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春斗の性癖
咲の手引でマンションの最上階に侵入し、いざ清太郎の部屋のインターホンを鳴らす。
モニターを確認しなかったらしい無用心な清太郎はあっさり扉を開けて、少し驚いていた。
「咲さんに開けてもらったのか?約束してないよな?」
バスローブで髪からポタポタ水滴を落として怪訝な顔をしている。
「していないですけど、大切な用で来ました。入れてください。」
「帰れ、約束してないときに来るのはマナー違反だ。」
閉めようとする扉の間に足を滑り込ませる。
清太郎は笑顔で青筋を立てながらぎりぎりと扉を閉めようとする。
「痛みには強いですよ……?勃起しそうですし。」
春斗も負けじと笑顔で言う。
春斗の背後でエレベーターが動く気配がした。
「誰かお客さんですか?」
わざとらしく春斗が訊ねると、様々な事を察した清太郎は急に扉を開き春斗を引っ張り込むと、襟に手をかけて服を脱がし始めた。
何をする気なのか興味が湧いた春斗はそのまま清太郎に身を委ね、脱がされた後に手首に南京錠付き手枷をつけて、口にシリコーンのバイトギャグをつけて、髪を鷲掴みにして引っ張る。
めちゃくちゃにキレまくっている事だけは、確かにわかった。
寝室のクローゼットの中に突き飛ばされた所でインターホンが鳴った。
揃いの南京錠足枷を嵌め、手枷と足枷をチェーンで繋ぎ、それも南京錠で止める。
「音出したらこのまま放置して殺すからな。よく見てろ。」
閉じられたクローゼットの扉は、外の上からは何も見えず、内の下からは外が見える板の通気扉だ。
当然、ベッドがよく見える。
扉の開閉音のあと、じっとりとした落ち着かない空気が流れる。
人間が発情している、独特の空気だ。
2つの影が寝室に雪崩込んできて、軽く言葉を交わしながら、唇を貪りながらベッドに倒れ込む。
すぐに清太郎がもう一人の男の股間に顔を埋め、男のくぐもった息とじゅるじゅるというフェラチオの音が聴こえる。
わざとであろう、クローゼットの方に尻を突き出し、清太郎は自ら指で肛門を弄っている。
ローションを注入していたのであろう、既にヌメヌメと光っている。
ぴちゃりぴちゃりと、ささやかな音が響く。
春斗の股間は、ガチガチになった。
清太郎の身体が押し倒されて、男が覆いかぶさる。
ベッドの方向を無視して、清太郎の頭はクローゼットに向いている。
その時になって、相手が女風のケイだと気が付いた。
ケイは清太郎の股間に顔を寄せるが、清太郎は止めた。
「早く入れろ……」
「わかった。」
コンドームを手早くかけたケイは、再び清太郎に覆いかぶさって、ググッと腰を進めた。
清太郎の嬌声が漏れた。
仰け反った清太郎と、春斗は目が合う。
清太郎は浮ついた顔で微笑む。
「まじか……」
ケイの呟きは、二人には聴こえたのか聴こえなかったのか、ケイは激しく腰を打ち付ける。
喘ぐ清太郎の目から生理的涙が溢れる。
春斗には何もかもが鮮明に、スローモーションの様に、細部まで、気持ちが悪い程良く見えていた。
次第に、春斗も涙と鼻水が垂れてきた。
先程出した鼻血の傷も開き、鼻呼吸が出来なくなる。
バイトギャグを壊れそうな程噛み締めながら、隙間からフーフーと声が漏れる。
屈辱的だ。
自分が最も愛している存在が目の前で別の男に抱かれてよがっている。
自分はその役割は与えられていない、恋人では無い、何も文句は言えないはずだ。
惨めだ。
あまりにも惨めだ。
その屈辱と惨めさを、清太郎にぶつけられている。
これは清太郎からの、立場を弁えろという、強烈なお仕置きに感じられた。
仕置きというのは、情がなければやらない。
仕置きというのは、継続する為にやるものだ。
春斗の股間はジンジンと音が聴こえそうな程脈打つ。
何度も何度も絶頂を迎える清太郎に対して、ケイは止まること無く何度も抱いていた。
春斗の股間には涙と鼻水と鼻血と涎がぼたぼたこぼれ落ち、そして加えて先走りでドロドロになっていた。
太腿にペニスを挟み、動かした。
