある。焼海苔の中がおかかで、昆布の中が梅。ちゃんと野菜スティックもあるよ。」
緑黄色野菜のスティックが、積み上げられて★の型抜きをした人参が舞い散っている。
「とりあえず写真撮らせて……そんでありとあらゆる所に自慢させて……フレンドに一斉送信したい。SNSにも載せていい?」
佐藤は料理の写真を連射で撮りまくる。
上から下から横から全体をぐるぐる回ったり立ったり座ったりしながら。
「い、良いけどちょっと恥ずかしいな……料理はそんなに得意なわけじゃないし……」
「充分以上に相当得意な方だと思うよ。あ、ちょっとこのお星様人参持ってこっち向いて、頬にこう、笑って笑って、あーあーかわいい!!!か、かわいいんだけど!!!!!」
黒いエプロンの前が粉で少し白くなっているパンク小僧がだらしない顔で笑っている所の何処がかわいいのかわからないが、内藤は、無邪気に喜んでいる佐藤が愛おしかった。
食べ物で喜んでいる、この部屋こんな狭かったっけ、凄い満たされてる、デカい、凄い圧迫感、と、頭の中も幸せでぎゅうぎゅうになった気がした。
二人ともテンションが壊れていて、本来なら気味悪い程の執念手料理であったり、男が男の写真を撮ってかわいいと叫んでいる危機的事態に、お互いに相手にも自分にもそのおかしさに気が付かなかった。
食べ始めた佐藤は嬉し過ぎて破顔したまま、美味い美味いと慌てるように食べる、満面の幸せ顔。
それを眺めて興奮と幸福を全身で噛みしてる内藤。
二人とも、この楽しい付き合いがずっと続けばいいと、人参のお星様に願っていた。
翌日浮かれながらジムに現れた佐藤が持っていた食べ切れなかった持ち帰り唐揚げと、写真を見せられた愛美は若干引いた。
どこのデブ専キャバだよというのが感想である。
そして、佐藤がニヤニヤしながら食べている唐揚げを奪い取った。
「……くっそ美味え。なにこれはんぺん?」
「そうなのそうなの、内藤凄いでしょう。」
基本的にファンの手料理は絶対禁止であるが、自分に向けられていないものはセーフだと考えた愛美が、初めて食べたファンの料理である。
内藤自身にも食べたことは秘密にしておこうと思った。
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