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興奮の後
家に帰ったのは二次会三次会四次会を終えた朝だった。
飲み過ぎた清太郎はトイレでずっと吐きまくり、吐きながら寝ようとするのを叩き起こして水を飲ませ、服を脱がせてソファに倒れた。
「水商売って過酷ですね……」
土気色になった清太郎に経口補水液を飲ませ続けた。
恐らく隣の部屋では咲が同じ事になっている。
あまりにも過酷だ。
翌日も頭痛で苦しむ清太郎に薬やお粥を与えて過して、夕方にやっと復活した。
「毎年の事だけど……翌日は無だ……温泉行こう……」
「温泉……いいですね。いつ行きますか?」
「今から」
「マジですか……?」
「マジです。明日も休みだろ?」
「まあ……三連休にしましたから……」
すぐに馴染みの温泉宿に電話をして、あっさりと予約してしまう。
「ナビ入れたから、運転任せる。」
「はい。」
きっと自分まで酔ったらいけないだろうと、控えめに飲んでいた春斗は二日酔いですらない。
「本日のお部屋はこちらでございます。露天風呂付きですので、お好きな時間にお楽しみください。お夕飯は1時間後でよろしいでしょうか?」
「よろしくお願いします。」
仲居さんが立ち去ると、清太郎は無造作に服を脱ぎ散らかして外へ出た。
「うぅ……さむっ……」
ザバザバとかけ湯をして、お湯に浸かった。
春斗も脱ぎ散らかしを拾って畳みつつ、後に続いた。
浮腫みの残る清太郎の目はいつもより細いのに、お湯に浸かって更に細められる。
「はぁ……終わった終わった……」
「終わっちゃいましたね……」
「酷い傷だな……」
透明な湯の中で、春斗の痣が揺れる。
「この温泉、打撲と火傷に効くんだよね。まあ、温泉って何にでも効きそうな感じするけど。」
「あのですね、今のところ火傷がお湯に負けて尋常ならざる痛みです。」
はははと笑って清太郎は春斗の傷に爪を突き刺す。
「いいい!!!!」
「ほんと、馬鹿だな。こんなことされても離れずに酔っ払いの介抱して、温泉にまでついてきちゃって。」
「嬉しいですね。傷が残るの。セイ様の所有物って感じがする。」
「本当にどうしょうもない馬鹿だな。」
清太郎は、くるりと背を向けて、春斗の胸に寄りかかった。
初めて一緒にお風呂に入った日を思い出す。
首元に鼻を寄せて、生ぬるい空気を吸い込む。
「落ち着く……やっと清太郎さんに甘えられる……」
「頑張ったね、春斗。」
肩にある春斗の頭を抱える様に撫でる。
「うん……僕頑張りましたよ……いっぱい褒めてくださって良いですよ……」
「偉いね。おかげで楽しかったよ。」
「うぅーー清太郎さんーー痛かったぁ……辛かったぁ……寂しかったぁ……大好き……」
「春斗が居て良かったよ。」
向き直って、胸に春斗の頭を抱え込み、宥める様に頭を撫でる。
「腹減ったな……」
ざばりと立ち上がる。
「えぇ……空気……ハッピータイム……」
「食後にもう一回風呂入って、それから春斗とグズグズセックスするんだから。俺は忙しいんだよ。」
「それは大忙しです。お供します」
「豪華……」
夕食の支度には女将自らやってきた。
「当日なのにすみません。」
「何となくくるかな〜と思ってましたので。先日、お母様達もいらしてましたよ。」
「仲良いよね〜」
「ほんとに。最初聴いたときはびっくりしましたけどね。」
「親子程離れてる不倫相手とその正妻と更にそのガールフレンドが旅行って信じられないよね。常識を疑うよ。」
女将は、長い付き合いらしく気さくだ。
「この前ユウに会いましたよ、元気でした。パートナーとも相変わらず仲良くて。」
「もう少し帰ってきたら良いのにね。」
「騒ぎになるね。」
「ファンの方にも支えられてるのよ。それに彼氏の事もバレバレなの。なかなか帰ってこないって話すと、今はアルバム作ってますとか、この前仲良くデートしてましたとか、ステージにも来てましたとか教えてくれるの。皆良い子よね。話しすぎてしまったわ、ごゆっくりね。」
「フェティシュイベントで会ったユウのお母様なんだよ。」
食事をしながら清太郎が教えてくれた。
「てっきりユウさんのご主人様の方と仲いいのかと思っていました。」
「あっちも偶然だけど知り合いだったよ。ユウがマゾなのは……もしかしたら……子供の頃に俺に意地悪されすぎたせいかもしれない……」
「まあ、それが嬉しかったのは本人の責任です。気にするだけ無駄ってものです。でも、もしかして初恋とか、ですか……? ユウさんかっこよくてかわいいし変態だし……」
「初恋ではないけど。どうかな、好みの問題かもしれないけど、春斗の方がかっこよくないか……?」
ボッと音がする程春斗は赤くなる。
清太郎は真剣な面構えで春斗をまじまじと見ていた。
「あまり誂うと本気にしますよ。」
「うーん、本当にど好みなんだよなぁ……やっぱり春斗の方が男前だと思う。」
「恥ずかしい……清太郎さんってそんな人でした……?」
「俺は割と内心はウジウジしてるけどね、今だってちゃんと伝えないで勘違いされて、逃げられたら困るなと思ってるだけだ。」
「セイ様かわいい……」
「逆だ、逆。セイ様やってる時の方がまだマシだよ。」
堂々とした口調と裏腹に、清太郎の頬はひくついている。
「僕は、今何をされても隣に居るやつですけど、その内に何もしなくても隣に居るやつになりますよ。」
「じゃあもう何もしない……」
「いや、その内です、その内、今は構ってください。構って。お願いします。」
清太郎はクスクスと笑う。髪が濡れて降りていると、実年齢よりも幼く見える。
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