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第8話 披露される愛玩奴隷 3

ーーとても居心地がいい。 一希は誰かに抱きしめられている感覚だった。さらにサワサワと身体が撫でられている感覚がする。 擽ったいが、なぜか気持ちいい。 身体中から力が抜けていって、もっと欲しい。 首筋が舌に舐められている。舌がどんどん移動している。脇も乳首も臍も足の付け根も・・・。 気持ちよくて、もっと欲しくて・・・。 でも言えない。『欲しい』なんて口に出せば、自分が自分でなくなっていく気がした。 舌が一希の後孔に降りてきた。 優しく皺を伸ばすように舐められていく。時折、息を吹きかけられる快感もたまらない。 自分を呼ぶ声がする。 『愛している』と。 その言葉を言われると、とても安心してしまう。だから委ねてしまう。すごく心地良いから。 そして、一希は快感に包まれたまま愛を囁くその誰かと身体を重ねる。 ーーそこで、一希の意識はなくなった。 目が覚めた。すごく心地良い夢だった。 あの夢をもう一度見たい。でも眠気もなくすっきり目が覚めたのは、いつぶりだろうか。 キングサイズのベッドから起きた一希は、見覚えのある部屋に既視感を覚えた。 「ここは・・・?確か・・・」 確か、食事が終わった後ゼルギウスに・・・。 ーーっ!! ゼルギウスの変態調教を思い出し、途端に羞恥で顔が赤くなる。 「くそ、あの変態淫魔め」 連れて来られてから散々な目に遭っている。 乳首やペニスを弄られるだけでなく、腋まで舐められるなんて、とにかく恥ずかしかった。あんなやつ、信じるものか。 それに・・・と一希は思った。 人間界に帰る方法はないか。あの淫魔王だというヴィンセントも、ヴィンセントの宰相だというゼルギウスも、恐らく人間界に帰してはくれないだろう。という事は、自分で帰る方法を見つけるしかない。 とりあえず一希はベッドから起きた。起きたが、身体は怠くないし、ヴィンセントが言っていたあの苦しい渇きもない。人間界に戻るなら、今しかない。 一希は部屋の扉のドアノブに手をかけた。 ガチャッ ドアは簡単に開けられた。 「開いた・・・?」 鍵をかけ忘れた?いや、あの二人の淫魔には隙がなかった。それはあり得ないだろう。 部屋から出た一希は赤い絨毯が敷かれた長い廊下を見渡した。 誰もいない。 本当に誰もいない。ここはドールハウスだ。妖魔しかいない筈だから人間はいない事は分かっているが、ここの廊下には妖魔もいない。なら、脱出するなら今しかない。 一希は着せられているシルクのガウンをしっかりと着直した。ドールハウスで最初に目覚めてから一希は下着を着用させてもらえず、これを脱げば完全に裸になってしまう。男も抱いてしまう淫魔王から離れなければ、一生帰れなくなってしまう。 ガウンを着直した一希は、壁伝いに廊下を歩き出した。廊下は赤い絨毯と灯りのためか、離れた距離に小さなライトが点灯されているだけだ。少し前方が見え難く、ガウン一枚の他は丸腰で脱出するのは少し無理したかもと後悔した。しばらく壁伝いに廊下を歩くが誰とも遭遇しない。 もう少し道なりに歩いていく。すると、階段が見えてきた。一希は下を除き込む。灯りが少ないので全体的な広さはわからないが、どうやら階段は螺旋状になっており、灯りはあるが一つ下のフロアに出るのは時間がかかりそうだった。歩いてきた道を振り返る。ところどころにしか灯りがついておらず、今戻る気にならなかった。 「行くしかない、か」 覚悟を決め一希は手摺りを持ちながら階段を降りて行った。 やはり階段は螺旋階段だった。赤い絨毯が敷かれているし、手摺りに掴まっているので転倒する事はないが、掴まりながら歩いていてもまだ最後が見えない。途中一希は立ち止まって階段に座り込んだ。 「な、なんて長いんだ・・・これ」 まだ階段は残っている。しかも暗くて前が思うように見えず、下手すれば足を踏み外して転倒してしまう。それに階段を降りている時に薄々感じていたがまたあの渇きが燻り出した。あの苦しみが発生するのも時間の問題だろう。 「急いで、ここを出ないと」 人間界に戻って、先輩退魔師の速水なら淫魔の体液を中和する方法を知っているかもしれない。 そのまま一希は手摺りに掴まりながら階段を降りていった。 階段を降りた一希は、再び長い廊下に出た。 「なんて無駄に長いんだよ」 思わず愚痴ってしまったが、誰も聞いているわけでもない。 下の階はところどころに部屋の扉があった。話し声も聴こえているから、この階には妖魔達がいる。気づかれないよう、脱出しなければいけない。 一希が歩いていると部屋越しに妖魔達の声が聞こえる。内容から売買契約のようなものか。見てはいないが、商品にされた妖魔の説明をしている声がする。それを金額を提示して成立しただのお買い上げありがとうございますだの声が聞こえる。ヴィンセントは自分を番にすると言っていたが、部屋越しから聞こえる声からして人間の自分も用済みになればこうやって売っていくのかと思ってしまう。聞いていて気持ちの良いものではなかった。 しばらく歩くとヴィンセントとゼルギウスの声が聞こえた。 瞬時に一希に緊張が走った。 話は何なのか分からないが、仕切りに【調教】と【儀式】という言葉が飛んでいる。自分に関係するのか、聞いていて恐ろしさが込み上げた。 冷や汗が垂れる。 見つかったら、どうなるのか。 あの部屋に連れ戻される。声を殺して歩く。タイミングが悪く二人がいるだろう部屋は中が覗ける程度に扉が開いている。一希は一度立ち止まる。 「(嘘だろ・・・)」 ここで二人に気づかれる訳にはいかない。 どうする。引き返す事はもうできない。ならば追われる覚悟で振り切るか。 すると中から声が聞こえた。 「入りなさい。一希」 「ーーっ!!」 中にいるヴィンセントの声が、一希を促した。

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