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ゴミ

 ショーの当日、清太郎の家で目を覚ました春斗は、ラテックスのパンツを履かされてから、麻袋に詰め込まれて、担がれてBLOOMまで運ばれた様だった。  まだオープン前にステージ脇にある扉付きの道具入れに押し込まれた。  バタバタとスタッフ達が準備に奔走する音だけを聴きながら、麻袋の中でご丁寧に一緒に投げ込まれていた水と、ゼリー飲料を啜った。  既に股間がジンジンしている。 「春斗さんは!?」  ユカが演者の確認をしている中、少々切羽詰まった声を出す。 「セイ様ー!! セイ様どこです!? 春斗さんは来てらっしゃいますかー!!!」 「道具棚の中にしまってある!!」 「かしこまりでーす!!」 「お前、あんま無理するなよ。一応高齢出産なんだから……」 「そうなんですよね〜気を付けないと。でもゲスト様の対応くらいはやらせてくださいませ。」 「なら、たまに春斗が生きてるか確認しておいて。」  言いつけどおり、たまにユカが様子を見に来てくれて、ゴミを回収してくれた。    狭い空間に一人で押し込まれ、身体のあちらこちらが痛くなるが、動ける範囲で身体を動かした。  ワクワクしているうちに、開店したらしく、喧騒が増していく。ガチャリガチャリとグラスの音や、シャンパンの開くポンッという小気味いい音、はしゃぐスタッフ達の歓声が響く。    そして、急に会場が静かになる。  何かが始まる。そんな空気に、心臓が口から飛び出しそうに震える。  ガチャリと音を立てて、ぎぃぃぃと建付けの悪い扉の音が響く。  袋ごと引き倒され、引きづられる。  グイッとお姫様抱っこをされるが、煌々とした光が袋の隙間からチラチラ見えると、すぐにドサリと落とされた。  音楽が鳴っているが、そんな物はもう耳に入らない。  ガツっと、あっさりと春斗の股間を捉えた清太郎の足が、グリグリと刺激すると、堪らず口からくぐもった声が漏れた。  人前であることも忘れ、久しぶりに与えられる強い刺激に清太郎の足首を掴み、自ら腰を揺らす。    清太郎や観客からは、発情した麻袋が悶えている様に見えた。  異様な光景と言える。  一層強く踏み込まれ、痙攣しながらびしゃびしゃに吐き出した精はラテックスの中をぬるぬるにした。  いきなりの事に、春斗はぐったりしてしまった。  あまりにも猥褻だと思った。    開かれた袋の口から、清太郎の顔を見ると目が眩んだ。  カールをつけた髪に、タッセルのピアスが揺れている。  黒いスタンドカラーシャツがストイックな色気を醸し出している。    袋から引き倒され、ボンテージテープで口を塞がれ、後ろ手に手首を拘束されただけで、全身に堪能が走り抜ける。  腰を踏みつけられ、手首だけが天井のフックに繋がれて前屈みになる。  そして、信じられない熱がポタポタと垂れた。 「ううう!! うう! ううううう! うう! うう!」  これは、仏壇用蝋燭に違いなかった。 「んんんんんんん!!!!」  叫ばないと耐えられない熱さだった。  靴底で蝋を擦り落とされ、再びかけられる。  それを繰り返される。 「んっうううう……ううう……ううう……」  完全に火傷した事がわかる、鳥肌がたつようなヒリヒリとした痛みに涙が滲み出す。  そして手のひらから、垂らされて、蝋燭が流れ落ちていく腕をじくじくと侵食していく。  ずっと叫んでいた。    蝋燭を投げ捨てた清太郎は、春斗の頭を掴んで引き上げると、床に座らせたまま足首を縛り、何回か滑車にした縄に体重をかけ、春斗の身体を一本の縄で引き上げた。  その足首のもげそうな痛みは笑えなかった。春斗の大声が会場に響き渡る。  ゆっくりと、もう片足も縛ると、両足首でY字になる。  手首の縄は結び替えられて、逆さ十字にされる。  そして、胴体に絡みつき引き裂く様な、巻鞭が飛んできた。  既に火傷をした背中も、腹も、気が狂いそうになる痛みを浴びせられる。  その、傷だらけの腹に、縄を足され、そして、引っ張り上げられると、縄に擦れて耐えきれなくなった腰の皮膚から血が滲む。  足首を降ろされると、春斗は仰向けに胴体の縄一本に全体重がかかった。  壮絶な痛みが走り、そして、バランスを崩せば頭から落ちたであろう。  そんな危うい姿にされ、清太郎がうっとりとした顔で顔を覗き込んで来る。 「絶対動くな、頭から落ちるぞ」  小声で囁く。    右手首と左足首を対角線に引っ張られ、左手首と右手首が引っ張られる。水平に身体が引っ張られ、ステージの四方に結び付けられると、春斗は歓喜に燃えた。 「うう……ふう……ふううう……」  全身が引き裂かれる拷問だ。  それは春斗にとってあまりにも気持ちがよかった。  ステージ上で人目も憚らず絶頂に達する程には気持ちよかったのだ。 「やだなぁ、いきっぱなしじゃん……」  清太郎は音にかき消える小さな声で誂いながら、春斗の股間や内股にゾワゾワと指を蠢かせると、春斗は更に強く痙攣を繰り返した。  ゆっくりゆっくりとバランスを取りながら縄を解いて床に降りる間、神経質な清太郎の顔から落ちる汗に、春斗は絶頂し続ける。  清太郎は春斗の首を捕まえて、引き上げ、濃厚な接吻を降り注がせる。  