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フェティッシュパーティ
エナメル燕尾服で並び立つ清太郎と春斗は、非常に目立った。
ピタッとしたサイズ、コスチュームとしてのバランス、生地の艶感、どれをとっても完璧で壮観だと、春斗は満足げに鏡の前に並んで立った。
周囲の人達も、現実感の無いコスチュームを纏っている。
エナメル、レザー、ラバーのフェティッシュも多いし、ゴシックやロリータも居る。
量販店のコスプレ衣装はドレスコードにひっかかる。
全員が何処かこだわりのあるフェチズムを表現して、楽しんでいた。
「うぅ……面倒くさい……」
春斗が鴉に招待されている様に、清太郎は主催団体から招待が来ている。
殆どお仕事としてここにいる。
春斗は、ユカちゃんリスペクトモードを搭載して、なるべく清太郎をサポートするつもりだ。
のっけから、セイさんじゃないですかー! と、酔っ払いに絡まれて囲まれている。
「春斗、飲み物、ビール。」
「はーい。」
チケットの半券を受け取って、いそいそと取りに向かう。
瓶を二本受け取って、清太郎の元に戻ると、可愛らしく自信のありそうな女性に抱き着かれていた。
その女性の横で男性が微妙な顔をしている。
感じ悪い雰囲気だ。
「今日は、店の子達待ってるから! また! お店で!」
「セイ様〜私を専属にしてください!!」
「ハハハ! お世辞でもありがとね~! じゃあね!」
「えーお世辞じゃないですってー私本気ですから!」
「ハハハー」
「あれ、お揃い着てるのお客さんですか?」
「そうだよ。」
「M女の方がセイ様は似合いますよ!」
「俺の選んだ物にケチつけ無いM女ならね。」
緊迫した雰囲気である。
ビールを受け取りに自ら近寄ってきた清太郎の顔は引き攣っている。
なかなか厄介そうである。
「セイ様〜! お席ありますよ〜」
清太郎は声の方に足早に向う。
これは、ユリの声だ。
「ユリ様〜助かっちゃった〜」
「あの子権威主義なだけですし。」
「マゾ、ではあるんだろうけどね……」
「他のお客さんにもケチつけますから。結構いろんな店で出禁になってるみたいですよ。」
「うちもしゃおうか……」
業務的な会話を小声で交わしている。
「春斗、気にするなよ。出禁レベルのヤツの言う事。」
「気にしないですよ、なんかあの人目ヤバかったし。引き立とうが立つまいが、僕がお側に居たいだけですから。」
案内された席には、BLOOMの従業員とお客さんが集まって酒盛りの真っ只中だった。
全員ベロンベロンである。
座った清太郎の足元に座って、膝に顎を乗せる。
ホッとできる。
お仕事って大変だと思った。
「ユウ、あれ、清太郎じゃない?」
「あ、ほんとだほんとだ、うーわおご主人様と被ってる! ウケる!」
賑やかな声の方をみると、長髪を後ろで束ねて、普通の生地の燕尾服を着た背の高い美形男性と、レザーの犬が居た。
「お、シンとユウじゃん久しぶり!!」
「久しぶり久しぶり久しぶり! めっちゃ嬉しい!」
ユウと呼ばれている犬のテンションが高い。
「久しぶり、珍しいな、男連れ。」
「そちらは相変わらず、お熱い事で。それにしても良いのかこんな所で遊んでて。」
「ああ、ユウがマスクしてれば問題無い。まあ、本人気付いてないだけでバレバレだけど……プライベートでマスクしてる時は知らぬ存ぜぬがファンのマナーらしい。」
周りをみると、チラチラとユウの方を見ている女性が居る。
「有名な方なんですか?」
春斗が訊ねる。
「メジャーなヴィジュアル系バンドのドラムさんなの。」
清太郎が答えてくれる。
「シンだってまずいんじゃないの……?」
「俺は別にですよ、本家は実質解散してるし。なんならDJがアレだから。」
「あーね。」
DJブースを見ると、白人男性が居る。
その横で、百合の夫が居て手伝わされている。
「勢揃いか……シンも前バンドやっててね、そのヴォーカルがあのDJで、ベースが百合さんとこのペットなの。ユウにシンが手を出して色恋採用でドラムサポートやってたの。」
「正確には出されたんだけどね。寝込みに乗っかられて。」
「美味しそうだったから……つい……殺されたくなっちゃって……」