ケイの、これで終わりねという優しい声と共に、一層激しいベッドの軋みと、清太郎の引き攣った獣のような声を聴きながら、再び絡まった目を見つめ合いながら、清太郎と春斗は吐精した。
ケイはコンドームを器用に結んで捨てて、シャワーに消えた。
戻ってきても尚、転がっている清太郎に、キスをして、何か囁いてから、出ていった。
静かな時間が流れる。
むくりと起き上がった清太郎は、クローゼットを開ける。
「きったねぇな……」
涙と鼻水と鼻血と涎と先走りと精液でぐちゃぐちゃの春斗を見下ろしている。
「帰るか?」
春斗は首を横にふる。
「へっはいかへはなひ……」
清太郎は口枷を乱暴にはずす。
「絶対に帰らない。」
足枷とチェーンが外されて、ベッドに連れて行かれる。
ペニスをドロドロにしている物に触れて、清太郎の手が汚れる。
汚いから触らないで欲しいとは言えなかった。
自分の物で染まる清太郎が美しく感じた。
そのドロドロを清太郎が赤い舌でペロリと舐める事も止めなかった。
清太郎はおもむろにその指で春斗の肛門を撫でる。
そして、指をねじ込んで来る。
「ふっくうぅ……」
ぬめりの足りない穴は引き攣る様に痛む。
「柔らけえなあ。俺のもこんなだけど。」
春斗の前立腺を乱暴になで回す。
乱暴にも関わらず、的確な場所である。
「あぁ、ほんときたねぇなぁ……」
清太郎は何故だかうっとりとした顔をしている。
「こんな事されても勃起して、泣きながらクローゼットで興奮して射精してる……最悪の変態だ……」
言いながら、言われながら、どんどんお互いのペニスが腫れ上がっていく。
「怒ってますよ……ムカついてますよ……ケイさんダイッキライですよ、ムカついてますよ、ムカついてますよ。」
春斗は身を乗り出して、清太郎の首に自分の繋がれた手を引っ掛けて、引き寄せる。
「それでも、興奮する?」
「清太郎さんからぶつけられる物を、全部受け取る事に興奮する。それを見て、勃起してる清太郎さんが好きなんです。どんな清太郎さんにも興奮する、大好きです。プレイが好きだからじゃなくて、好きだからプレイが好きだと思う。大好きです。大好き。どんな扱いでも嬉しい位、大好きなんです。」
噛み付かん勢いで清太郎の唇を奪う。
清太郎はキスに応じながら、春斗の肛門にペニスを充てがって、押し込み、触れ合ったままの唇から息を漏らす。
ずっとセックスしていて、何度か射精していた清太郎のペニスは最早殆ど麻痺していて、めちゃくちゃに腰を振っても、射精はしない。
春斗は呻きながら精子がどぶりどぶりと漏れる、その度に絞めつけられ、清太郎も呻く。
「あぁ、クソこれじゃっいけねえ……クソっ……」
清太郎は少しやる気を失った自身のものに悪態をつき、春斗の肩に唇を這わせたかと思うと、クワッと口を開き、噛み付いた。
「うぅういたいっいたっいたいいい」
清太郎に縋り付きながら、春斗は腰を揺らす。
「いたいいたい!!いたい……気持ちいいいたい……あぁ、いきそういく、いく、いく!!」
春斗の痛がる声に、やっと清太郎も元気を取り戻し、刺激の強さにガクガクと痙攣しなも、貫き続ける。
春斗が吐き出したものは、清太郎の胸に飛んだ。
清太郎はただの棒だったペニスを引き抜く。
清太郎は春斗の胸に倒れ込んだ。
「ケイを恨むな、あいつはたまたま今日だっただけだ。クローゼットに誰か居るのも気づいても、何も言わずに付き合ってくれたんだ。恨むなよ。寛容でいいヤツなんだ。」
「わかりました……」
不貞腐れながら、春斗は了承した。
「でも、咲様や深月さんが心配する遊び方はやめてください……」
「それはどうかなぁ……」
清太郎は、多分二人が心配しているのはそこじゃねえぞと心で呟く。
「清太郎さん!!」
「まあ、善処はするよ……」
「僕は、清太郎さんがSMをしなくなっても、変わらずに好きです。僕は清太郎さんの存在がそこにあれば、勝手に傅いて喜べる。何を求められても、求められなくても、それを楽しめる。それだけ大切な人なんですよ。」
「うん、わかった。わかったよ。」
清太郎は再び泣き出した春斗の頭を抱えて、撫で続けた。
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