ぐちゃぐちゃと、びちゃびちゃと鳴り響く音と、我を忘れそうな春斗は清太郎に伸し掛からんと迫る。 「バックヤードに逃げろ」  小声で命令すると、春斗を思い切り蹴飛ばし、引っ叩き、ステージ脇に追い立て、階段も蹴り落とした。  春斗は膝を打ち付けて、膝を抱えてゴロゴロとステージの下で転がったが、それでも容赦なく一本鞭を振り下ろして、春斗を捕まえては固めた拳で容赦なく殴り、逃がしては反対方向に追い立て、蹴飛ばして踏み付ける。藻掻きながらなんとか逃げ切ってバックヤードまで這い蹲る春斗を執拗に暴行して、バックヤードの扉が開くその瞬間に音楽と照明が完全に落ちた。  バックヤードから、誰も使わない非常階段へと転がり出ると、春斗は清太郎のズボンを引き下ろした。 「くそ痛い……」  清太郎はうっかり勃起しても良いように、押さえつける下着を履いていた。  それも引き下ろして、しゃぶりつく。 「ははっ……」  呆れた様な声で笑いながら、春斗の頭を抑えつけて喉に無理矢理押しつける。  春斗は片手で自分のペニスを擦る。 「あっでる……」  我慢する気の無い清太郎は、さっさと春斗の口の中に吐き出して、引き剥がした。 「さむ……」  二人で慌てて中に戻って、ほっとした。   「あはははははは」  清太郎が急に笑い出し、目を細めて、春斗の顔を見つめる。 「すげえ、一番酷い痣が膝だよ」  膝を指さして、更に笑う。  笑いが止まらなくなったらしい。 「シャワー使え。着替えたら行くぞ。」  予め預けていた服やタオルを渡された春斗は、暫く呆然としてしまった。  外に出るのが恐ろしかった。 「ほら……パンツを脱ぐ!!」  清太郎に剥ぎ取られ、シャワールームに押し込まれて、お湯を浴びせられてから、拭かれる。  春斗は頭が真っ白で、何も出来なくなってしまった。  身体をタオルで包みながら、清太郎は春斗の震える唇に触れた。 「ありがとね。楽しかった……」 「清太郎さん大好き……」  ぎゅうぎゅうと抱きついた。  清太郎と春斗はタキシードに着替えた。春斗の分は毎年着ている清太郎の物とお揃いにして新たに仕立てた物だ。   「お疲れ様です……」  バックヤードを出ると、女性スタッフやお客さんを中心とした、禍々しい視線に囲まれた。  口々に褒めてくれたが、なんだかよくわからない称賛だった。  春斗は引き攣りながらその中を進む。  清太郎は涼しい顔で応えている。 「セイちゃんの青春をみたねぇ……」  年寄連中にシャンパンを渡されて、清太郎はしこたまぶつけて腫れている膝を狙って栓を抜いた。 「いたい!! でも……折れてはなさそう……」 「それは良かった。」 「酷いやつだなあ……しかも地味……」  痛いが、飛び上がるほどでは無かった。  そして、清太郎はシャンパンをラッパ飲みした。 「あ、おい! ハルくんの分!!」  爺達が嗜める。  清太郎はぶくぶくとシャンパンを口で転がしてから、シャンパングラスに吐き出した。 「うわぁ……良いんですか飲んで……」 「残したら殺すよ。」  キラキラとしたシャンパングラスを両手で持って掲げる春斗に、爺達はウンウンと頷く。 「ハルちゃん、良かったわよ。幸せになれた?」 「はい!!!」  咲に労われつつ、他のショーを見学した。  女王様とM女性のショーは煌びやかで、ストーリー仕立てでもっと華やかで輝かしいものだった。  清太郎と春斗のショーとは全然違うなと思った。  春斗は百合とユカを中心にしたテーブルにもシャンパンに呼ばれた。 「春斗さんの、潤んだ瞳で清太郎さんを見つめる姿最高でした。」 「セイ様の愛おし気な視線があるからこその良さですよね。」 「本当に愛がある感じでした。そしてあの濃厚なヴェーゼが……!」  キャーーとわざとらしく悲鳴をあげる女性達。 「仏壇蝋燭はヤバい」 「あれはヤバい」 「片足吊り上げとか……隠れゴリラのセイ様にしか出来ない……」 「胴体の縄二重だけとか……」 「エグかった……」  口々に言われる感想に目が回りそうだ。 「そんなに、やばかった……?」  春斗は恐る恐る訊ねる。 「いや、ヤバいでしょう。自分のガチパートナーでもそう簡単に出来ないでしょうね。」  百合が憮然とした態度で言う。 「いやーー百合様の結婚祝いラブラブ流血上等ショーもヤバかったですけどね……旦那様は顔面蒼白で白目剥いてぶっ倒れたじゃないですか……お客さんもお祝いムードからのショックのあまり体調不良に……地獄絵図でしたよ……旦那様の血の池地獄……」  ユカが引き攣った顔で言う。 「そうだっけ……興奮して覚えてないんだけどね。」 「パートナー持ち! 羨ましい! 羨ましい!!」  女性達の席は随分と賑やかだ。  このグループに入らない、別のテーブルの清太郎ガチ恋ファンからはそれはそれは恐ろしい目線を向けられたりもした。  いつか刺されるのでは無いかと思わされた。    締めは咲と百合による、ダブル観客調教ショーだった。  ショーというより、咲と百合の大乱闘スマッシュシスターズだった。  群がるマゾが叩きのめされ、ステージから蹴落とされてはよじ登って行く大盛りあがりだ。 「春斗も行けば?」 「嫌です、今日は清太郎さんでぎちぎちいっぱいになりたいんです。」  清太郎は、ふふっと笑った。

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