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一如

 ハッと目が覚めると、横に見慣れた春斗の顔がある。  少し癖のあるふわふわの髪は降りていて、シャワーを浴びたことがわかる。 「かっこいいなぁ……」  セックス中の、慈しむ様な穏やかな顔が浮かぶ。  バカみたいな変態の癖に、なんであんなに良いセックスが出来るのだろう。  セックスをしながら、何を考えていたのだろう。  春斗の髪をどかして、もう少し顔を見ようと思う。 「ん……あ……気が付きました……?」  うっすら開けられた目が合う。 「清太郎さん……?」  清太郎は顔を痺れさせ引き攣らせる。  どうして良いものか、硬直したままだ。  春斗は起き上がって、清太郎の真っ赤な頬に触れる。 「まだどこかしんどいですか?」 「いや、大丈夫。」 「嫌でしたか?」  少し固まってから、微かに頭を横にふる。  春斗はホっと息をつくと、ガバッと清太郎を抱きしめる。 「僕、今の清太郎さんに噛み噛みで跪けって言われても、跪けます。 もっと好きになりました。 清太郎さんだけ眺めて日がな一日ウキウキできるくらい。」 「今、ろくに、喋れてない自分がだいぶ辛い……」  清太郎の声がガサガサだ。  春斗はふふふと笑う。 「僕割りと何でも出来るでしょ? 手放したくなくなってくれました?」 「初めて会った日、店入って、凄い男前が居るなー抱いてくれないかなーって思ってたよ。」 「最初っからなんて奇遇ですね、僕もこの人は天使に違いないと思いましたよ。」 「マゾとしてなら側に置けるかなーと思ったな。SMはお金になる程度には出来るから。」 「清太郎さんはサディストじゃなくても好きになったと思いますよ。」  清太郎はその言葉に喉が詰まった。 「サディストでも、サディストじゃなくても、僕は清太郎さんが大好きですよ。サディストでラッキーというだけです、オールインワンで隠し事もしなくて済む。実質雇い主で、名実ともに配下になれる。」  春斗は男で、喋ると強く胸が震え、裸の胸元に頬を密着させていると安心する。 「あーあのーあまりに好き過ぎて、本当に本当に正直に言うと他の人と遊んでる所見せて欲しくはないです。今日も、奴隷としての立場を弁えて、何があってもケイさんをぶん殴らない様に理性に向かって何度も唱えながらここに来ました。」 「お前が強靭な理性を持ってて良かった……」 「でもですね、仕事を辞めて欲しいわけでもなくて、ケイさんを信頼してるのもわかるんですよ……それに、独占したい自分だけを見てほしいって思っても痛い目に遭うだけじゃないですか。そういうのは相手の人生に失礼だし、嫌なんですよ」 「わかった。うん。俺はセックスは春斗としかしない。入れるのも、入れられるのも。仕事でSMはする。でも、それも女の子だけにする。ケイは友達として接する。」 「我儘でごめんなさい……」  清太郎の肩に顔を埋めて項垂れる春斗の頭を抱いて撫でる。  春斗は、清太郎の心臓が強く跳ねるのを感じた。 「……春斗は、俺の恋人になる?」 「なります。」  即答だった。  春斗は今清太郎の顔を見たら怒られる様な気がして、その代わりに腕の力を込めて、清太郎を締め付けた。  その腕は震えるし、あまりの事に泣けてくる。  嗚咽を漏らしてしまった。  おいおいと一頻り清太郎に撫でられながら泣いた。  どうにも、緊張が続いていた事を自覚して、ずっと主人を愛する奴隷でありながら、主人に恋までしていたんだと思う。  この美しく滑らかな肌が恋しくても、自分がこれを求めてはいけないと思っていた。  これからは、この人がずっと居てくれて、自分を本当に総て明け渡せる。  それは誰よりも自分自身が素晴らしい存在にしてもらえた様な受動的な気持ちと、遂に手に入れたという雄の本能的な自尊心との、両方を湧き立たせた。  清太郎は、恋人はちょっと違う……と言われるのでは無いかという不安を抱いていた。  恐らく状況的にそうでは無いと判断出来ても、自分が浮かれて恥をかくことを心底から恐れてしまう。  望みが一致していた事を確認し、強烈な安堵を抱いた。  清太郎が男性に求める事は安堵だ。  春斗は安堵を惜しみなく与えてくれる、確かめる必要はもう無い位、答えてくれた。  絶対にこの腕から離れたくない気持ちと、手綱は自分の物だという安堵とを抱く。  そう思った。   「清太郎さん、僕より先に死なないでくださいね……」 「介護して、看取ってくれないのか?」 「あああ、それも捨て難い! でも、本当に身動とれない寝たきりとかで清太郎さんに見下されてもみたい……」  清太郎は、初春に控えている周年パーティのショーに思いを馳せた。  どうしてくれよう、絶対に逃げないこいつをどうしてくれよう、何をしても逃げないこいつをと、腹の底から熱い物が吹き上がる。  

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