「なんか、凄いですね。今日ブース出してる同級生が好きなバンドの方だって事に気が付きました。」
「鴉ちゃんね、このタキシードは鴉ちゃんが作ったやつよ。誰だか知らないけど、お隣くんの見様見真似って言ってた。」
「あーー多分、僕ですねそれ。器用だなあ、紳士服なんて作れたんだ。見ても良いですか?」
服作りの事になると、春斗は目の色を変えてしまう。
「どーぞどーぞ脱ごうか?」
「いえいえ、そのままで。ありがとうございます。」
ぬらりと立ち上がって、縫製を凝視する。
確かに伝統的な仕立てではなく、それっぽい形に整えた燕尾服だったが、その整え方は見事で、デザインだけを重視したクラシックな雰囲気に、アニメの様なファンタジーなシルエットや色合いで仕上げている。
「お洒落だなぁ……最近悔しい思いしてばっかりだ……」
「そのセイちゃんとのお揃いコスチュームは、手作り?」
「そうですね。師匠に手直しされちゃいましたけどね……」
「セイちゃんのパートナーさんは、服飾の人なんだね。その悔しがってる感じ俺好きだ。連絡先教えて!!」
ユウに絡みつかれ、見上げられて、犬のマズルでドスッと突かれる。
「え……えぇ……」
困惑した。
「教えてあげなよ、多分だけど、衣装を作れる人を探してるんじゃないの? お仕事チャンスだ。こいつはちゃんと払うよ。バックも太いしね。」
清太郎がニヤニヤしながら説明してくれる。
「そう! そうなの! もう少し息苦しい方が良いとか、あるじゃん?」
「息苦しい……?」
「そう、苦しくない様に配慮された全頭マスクに価値ある?」
「用途は色々ですけど、個人的には、無いですね。」
「そんなのでライブやるから、年々頭がバカになってくんだろうな……」
シンは遠い目をしている。
「ヘイヘイヘイ、マイフレンズ、キミタチノショータイムだよ!」
DJブースから、わざとらしいカタコト風日本語イントネーションで急にマイクが入った。
「あいつ……」
そして、アメリカンな曲が流れ始めた。
「ごすじんさまあーー踊って踊って!」
「えぇえ……やだなぁ……」
「踊ってぇーよぉーー」
ユウはシンに絡みついている。
「まあ、いいじゃん。しらけさせても主催に申し訳無いし。」
「はぁ……」
シンが清太郎に手を差し出すと、うやうやしく手をとって清太郎がスッと立ち上がる。
見つめ合う。
「二年前のやつ?」
「オッケー」
「セクハラ禁止。」
「それは約束出来ないなあ。」
DJブースの前では、ブースを放置した白人男性が軽快に笛を吹きながら区画整理をしている。
当然、ユリの夫も手伝わされている。
そして、キヨのリードで二人は猛然とDJの前に突っ込んだ。
真面目に始まり、何事かと注目する人に囲まれている。
春斗はユウに手を引かれて、最前まで滑り込む。
清太郎とシンは軽快に動きを合わせながら、区画いっぱいに飛び跳ね、上半身を振り回しながら駆け回る。
楽しげな雰囲気に、会場は拍手をする。
ブースに戻ったDJは、そのままタンゴに曲を切り替えた。
そして、そのままお互い挑発的に脚を絡ませ合う。
ところどころで、清太郎がシンの尻や股間を狙って手を伸ばすのを避けたり、避けきれなかったりしながら、二人は笑いながら踊っている。
ずっと女役で踊っていた清太郎のセクハラは、なかなか面白い様だ。
まるで、猫の様な清太郎の姿に、春斗は胸を鷲掴みにして悶えた。
ユウも同様の反応だ。
「次はワルツかけるよ。踊れる人は踊ってね! 僕と踊ってくれる人も募集してるよ。」
そして、綺麗にワルツの音に切り替わっていく。
すると、外国人が何人か参加して、踊り始めた。
その技量はマチマチで気ままだ、そのうちに少し覚えのある日本人も参加し始める、年齢層は少し高い。
女性側は、初めての人が多そうだ。
そして、春斗の見覚えのある女性がDJの男と踊り始めた。
「さくらちゃんだ……!」
丁寧な踊り方で、大きい胸に細い腰、小ぶりに見えても形のしっかりわかるお尻、背も高いが、身体つきがエロい。
黒一色のレースドレスの下はニップレスと肌色ティーバックだけの、裸体だ。
黒髪ロングの妖艶さと、大きな目と小さな鼻とふっくらした唇の圧倒的美人で、鴉の妹だった。
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