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色ボケ

「ぎゃっ!!」  清太郎のマグカップは、無惨にも取っ手と本体が離れ離れになっていた。 「ご、ご、ごめんなさい清太郎さんのマグカップ……」 「見事に割ったな……」 「ごめんなさい……」 「ま、怪我がないならいいよ。」  清太郎は、あっさりと許した。 「優しい……」 「いつだって優しいだろ?」 「そう……ですね……?」  何だその反応はと、言いながら清太郎は笑っている。  それはもう、爽やかに。  春斗は許された事にほっと胸を撫で下ろしながらも、少しばかりお仕置きを期待した自分を恥じた。  お仕置きは、主人が必要を感じたら行うものだと、頭で唱える。   「あっ……春斗、もっと奥……もっと……」 「清太郎さん、かわいい、大好き……」 「良い……気持ちいい……」  夜の清太郎はいつだって積極的で艶やかだ。ビキビキと音をたてる様に勃起してしまう。  なんだっていい、側に居られるなら、何だって。  そう思いながら、幸福に満たされれば満たされる程、かえって大きくなる満たされないある部分を必死に押し込める。  虐められたい。  酷く扱われたい。  こんなに痛めつけられても貴方が大好きだと言いたい。  今はただ、幸福なだけだった。   「セイ様……」  清太郎の事をセイ様と呼んでも、清太郎は微笑んで何事も無くしなだれかかってくる。  甘えてくれる事に、春斗は言いようのない喜びを感じながらも、一枚一枚鱗が剥がされる様な苦しみを味わった。   「どうしよう……」  ユカとランチをしながら、ポロリと漏らす。 「清太郎さんが、あまりにも可愛くて愛おしくて、困る。」 「それは良かったですね……でも、そうですよね、何をおっしゃりたいのかはわかりますよ。うん。ぶん殴られないと不安になりますよね。とてもよくわかりますよ。」  妊婦のユカは、苦虫を噛み潰した様な顔をする。 「お付き合い始めちゃうとさ、どんなことになっても変わらない、とりあえず今まで許さなかったセックスに没頭する事もある、かもしれないよね。セイ様ってセックスとSM分ける人だし。」  百合が言葉を挟む。 「わかっているんです、わかっていてもたまにあの脳の芯からバチバチする虐待を受けたい! っていう我儘を言ってされるわけじゃないSMをしたい!! だから、今はこうして悶々とセックスに現を抜かして待つ……」 「わざと失敗するのも流儀に反しますしね!! ユカも我慢我慢ですよ……今はベビー様の為に……一緒に頑張りましょう!」 「ユカさんすきー!」  手を取り合って慰め合う。 「どうしようもねえな……お前等……」  百合が呆れた。    清太郎を浮かされた瞳で眺める様になり、それに清太郎が気が付かないわけが無いだろう!! と、思ってからの清太郎は、あまりにも酷かった。  日々の失敗を、ニヤリとしてから許す。 「春斗、来て。ここ触って。強く触って……」  背の低い清太郎が、上目遣いで自らのペニスを手にしながら、春斗に伸し掛かる。  抗えない悔しさに涙を滲ませながら、むしゃぶりつき、喘ぎ声に支配され、ズブズブとのめり込む。 「何を企んでいるのでしょう……」 「何も……? ただ、愛情を伝えたいだけだよ。」 「絶対ウソ……絶対ウソです!!」  悲鳴をあげながら、清太郎にフェラチオされる。  清太郎は頑なに核心に触れなかった。    正月休みをまるごとその様に過すと、今度はセックスも無くなった。 「得体の知れない清太郎さんの計画に満足な反応が出来なかったのだろうか……ここのところ、毎日自慰行為してしまうんですよね……清太郎さんを想いながら……」 「春斗さん、自慰行為の許可は得ているんですか!?」 「それは……それはだって……もうそんな話すらしづらい……」  日に日にギスギスしていくユカに、厳しく追求される。 「だからといって自分勝手は良くないですよ!!」 「だって……だって……!!」 「せめて、訊きましょう、オナニーして良いですか? と、訊かざるをえなくなるまで、自ら我慢しましょうよ!!」 「ひい……鬼畜!! ユカ様の鬼畜!!」 「どうとでもおっしゃい!!」  道連れだと言わんばかりの形相だった。    しかし、耐えられたのはたったの3日だった。 「セイ様……自慰行為をしてもいいですか……」  清太郎は読んでいた本から目を離した。 「セイ様に見られたい……」  清太郎は呆れた顔をした。 「ごめんなさい……ダメですよね……」 「うん。ダメだね。」  ほんのりと、ダメだと言われる事にさえ興奮する、ズボンの下でガチガチになったペニスが痛い。  そして、悲しい。 「せめて、いつまで耐えるのか知りたいんです……期待したい。頭がおかしくなりそう……」  清太郎は盛大なため息をつく。 「お前、考えてみな? 期限なんて最初から決まってるだろ?」 「え……いつですか? わからない……」 「考えろ。今日は帰れ。」 「嫌だ、せめて一緒に居たい……」 「答えがわかったら連絡してこい。それまで連絡もしてくるな。」  嫌だ嫌だとごねたが、荷物ごと部屋から投げ出されてしまった。  部屋の前で突っ立ってメソメソしていた。   「あら、ハルちゃん。閉め出されてお仕置きされてるの?」  咲がエレベーターから降りてきた。 「さきさまぁ……」 「何やらかしたの?」 「セイ様が構ってくれない理由がわかりません……」 「それは、SMプレイ?」 「SMもセックスもオナニーも」 「禁欲させられてるのね。それはあれよね、うん、答え言ったら怒られるかしら……」 「咲様にはわかるんですか?」 「そうねぇ……まあ……良いかな! ショーよショー、ショーを楽しみたいんじゃない?」 「え……2月です……よね……?」 「まあ……そうね……ちょっと気が早いわね……」 「既にまる一ヶ月と少し経っているのですが……」 「凄いわね……」  咲は呆れた。 「凄いショー、期待してるわね。」   「セイ様! セイ様! 開けてセイ様!!」  呼び鈴を鳴らして、清太郎を呼ぶ。 「セイ様! ショーの為の禁欲ですか?」  ガチャリと扉が開く。 「当たり前だろ。無意味にこんな事するかボケ。」 「気が早すぎてわからない……」 「お前とは練習しないからな。それと、どうせ咲さんに助けられたんだろ? わかってるからな。覚悟しておけよ。」  春斗は清太郎に飛びついた。ショーまでの間、清太郎の匂いだけで過ごそうと決めた。  そして、清太郎の横で眠ると必ず夢精をする様になった。  毎朝下着を洗う惨めさ味わった。  それを嘲笑われるのは楽しかった。  

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