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かわいいこ(番外6)

 ファッションショーの数日後、愛美と佐藤と共に打ち上げをした。  愛美の希望により手料理ドカ食い宅飲みである。  デカい2人を招いた上に大量に料理をしてしまったおかげで、身動するのも気を使う有り様だった。  この日の為に買ってしまったオーブンは置き場がなく、押入れの中に設置された。  シュークリームやマフィンを焼いたり、ロティサリーチキンを焼いたりしたせいで、押入れの中の物がとんでもない芳香を発する様になったが悔いはない。 「内藤くんの手料理って、ガチでヤバいよね、ちょー美味しい。」 「大好きな、愛美ちゃんに言われたら……どうしていいのかもう……」  もじもじする内藤が面白くない佐藤はジトッとした視線を向ける。 「もー、採寸とか、試着とか、本番とか、もう何度も会ってるし! その時は普通だったのに! なんなら下着姿も見てるのに!」  愛美も苦笑いだ。 「だって、本当に魔法が解けたみたいで……」 「確かに内藤くんのお洋服は魔法みたいだったね。」 「違うよ、愛美ちゃんが本物の魔法使いみたいで、俺が魔法にかかってたんだ。夢中になれる魔法。」  愛美は、少し頬を染めて照れた。 「くっ……かわいい……」  内藤は胸を抑えて転がった。 「あー幸せだったなあ……」  愛美が一足先に帰り、佐藤と二人で片付けをする。 「良かった……あのさ……前に、愛美先輩はアイドルで、自分はファンだって言ってたけど、もう連絡先も知ってる友達みたいなもんだろう?」 「友達なんて、おこがましい……崇拝者であることは確かだけど。」 「あの……さ……やっぱり愛美先輩が好き? 恋愛対象としてさ。」  内藤は手を止めてため息をつく。 「なあ、お前のファンの一人がさ、本気で惚れたらどうする? 無下にも出来ない、応えられない、そんなの迷惑じゃないか。ましてやアイドルだぞ、ファンとどうこうなったら他のファンは悲しむ。」 「でも、心ってそんなにコントロールできないだろ? 叶わなくても好きって事あるじゃないか。」 「もし、愛美ちゃんにそっくりな別人なら恋に落ちてたかもね。でもそれだって愛美ちゃんの代わりみたいでどうかと思うから伝えられないかも。」 「俺は、内藤に好意を寄せられたら、嬉しいと思うけど……」  佐藤は、内藤の顔を見れずに、洗いたての皿を眺めながら言う。 「どうしたんだよ、急に……」  佐藤の顔を下から覗き込む。 「海外研修、行く前に伝えたい。俺、内藤の事が好きだ。恋愛として。好きだ。」 「マジで……? ちょっと待って……」  内藤の頭の中に、ニタニタした春斗の顔が浮かんでくる。  ほら、やっぱり!!  と、言っている。 「うへえ……マジだった……マジか……」 「ごめん……内藤は女が好きだよな……キモいとか思うよな……」 「いや、キモいとか、それは無いけどさ……周りに多いからね。でも、そうか、好きか……」 「いや、だからどうって事じゃなくて、なんか知ってて欲しいというか……」 「いや、真面目に考えるよ。」 「え……それどういう……期待してしまう……」 「いや、期待はしないでくれ。何ていうんだろう。佐藤に嫌いな要素が殆ど無い。寧ろ好きな要素のほうが多い。だから無しとは思えないけど。そもそも好きとか付き合うとか、どうだろうな……俺風俗しか行ったことないんだ。」 「マジか……マジかよ……意外過ぎてびっくりした……」 「ちょっと考えさせてくれ……」 「いつまでも待つよ……」    内藤の中で、問い詰めたい事を整理する。 「いつから、好きなんだ……?」 「最初は罪悪感から、内藤に似た女の子に惚れてた。守らなきゃって思う。振られまくったけど……それで、内藤に再会して、本当は内藤にこうしたかったんだと思った。」 「なるほど……俺がお前の性癖を狂わせたのか……」 「身も蓋もない言い方だけどそうかもな……」 「愛美ちゃんに嫉妬する?」 「いや、まあ、ガチ恋なら諦めなきゃと思うけど。愛美先輩彼女居るし……あっ」 「ああああ!!!! お前許さない絶対許さない!!!!!!」  掴みかかってしまったが、ピクリともせずに捉えられる。 「あまりにも勝てる気がしねえ……」 「反撃なんかしねえよ! 出来ねえよ!」  内藤は意を決して口を開く。 「凄く大事な事だ……ちょっとお姫様抱っこしてくれないか……」 「構わないけど……」  ヒョイと抱き上げると、内藤と佐藤の顔は接近して、見つめ合う事になった。  佐藤の心臓はバクバクと脈打つ。 「あ……の……これは何……」 「もう一個頼む。ちょっとこっちで、構えてて。飛び付くから。」 「え、ちょっと待って。何。」  内藤は狭い部屋で助走をつけて飛び付くと、ガシッと佐藤が受け止める。  膝でホールドして、前抱きの形になる。 「ううん……」 「本当に、何……」 「やっぱり、好きな要素しか無い。凄いときめく……」  頬を赤くして、つぶやく。  佐藤の肩に頬をつけて、寛ぐ。 「かわいいにも……ほどが……」 「この包容力が他の人の物になるのは、惜しい……抱きしめられたいと思う。これは癖なのか、恋なのか……」 「あの、お試し!! お試ししませんか!!」 「そんなのもありなの?」 「あり、あり、ありだからちょっと離れようか、くの字になりかねないから……」 「あ、悪い……俺だって大きい子に興奮して風俗行くんだから、危ないんだけどね……」  気不味く、俯きあう。 「えっと……じゃあ、お試しでお願いします……とりあえず夏は海に行きたいな。来年になっちゃうけど。」 「わかった。他は?」 「テーマパークで、耳つけて欲しい。」 「わ……わかった……頑張る……」 「あと、筋トレ見たいし、またご飯食べて欲しい、それからコスチューム作らせて欲しい。」 「うん、全部楽しみ。」 「うん、楽しそう。」  

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